元勇者と魔王の娘の使い魔の話

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第1話

 お前か? 俺を勇者と呼ぶのは。

 俺はもう勇者じゃない。

 魔王は倒した。もういいだろ。放っておいてくれよ。

 もうなにもかも面倒臭え。

 ……ん? お前、どこかで見たような。



 ……ああ。髪色が違うからわからなかった。お前、魔王の娘の使い魔だな。



 仇討ちに来たってわけか?

 やめておけよ。術者であるあの娘は死んだんだ。お前にはもう、何の能力もないんだろ。

 命は大事にしろよ。

 自分の命だけあってもしょうがないって?

 お前、面倒臭えこと言うなあ。

 あの娘が死んで、自分がなんで生きてるのか考えてみろよ。

 じゃあ、俺は行くぜ。

 どこへ行くのかって?

 さあな。

 魔王軍の残党は、世界中にいるからな。



 お前、まだついて来てたのか……

 見ての通り、俺は今虫の息だぜ。ざまあねえな。

 やるなら今だぜ。

 とっとと終わらせてくれ、痛いのも苦しいのももううんざりだ。

 俺は田舎に帰って畑耕す生活に戻りたいだけだったのに。

 ……って、お前、何してんだ。

 俺を担いでどうしようってんだ。

 医者? 医者に見せてどうするんだよ。

 魔王の残党はまだいるって?

 ここで死んでどうするんだって?

 はは、お前に言われたくねーよ。


 ……あの娘が?

 本当は戦いたくなかったって?

 そう、言ってたのか。

 キラキラした森の木漏れ日や、綺麗な花や、かわいい動物、優しい歌が大好きだったって?

 それらを壊そうとする魔王が本当は憎かったって……?

 そうか。

 だからお前は……。



 おい、遅ぇぞ。いつまで待たせ……おっ?

 髪、染めたんだな。

 うん、その色のほうがお前らしいぜ。

 いってぇ、叩くな!


 さて。じゃあ行くか。

 いつまでかかるか、どこまで行くのかわからねぇ。それでもいいんだな?

 ……へへっ、いい返事だ。




 終わり


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