第19話 愚竜の嘲笑

 異世界レグザゴーヌ、そこのある辺境を牛耳るペルル商会が異世界にも密輸していると情報を得て、僕たちシャイニングメテオズはその実情を調べに来ていた。


 同時にゲオルグの故郷の長老から、ドラゴンの卵をペルル商会から取り返すよう依頼された。

 ゲオルグがシャイニングメテオズに居られるようにするための条件であり、彼も、なんだかんだで彼を仲間と認めている僕たちも気合を入れ事に当たった。


 そういう訳で、ディガの街に来たガンダルヴァは、まず港の沖合からヘルタさん達やメイガス隊を出動させた。

 飛行して港に直行して、ペルル商会の船を差し押さえる。

 出航しようとした船も、丁度戻って来て異変に気づき引き返そうとした船も見逃さず、乗り込んで行った。


 芽亜里達とパウリーネは艦長と共にペルル商会の本社に乗り込み、有無を言わせず証拠を取り押さえた。


 僕も四人一班ずつに分かれてメイガス隊と一緒に、港に停泊していた船の一つに飛びながら乗り込む。

 隊員の一人が令状を見せて積荷を改めようとしたけど、船員たちが怒鳴り散らしながら拒否した。


 そのうちの一人が襲いかかってきた。多分一人叩いてこっちの気勢を削ごうと、一番小さい僕を狙ったと思う。

 けどそいつにボディブローを食らわせて一撃で沈めたら、逆に全員静まり返って大人しくなった。


 小さいからって侮りすぎだよ。


 でもメイガス隊の仲間が引いて、「いざという時キャラ変わるなぁ…」って言われてショックだった。


 船から、そしてペルル商会から密輸に関わる帳簿や品々がわんさかと出てきた。これだけでもう任務は終わったも同然だった。しかし、


「おい! ジジイの言っていた卵はどこだ!? 出しやがれ!!」

「グエエェェ……!」

「落ち着けゲオルグ!」


 ゲオルグが半竜状態のゴツい腕で、ペルル商会の会長の襟首を掴み、持ち上げる。

 慌ててシアンさんが止めに入ってすぐに解放したけど。


 密輸の証拠は嫌と言うほど出てきたのに、もう一つの目的である肝心のドラゴンの卵が見当たらなかった。

 商会の事務所や倉庫、船も一つ残らず念入りに調べたはずだ。


 シアンさんが普段は使わない探知魔法を、パメラさんはメイガスにレーダー類のアタッチメントを体中に取り付けて、隈なく探しても見つからない。

 僕も隠し部屋とかを疑って隅々まで探した。

 そして隠し部屋が見つかってもやはり密輸品とか禁制品とか、違法な人身売買のために隠し地下牢に捕らわれていた人々とか見つかっても、ゲオルグの目的の卵だけは見つからない。

 もうこれ以上は探してない所はないハズなのに。流石にみんなも参り、ペルル商会の会長を尋問することにした。


「会長さん、ドラゴンの卵があるはずだけど知らないかしら?」

「ふん、何のことか分からないな」


 ペルル商会の会長はでっぷりと肥え太った腹の、魔物のオークと見間違えそうな醜男だった。

 ヘルタさんがその会長に質問したけど、手錠で拘束されながら、彼はそっぽを向いてしまう。


「まあ落ち着け。会長さんよ、素直に吐いたほうがいいぞ。あんたの密輸の証拠は揃った、これだけあればOCMMの法律であんたは死刑は確実だ」


 艦長がペルル商会の会長に顔を近づくけてハッキリという。


「だが取引しよう。ドラゴンの卵の在処ありかを教えてくれたら、死刑だけは免れるよう全力で働きかけてやってもいい」

「……本当か?」


 オーク男が訝しげに艦長に聞く。


「俺はこう見えて義理堅いんだ。約束は守る」

「……いいだろう」

「最初っからそうしろよ、たくっ」

「それで、卵はどこに?」

「……もうここには無い、二日前に船に乗せて出したからな」

「んだとっ!?」


 詳しく聞くと、テニーン山から持ち出したドラゴンの卵は他の密輸品と共に、船に乗せ二日前にここから西の港町に送り出したようだ。

 順調に行けば今日の夕方にも着くらしい。


「クソッタレ! 急がねえと卵がまたどっかに行っちまう!」

「落ち着け、ガンダルヴァ聞こえるか。ここからその港町までどれくらい掛かる?」

『今計算しましたが、全速力で飛べば二時間で到着します』

「という事は今すぐ向かえば、船が着く前に何とか追いつけるな。ガリプ! メイガス隊を十名付けるから、コイツらと証拠品をここで見張ってくれ。後は全員ガンダルヴァに乗れ! 急ぐぞ!」

「「「了解!」」」

「分かりました、気を付けて」


 そう言って僕たちはこの場にガリプさんとメイガス隊の一部を残して、既に立った密輸船を追うことになった。


「おい! ちゃんと約束は守れよ!」

「分かってるって」

「あの、艦長ああ言ってますけどいいんですか? あんな悪党を助ける約束するなんて」


 急ぎ足でガンダルヴァに戻りつつ、傍にいたヘルタさんに聞く。

 密輸だけじゃなくて人を売り飛ばすような奴を許すなんて、正直納得いかない。


「あらクロム、ちゃんと聞いていなかったようね? 『働きかける』とは言ったけど、『助ける』って言って無かったわよ」


 ヘルタさんは走りながらそう言って、僕に含みのある笑顔を向ける。


「艦長は約束は守るでしょうけど、それでも最終的な判断は司法に任せるでしょうね。まあ万が一聞き入れられたとしても、アレだけの事をしたんだから、良くても終身刑でしょうね」


 ……オトナッてズルいなあ。




 ガンダルヴァは船尾ブースターと、両舷に取り付けられた六枚の翼に取りつけた各種ブースターを全開にして、海上上空を全速力で飛行していた。


 大気圏内では全速力でマッハ10も出せるガンダルヴァだけど、そんなスピードを出せば艦内に加速による慣性力が働き、中にいる僕たちは後方に引っ張られる事になる。

 けれど、艦内には重力制御が働いているおかげで、少しばかり軽く艦内後方に引っ張られる感覚はあるけど、振動もほとんど無く音速超えで飛んでいるという実感は無かった。


 それはともかく密輸船に追いつけば、すぐにでも取り押さえられるよう、いつでも出撃できるよう僕たちは待機していた。


『総員、第一種戦闘配備に移行せよ!』

「艦長? 船が見えたのか?」

『ああ、だが予想外の事態が起きている!』


 突然、艦長が艦内モニターを通して慌ただしく僕たちに戦闘態勢を取るよう命じる。


「予想外って、何が起きてるのよ?」

『ドラゴンだ! テニーン山のドラゴン達が密輸船を襲っている!』

「は? 何でアイツらがここに!?」


 まさかゲオルグの手助けに来てくれた? なんて馬鹿な考えは艦長の言葉で吹っ飛んだ。


『分からねぇが、あれは船を沈める勢いだぞ。コッチにもドラゴン達が迫ってきている! 艦外スピーカーで呼びかけてるが、応答する素振りが無い!』


 目的は分からないけど、どうやらコチラの邪魔をしに来た様だ。ドラゴン達がやり合うつもりだと聞いて、みんなの顔色が変わる。


『クロム達は予定通りボートに乗り込め! 他は直ちに出撃しろ。攻撃して来るようならやり返して構わん!』

「いいのか? 同胞のドラゴンがいる目の前で?」

「俺はあいつらにそんな仲間意識とか無えよ」

『私もスピーカーで呼びかけたが、応じる気配がない。長老の意向を無視しているとしか思えない。構わない、やってくれ』


 なるべく殺さないように、と付け加えてきた。急ぎ僕たちは出撃しようと足を向けた。




 ヘルタさんに達がガンダルヴァから出撃して、遅れて僕たちが乗っているボートが出る。ボートには僕の他にパウリーネと芽亜里、そして茅が乗っていた。

 ガンダルヴァの下部後方の底部ハッチが開き、ドッキングアームに吊るされた状態でボートがゆっくり外に出る。

 ボートは宇宙、空中飛行両方の機能を持ち合わせる『カークMkⅡ』と呼ばれる、角のない鴨のくちばしのような形状の黒塗のボートだ。

 他の船に乗り移る為の連絡艇だけど、大気圏内では時速600kmを出せる高速艇だ。

 


「パウリーネ、大丈夫なの?」

「心配しないで。シミュレーションの成績いいから、それよりみんなはしっかり掴まっててね」


 ボートの操縦桿を握りながら自信満々の笑顔を僕たちに向けるパウリーネ。

 僕とパウリーネは船艇類の操縦訓練シミュレーションを受けたけど、僕は彼女には及ばなかった。

 そのため今回のボートでも彼女が操縦する事になった。


『カークMkⅡ三番機、聞こえますか? アームロックを解除します。いつでもどうぞ』

「了解、発進します」


 そんな事を考えてたら、ブリッジからナビゲーターが発進準備完了のアナウンスが聞かれる。

 パウリーネが了承したと同時に、船体のロックが外れた。そしてパウリーネは船体底部、後部のブースターを噴射しボートを飛行させる。


 ボートの窓から複数のドラゴンがガンダルヴァの周りを飛び回っていのが見え、ガンダルヴァを直掩ちょくえんしているシアンさん達やメイガス隊達と交戦しているのが見えた。


『よし、メイガス隊11番から14番はボートを援護――』

『待て、俺が行く』

「ゲオルグ?」


 艦長が僕たちの援護を命令しようとして、ゲオルグが割って入った。


『船に付きまとってる奴に知ってるヤツが見えてな。アイツに何でここにいるか直接聞きてぇ』

『……分かった。クロム達の事は任せたぞ。だが目的は密輸品と卵だからな、それを忘れるなよ?』

『おうよ』


 僕たちが乗っているボートに並んで、竜化したゲオルグが飛んでいる。

 ガンダルヴァを攻撃していたドラゴン達がこっちに気付いて、何体か火球を放ってきた。


 パウリーネは操縦桿を操り、船体を左右に振って火球を躱す。

 火球が当たった海面から大きな水柱と波が発生している。

 それを振り切り、ボートは海面スレスレを飛行しながら密輸船に迫った。


 密輸船を攻撃していたドラゴンがこちらに気付いて、やはり火の玉のブレスを吐いてきた。

 パウリーネが操るボートは難なく躱していく。


 それを見たゲオルグは雷の連続ブレスで反撃する。多くは躱されたが、二体のドラゴンにヒットする。だが大したダメージではないらしく、しびれて一瞬よろけただけだった。

 けれどもそれで敵の迎撃態勢は崩れ、パウリーネはブースターを全開にして、密輸船に一気に近づいた。


 浮かび上がり迫る漆黒の船体を目にした、密輸船の甲板で応戦していた乗組員らと、その上空でブレスで攻めていたドラゴン達は度肝を抜かれ、その場を後退した。

 そして僕たちの乗るボートが、ブースターを吹かしながら船体を傾け、甲板上を滑るように着地した。


「着陸成功! 降りていいわよ」

「い、意外とワイルドだったわね」

「あれ? もう着いたの?」


 パウリーネの大胆な操縦に、芽亜里が呆気にとられてしまった。

 ボートに乗った直後に爆睡した茅は、密輸船に取り付いたと同時に覚醒して、呑気に聞いたのだった。


「よし! 僕が船内に入って卵を探すから、パウリーネはここにいて! 芽亜里と茅はボートの護衛を頼むよ!」

「本当に一人で大丈夫なの?」

「さすがに船員たち相手に遅れは取らないよ。むしろ外のドラゴンの方が危険だから、ゲオルグがいると言っても油断はできないから二人共お願い」

「OK」「任せて」


 僕、芽亜里、そして茅がボートの外に出る。

 芽亜里達にパウリーネとボートを任せて、僕は船内に急ぐ。

 甲板で健気にも侵入者である僕を撃退しようと、武器を持ち身構える船員達が立ちはだかるけど、両手のトンファーで薙ぎ払い船員たちを大人しくさせ、僕は卵を探しに中に入った。




『よお、何でお前がここにいるんだよ、アッシュ。ジジイに頼まれて卵を取り返しにきたのか?』


 クロム達を密輸船に乗せたのを見届けたゲオルグは、密輸船の上空で同郷である灰色の鱗に覆われたドラゴンを見据える。

 アッシュと呼ばれた灰色ドラゴンは裂けた口を醜く歪ませ嫌味に笑う。


『本当にそう思っているなら、間抜けだなゲオルグ? 俺はお前を貶める為に来たんだよ』

『貶める?』

『お前はあの船にある卵を取り戻せば、長老に外に出る許可を貰えるだろう? だがそれを不可能にするにはどうしたらいいと思う?』

『あん? 卵を隠すとかか?』

『……やはり頭が回らんなお前は。割るんだよ、卵を。そうすれば条件を満たすのは不可能だ。お前は二度と山から出られない』


 呆れ気味にゲオルグに自分の目的を明かすアッシュ。彼の取り巻きも、ゲオルグを取り囲みながら下衆な笑いを浮かべた。


『それどころか、大切な卵を割ったお前は、長老から怒られるだろうな。最悪〝穴倉〟に放り込まれるかも知れんな』


 〝穴倉〟とは、テニーン山の山峰の洞窟にある、直径20メートルもある縦穴だ。

 普段は大岩で蓋をしているが、長老はここに卵や幼竜、時には手が付けられない同胞をこの穴に突き落とす。


 その穴に入れられた者は全員帰って来られる訳ではないが、帰って来た者は岩で塞がれた入口から笛のような、電子音のような鳴き声を響かせる。

 それを聞いた岩の側にいる〝刺青入り〟が岩を退かすと、同じ〝刺青入り〟として戻って来るのだ。


 100年前にある凶暴な竜が長老に襲いかかり、返り討ちに遭った事件があったが、その犯人は〝穴倉〟にいれられ、数年後に〝刺青入り〟として戻って来た。

 その性格は別人のように大人しくなり、長老に絶対的な服従を誓った。

 ちなみにそのドラゴンは今、ガンダルヴァでゲオルグのお目付け役となっている。


 だがその様子を見ていた他の竜達は〝穴倉〟を恐れ、そこに入れられるのは最も重い処罰と見なすようになった。


『おい、そんな事をしたら怒られるのはお前らだろうが? コッチにゃ仲間や見張りがいるんだぜ?』


 証人がいるのに、お前こそ頭が回らないんじゃねえのかと、ゲオルグが言外に言う。

 だがアッシュは不敵に笑った。


『数が少ないからどうとでもなると思ったか?』

『あ? 何だその自信?』


 ゲオルグが疑問を投げかけると同時に、彼の下にあった密輸船が大きく揺れた。

 何事かとゲオルグが見下ろすと、船の周りに水柱が何本も立ち、そこから青色の竜達が現れる。


 そしてに船に乗り込み、芽亜里達のいるボートを取り囲んだ。甲板にいた船員たちは恐慌をきたし、船内に逃げるものや、中には海に飛び込んでいるのが見えた。


『アイツらはサイラスの手下じゃねぇか。アイツも来てんのかよ?』

『そういう事だ、それとそのサイラスだが、お前の言う仲間の下に行ってるぞ』

『んだと?』




 アッシュの手下達に襲われたガンダルヴァとシアン達だが、機動力で翻弄しつつ彼らを抑えていた。


 お目付け役のバスクの要望に応え、メイガスには暴徒鎮圧用の装備であるスタンガン系の近接武器やテーザー銃等を主に装備していた。


 魔道士のシアンも魔法で飛行しつつ、威力を抑えた魔法でドラゴン達を叩きのめしていく。

 マルコも飛行しながらテーザー銃を撃ちドラゴンを鎮圧しようとしている。


 だが、曲がりなりにも相手はドラゴンだ。ブレスに当たればひとたまりもないし、手加減しているこちらの攻撃に丈夫な彼らは中々気絶も戦意喪失もしない。


 やや手詰まり気味なシャイニングメテオズだったが、転機は突然訪れる。

 ガンダルヴァ下方の海面から、密輸船の時と同じく、青色の竜達が水柱を上げて現れた。その中には一際大きい青色のドラゴンがいた。

 彼らのボスである、名前をサイラスというドラゴンだ。


 突然現れた敵にガンダルヴァは取り囲まれ、何体かはガンダルヴァの甲板に悠々と乗りかかった。その中にはサイラスもいる。

 サイラスは当りを見回したが、入口らしきものも、どこにバスクがいるかも分からず一瞬戸惑った。


『サイラス、何をしている? アッシュといい、お前ら長老に許しを得た上でこんな事をしているのか?』


 不意に、足元からバスクの声が聞こえ、サイラス達は驚く。

 ガンダルヴァ中央にある内蔵型ブリッジから、外部スピーカーで彼らに話しかけているのだが、そんな機械の事など知らないドラゴン達は狐につままれたような顔をする。


『聞こえないのか? 何をしに来たと聞いているんだ。返事くらいしろ』

『き、聞こえてるさ。そっちこそ俺たちの声は聞こえるのか?』


 バスクの再度の呼び掛けに気を持ち直したサイラスは、先程の間抜けな顔を隠そうと、虚勢を張り返答する。


『ああ、お前らの声はマイクが拾ってコッチに聞こえている』

『そうか、確認するがお前は今、俺たちが乗っている船に居るんだな?』

『ああ、船内でこの船の艦長の隣にいる。それで? いい加減ここにいる理由を教えてほしいのだが?』


 姿が見えずバスクの声だけしか聞こえなかったサイラスは不安だったが、目標が船にいることを知り内心喜んだ。


『理由か、それだがバスク。お前、俺たちがここにいることを長老や山の連中に秘密にしろ。そして卵を失ったら、全部ゲオルグの所為にしろ』

『何だと?』

『早い話、俺達はゲオルグの邪魔をしに来たんだ。ここで卵を失えばアイツはもう大きな顔ができない。それで奴にお灸を据えようって訳だ』

『……俺にお前らの片棒を担げと?』

『そうだ。ああ、そうそう。艦長だっけか、ついさっきも長老との会合で会ったな。まあこんな姿じゃ誰だか分からんだろうが。言っとくが俺達に口出しや邪魔をするなよ? こんな船、一気に沈めるなんて訳ないからな』


 

 確かにガンダルヴァはドラゴン達に完全に包囲されていた。

 少しでも怪しい動きをすれば、一気に攻めかかられ撃沈されるのは目に見えていた。


 現にガンダルヴァを直掩していたシアン達やメイガス隊は、空中で静止しながらガンダルヴァを見守っていた。


『……だが俺が、〝刺青入り〟が長老に服従しているのは知っているだろう? あの方に嘘を吐くなどできるわけがない』

『何を言っている? お前は100年前まで長老を倒して、自分がドラゴン達の長になるとほざいていたじゃないか。〝穴倉〟で何があったか知らんが、お前はそんなタマじゃ無かったハズだ』

『……』

『だが今、お前が俺達の言う事を聞けば、その屈辱を十分の一くらいは長老に返せるかもしれんぞ? しかも罰される事はないからな。悪い話じゃないだろう』


 サイラスは得意げに唆す。バスクの姿は見えないが、彼もプライドの高いドラゴンだ。

 コケにされたまま、大人しくしているような男ではない。乗ってくるだろう。


 まあかつての強靭な肉体は見る影もなく、今ややせ細った老いぼれだ。

 もし断っても、この数の前では何もできないだろう。


『そういう訳だバスク。俺達に協力しろ』

『……』


 数秒の沈黙の後、バスクはマイクの前で口を開いた。その答えは――

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