第18話 ゲオルグの故郷

 ある日僕たちは突然、艦長から呼び出されガンダルヴァのミーティングルームに集められていた。

 休日だったヘルタさんはブツクサと文句を言い、マジックタイムの仲間の元に行っていた芽亜里と茅はご機嫌斜めだった。


 そんな三人に内心ビビっていたけど、艦長がガリプさんを伴って入室してきた。


「あら、ようやく来たんだ? こっちはマジックタイムの打ち合わせを途中で切り上げて、急いで来たのに」

「今夜はみんなと一緒にコンサートに参加できると思ってたのに〜……ステージでサプライズ登場するって企画が台無しよ〜〜……」

「こっちも久々の家族サービスをするつもりが、妹達に泣きつかれて散々だったんだから」


 恨みがましく三人の少女が、艦長に皮肉や非難をぶつける。

 艦長はそんな彼女達の圧に耐えられなかったのか、視線を逸らし咳払いを一つする。


「ン、ゴホン! みんな揃ったな。これから俺達は異世界『レグザゴーヌ』に行くことになった。そこで密輸の調査をする事になった」

「密輸ですか? 情報源ソースは?」

「現地政府の情報機関からだ。ある企業がドラゴンといったレアなモンスター素材を、国内外はおろか異世界にまで内密で売り捌いているらしい」


 異世界間の物や人の行き来は治安維持の観点から、OCMMが厳しく管理している。

 密輸となると場合によっては、死刑にもなることもある重罪だ。


「その実態を調査して、場合によっては現行犯逮捕する事も視野に入れてくれ」

「場所はレグザゴーヌのどこだ?」

「ディガって名前の港町だ。そこのペルル商会に容疑がかかっている。そいつ等の船を――」

「ちょっと待て」


 艦長が説明している最中に、ゲオルグが突然遮った。その素行にシアンさんが眉を顰めゲオルグを窘める。


「何だゲオルグ? 人が話している最中に割って入るなんてマナーが悪いぞ。言いたいことがあるなら最後まで聞いてからにしろ」

「俺、そいつら知ってるぞ」

「……は?」


 ゲオルグの発言の意味が分からず、シアンさんが唖然とする。僕を含む周りのみんなも同じだった。


「俺達ドラゴンが縄張りにしている山にチョッカイかけてくる奴らが、ペルルから来たとか言っていたから間違いねぇ。あとディガってのも聞いた事があるな」

「……えっと、つまりゲオルグはレグザゴーヌの出身ってこと?」

「ああ、そういう事になるのか?」

「何故それを言わないんだ!!」


 ゲオルグはどこの異世界から来たのか分からず、取り敢えず保護して僕たちの隊に入った。

 それがひょんなことから彼の出身の世界が判明して、シアンさんが怒鳴った。


「いや、今聞いて思い出したんだよ。街やらショーカイやらなんか興味なかったし」

「お前という奴は……」


 シアンさんが項垂れる。怒りからか体をワナワナと震わせていた。


「けどそれなら手間が省けたわ。ゲオルグの身元があやふやだから、クロスポートに仮の戸籍を作ったけど、彼が登録世界レグザゴーヌの出身なら手続きをやり直しすれば、面倒な根回しをしなくて済むわ」


 さっきまでの不機嫌は何処に行ったのか、ヘルタさんが明るい声で言う。

 OCMMの軍はまず身元が確かでないと入れない。それは民間企業から派遣される傭兵であっても、登録世界や参加団体からの紹介による『嘱託補充要員』も同じだ。

 だからOCMMに参加していない認知世界や、未確認の異世界から転移してきた人を入れることはできない決まりだ。

 特例暫定参加したウナフェニスから来た僕たちは別だけど。


「そういう事なら任務に当たる前に、ゲオルグの故郷に顔を出して挨拶しないとな」

「へ? それ、俺も行かなきゃ駄目か?」

「当然だろう? このまま黙ってお前を連れ出す訳にいくまい」

「……俺、アイツラと会いたくねーんだけど」


 ゲオルグが露骨に嫌そうな顔をする。


「ワガママ言うな。事故とは言えお前が突然、故郷からいなくなったんだ。心配している者もいるだろうし」

「そんな奴がいるとは思えねーけど……」

「ゲオルグ」


 乗り気でないゲオルグを、パメラさんが睨みつける。彼女の前では最強のドラゴンである彼も畏縮してしまい、彼は渋々従うのだった。


「ところでレグザゴーヌのどの山があなたの故郷なの?」

「知らねーよ。山は山だろ」

「せめて何か名前は無いの〜〜……」

「もしくは近くに目印になる場所がありませんか?」

「目印ねえ……あ、そうだ」


 ゲオルグの故郷について仲間たちが聞き出す。するとゲオルグは何か思いついたようだ。


「たしか、だだっ広い砂漠が山の隣にあったな。やけに砂嵐が出ていて、危険だから入るなってジジイが厳しく言ってたな」

「砂漠……?」

「……ねぇ、その砂漠の名前って分かる?」

「たしか『エフタラサ砂漠』ってジジイが言っていたな」

「エフタ……!?」


 突然、ヘルタさん達の表情が一変した。あの何事も無関心のマルコですら目を見開いていた。その様子に僕とパウリーネが顔を見合わせる。


「みんな、どうしたんですか? その砂漠が何か?」


 つい質問するパウリーネ。彼女の言葉に全員、一瞬身じろぎして、黙り込んでしまった。

 重苦しい空気に僕もパウリーネも、ゲオルグすら戸惑って困惑したけど、やがてヘルタさんが最初に口を開いた。


「……そこに行ったことあるのよ、私達。そこで十日間も彷徨さまよったの」




 みんなの話によると、この多元宇宙には危険な場所がいくつもあり、それらはダンジョンと魔境の大きく二種類に分けられる。

 ダンジョンは人為的、自然的に関わらず形成される迷宮だ。モンスターが蔓延はびこり、罠が張り巡らされた危険な場所だ。僕の故郷ウナフェニスにもある。


 もう一つ、魔境と呼ばれるのは少し違う。ダンジョンは入口が限定的だけど、魔境は一地域と広大だから、その気になればどこからでも入れる。

 ただし一度入ったら出られる保証がない。

 それにダンジョンは危険な分、お宝やモンスターの素材といった見返りが大きいけど、魔境に関してはそう言ったリターンは保証できない。

 生還率がダンジョンと比べて低いのと、魔境に関するデータ不足からだ。


 そんな魔境の中でも、特に生還率がほぼ0という場所が五つもあり、それらは〝五大魔境〟と呼ばれる。


 リヴァイアサンやクラーケン等、巨大な海のモンスターが跋扈ばっこする大海、『ヒデュアス海』。


 年中毒の霧が充満し、多数の歪な大型昆虫モンスターが地中にひしめいている死の山脈、『フォーギフタ山脈』。


 氷と霧で覆われた巨人の世界ニブルヘイム。

 その奥あると言われ、そこに入り込むと生者も死者も二度と出られないとされる、死の女王ヘルが支配する闇の王国『ヘルヘイム』。


 海上に突然現れる嵐に飲まれると、この世のものとは思えない異形の人食い生物達がいるとされる孤島、『ソリテュード島』。


 そしてヘルタさん達が訪れたと言う『エフタラサ砂漠』の五つだ。


 旧シャイニングメテオズはかつて、異世界レグザゴーヌである犯罪者を追っていた。追われたそいつらはその砂漠に逃げ込んだという。

 彼女達はガンダルヴァの性能と自分たちの力に自信があったのもあって、迷わず砂漠に入り込んだ。けどそれが間違いだった。


 エフタラサ砂漠は巨大な砂嵐があちこちに吹き荒れ、いつどこで発生するか分からない。その砂は電波や魔力を弾いてしまい、レーダーが使えず場所も方角も分からなくなってしまうらしい。

 それでガンダルヴァはまっすぐ飛んでいたと思ったら砂漠の中を何度も周った。

 大気圏脱出や時空転移で抜け出そうとしたら、図った様に何度も砂嵐に巻き込まれて駄目だったらしい。


 そして全長50メートルを超える巨大なサンドワームが何体も砂中から襲いかかってくる。ヘルタさん達が追っていた犯罪者達も、目の前で一飲みにされた。


 そんな砂嵐と化け物に四六時中襲われ、脱出する術が無い絶望に、シャイニングメテオズはストレスが募り仲間割れを起こし、ガンダルヴァのクルーの中には発狂する者が出たと言う。


 そんな地獄を彼女たちがどうやって抜け出せたかと言うと、その砂漠にいた『ハーミティアン』という種族が協力してくれたからだ。

 ハーミティアンはコボルトの様に人型の兎の種族で、風読みと磁気を読む特殊能力を持っていた。

 彼らに道案内を頼んだ事で、みんなはエフタラサ砂漠を無事脱出できたという。


 ちなみにみんなを案内してくれたハーミティアン達は、ヘルタさん達の勧誘を断り、砂漠へ帰っていったらしい。

 正直、もう近づきたくもない場所だとみんなは虚ろな表情で語った。


「そんな事があったのですか……」


 僕は正直、自分の耳を疑った。

 どんな敵でも敵わないシャイニングメテオズがまさかの窮地に立たされた過去があったとは、驚きで開いた口が塞がらない。


「ま、まあそれはさておき、ゲオルグの話で彼の故郷が割り出せましたよ。エフタラサ砂漠に隣接する山はいくつかありますが、その中でドラゴン達が棲み処としていのは『テニーン山』という火山です。ここは先のディガの街のある地域ですから、用事を済ますのにちょうどいい場所です」


 ガリプさんがそう説明するけど、何人かはエフタラサ砂漠の近くに行くからか、顔を引き攣らせていた。


 会議が終わり、みんなオペレーションルームから出ていこうとする。けれど一人だけ、アガットが座ったまま微動だにしなかった。


「アガット? どうしたの?」


 僕が呼びかけると彼女はハッとして、急に椅子から立ち上がった。


「申し訳ありません。呆けてしまいました」

「君が? どうかしたの?」

「それが、何か考え事をしていたと思うのですが……それが何だったのか思い出せないのです」

「何それ? もしかして体調が悪いのかい?」

「そうかもしれません、一度メカニックの方々に見てもらいます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 そう言ってお辞儀をして、彼女は出ていく。

 あんな彼女は初めて見た。何かの不具合かと自分を疑ったらしく、ガンダルヴァのメカニックに見てもらうようだ。

 メカニックって僕たちは呼んでるけど、彼らの中には魔道具を取り扱う魔道技師が何人かいて、魔道具をメンテナンスする事がある。

 アガットは魔道具寄りのゴーレムで、その人たちに見てもらう事になるだろう。マリアネラさんに彼女の体について教えてもらっているから多分大丈夫だ。

 ところが、不思議な事に見てもらった彼女自身は異常なしだったと後で聞いた。




 登録世界、No.568 レグザゴーヌ

 南部地方 テニーン山


 クロスポートから異世界転移したガンダルヴァは、ゲオルグの故郷であるテニーン山に降り立った。

 テニーン山は草木が一本もない、ゴツゴツとした岩肌の火山だ。その火山に出来た谷間や洞穴にドラゴン達の縄張りとして、巣を作り暮らしている。

 そこでドラゴン達の長老の付き人である、刺青が入った人間に変身したドラゴンに迎え入れられた。


 ドラゴンは本来気位が高く、他種族になびかないモンスターだ。それでいて戦いとなると強く獰猛である。

 だが多元宇宙には、そう言った常識と違う個体やグループも見受けられる。このテニーン山のドラゴン達も、その常識と少し違っていた。


 年齢や強さで上下関係が決まっているのだが、それと別に〝刺青入り〟と呼ばれるドラゴンがいる。文字通り体中に刺青を入れている、長老の下僕だ。

 プライドの高いドラゴン達の中で大人しく、長老に絶対的な服従を誓っている。同族のドラゴン達は彼らを不気味がり、軽蔑していた。


 そんなドラゴンは艦長とヘルタ、シアン、そして同郷であるゲオルグを案内して一際大きい洞穴に案内した。

 艦長達が中に入ると、洞窟内のくぼみに蝋燭も無いのに火が灯され、中を照らしている。

 そして中には人が十数人ほど左右に分かれ座っている。どれも精悍な顔つきの男性だが、人に変身したドラゴンだ。

 中に入った艦長達をドラゴン達が全員睨みつける。明らかに歓迎してはいなかった。

 それでも艦長達は臆すことなく、刺青入りに促され、中央の床に敷かれた、と言うより草を積んだだけの物の上に座る。


「長老がお越しです」


 そんな剣呑な空気の中、奥にいた刺青入りが奥の小さい岩に向かって跪く。ドラゴン達も一斉に体の向きを岩に向けて深々と頭を下げた。


 それを見た艦長達も、同じく座りながら頭を下げる。だがゲオルグは顔をしかめて微動だにしなかった。

 隣にいたシアンが小声で、礼を欠くなと、ゲオルグの頭に手を伸ばして無理やり下げさせた。


 そして間もなく、洞窟の奥の影から、長く白い顎髭を蓄え顔に深いシワを刻んだ、浅黒い肌の頭に青いターバンを巻いた老人が現れた。

 彼が岩の上にあぐらをかいて座り、艦長達に声を掛ける。


「異世界の人間たちよ、よう参られた。わしはこの山のドラゴン達をまとめる長老、名をバルトロメオと言う」


 しわがれていたが、ハッキリした声で長老は名乗る。艦長達も各々自己紹介を返した。

 そしてゲオルグが自分たちの所に来た経緯を包み隠さず話し、その上で彼のシャイニングメテオズの編入を頼み込んだ。


「ふむ、同胞のゲオルグを保護してくれた事には感謝する。じゃがな、ゲオルグを外に連れ出す事は承服しがたい」


 長老の言葉に艦長達は表情を固くする。ゲオルグも不機嫌な顔を更に歪ませた。


「お主等も分かっとると思うが、ゲオルグは儂らも手を焼く乱暴者でな。そんな奴を傍に置いとくのは身が持たんじゃろう。悪いことは言わん。ゲオルグはここに置いていきなさい」


 確かにゲオルグは、短気でよくクロム達に喧嘩をふっかけ、時に思いも寄らない行動から、周りに迷惑をかけるトラブルメーカーだ。

 それに艦長達も頭を痛めることは度々あった。


「確かにゲオルグは若造のクセに、我々に喧嘩を挑み暴れまくる問題児。そんな者を外に出しては、我々ドラゴンが頭の足りない魔物と同類に見られては敵わん」

「まあ、元々『親無し』だった雛が、ロクに教えも受けず気ままに育ったならず者だ。これが同じドラゴンだとは誰も認めてはいないがな」


 嫌な笑みを浮かべながら、ゲオルグをこき下ろす周りのドラゴン達。ゲオルグは顔を上げ、今にも襲いかかろうとしたが、隣のシアンに抑えられた。


「(止めろゲオルグ。前にお前はコイツらが嫌で、ここを何度も抜け出そうとしたって言ってただろ。ここで暴れたら、本当にもうこの山から出られないかも知れんぞ)」


 シアンを睨みつけたゲオルグだが、自分と同等以上に強い者を認める彼は、その相手を無下にはしない気質がある。

 それにシアンは文句を言うことはあっても、侮辱するような男ではない事を知っていたゲオルグは、彼が自分を何とかシャイニングメテオズに置いておけるよう耐えている事を、頭ではなく直感的に理解していた。


 ゲオルグはちいさく舌打ちして座り直す。

 そのゲオルグの様子を見ていた長老は、何度も瞬きをして内心驚いた。


「大体、人間に与するだと? ドラゴンが人間におもねるとは何とも情けない」

「それともそこの女に、その下品な体で誘惑でもされたか、青二才?」

「あるいは逆にヘコヘコとへりくだって、そいつをおだて上げその気にさせたか? ずる賢い人間らしいな。ハッハッハッ」

めぬか」


 ドラゴン達は次第に調子に乗り、艦長達をも侮辱し始めた。だがそこに長老が一言発した。そしてその言葉は洞窟内を激しく震わした。


 長老は何もしていない。ただ怒気を発しただけだ。それが周囲を、洞窟内の全てを震わした。その場にいた者全員が、一瞬呼吸ができなかった。

 ドラゴン達も、激戦をくぐり抜けてきたシャイニングメテオズのメンバーも、目の前の人に化けた老竜に注視し固唾かたずを飲んだ。


「客人に対し、何と無礼な言葉を投げかけるか。誇り高い事と傲慢である事は別だと、何度も言ったはずじゃぞ? ……しかしあのゲオルグが、一時とは言え忍耐するのを覚えるとはのう」


 長老が小さな溜め息を一つ吐き、少し思案してから続けた。


「……ならば、条件を二つ出そう。それを満たせば、ゲオルグがお主等と共にいる事を許そう」

「な!? 長老! それでは他の若いものに示しが……!」


 近くにいた男の一人が反対しようとしたが、長老に一睨みされ、何も言えなくなる。


「本当ですか?」

「うむ、約束しよう。まあ条件は容易ではないだろうがな」

「……やってやるさ、見てろよジジイ」

「ゲオルグ! 無礼だぞ!」

「よい。それで条件じゃが、一つは人間に奪われた我らの同胞の卵を取り返して欲しい」

「卵?」

「うむ、つい三日前に人間の集団がこちらに押し寄せてな。半分は無謀にも命を落とし、残りは逃げて行ったのじゃ。じゃがその際に奴ら、卵を盗んでいってのう。それを取り返して欲しいのじゃ」

「その人間達は何処の者達なのですか?」

「この山に来るのは、儂らを素材としか見ていないペルル商会の奴らじゃ。ここから一番近い港町にいる」


 艦長達はこの後、任務でその商会をガサ入れするつもりだった。何とも都合がいい。


「分かりました。必ずやその卵をあなたがたの元にお返しいたします。……それでもう一つの条件とは?」

「うむ、それはゲオルグが二度とこの山に戻って来てはならんと言うことじゃ」

「「「……え?」」」


 二つ目の条件を聞き、艦長達は目を丸くする。そして長老の傍にいた〝刺青入り〟も長老の顔を覗き込み、同じく目を丸くした。


「ま、待って下さい。どうしてそうなるのですか!?」

「この山のドラゴンは閉鎖的での、外に出るのは掟により好ましくないのじゃ。じゃがゲオルグはそれをよく破るのでな。外に行くのならいっそ儂らとの縁を切るのが良かろう」

「い、いや、待って下さい! それはさすがにあんまりでは!?」

「何だよ? そんなんでいいのか? なら全然問題ないぜ」

「ゲオルグ!!」

「どうやら本人は納得したようじゃな」


 ゲオルグを突き放すような条件に、シアンが慌てて抗議するがゲオルグは事も無げに了承してしまった。


「念の為、見届け役を一人連れて行って欲しい。良いな?」

「は、はい」


 艦長達が承諾すると、長老の背後から、彫りの深い顔の〝刺青入り〟が現れた。彼がその見届け役のドラゴンだと皆が察する。


「そういう訳じゃ、これで会合を終えることにしよう」


 そう言って長老は立ち上がり、洞窟の奥の暗がりに姿を消した。艦長達の周りに座っていた者達も、口々に文句や陰口を叩きながら洞窟から出ていった。

 残されたのは、長老の言葉に戸惑う艦長達と、長老から目付役を任された〝刺青入り〟のバスクだけだった。




 会合が終わり、艦長達はテニーン山の中腹に留めてあるガンダルヴァの元に向かっている。その一行にバスクもいた。

 彼らは先の長老の言葉に考え事をしていたが、当事者のゲオルグは鼻歌を歌いながら歩いていた。


「何でそんな嬉しそうなんだお前は」

「だって楽勝じゃねーか。卵を取り返せばいいだけだし、二つ目の条件も全然問題ねーじゃん」

「脳天気なところは変わってないのか……」


 シアンの文句に、ゲオルグは笑いながら言う。その様子に見届け役のバスクが呆れていた。

 二つ目の条件の内容が理解出来て無いとしか思えなかった。


 だがその一行を断崖の上から忌々しく見遣る者達がいた。

 会合に顔を出していたドラゴン達だ。先程と変わって、本来のドラゴンの姿になっていた。


「ゲオルグの奴、調子に乗りやがって……」

「だがいいんじゃないか? ゲオルグが行ってしまえば、もうあのウザいのに絡まれずに済むんだから」

「あの生意気な小僧のいいようにされたままでいろと? 冗談じゃない。目にもの見せてやる」

「目にものって、どうするんだ?」

「俺にいい考えがある」


 一匹のドラゴンが、ゲオルグとバスクを見て邪悪な笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る