第15話 異色の商船

 異世界ウラノス、その宇宙の片隅にある惑星メンテー、その周囲に存在する小惑星群アステロイドベルトに次元海賊団が潜んでいた。

 これを制圧するため、OCMMはシャイニングメテオズを派遣した。そしてこれが僕の初任務となる。


「パウリーネ様、ダージリンのおかわりはいかがでしょうか?」

「うん、そうね。お願いするわ」

「こっちもね。あとクッキーもお願い」

「ZZZ……」


 ……のハズだったけど、僕たちはガンダルヴァで留守番だ。

 まだ僕たちは宇宙戦の訓練をしていない為、ヘルタさんたちに待機を命じられた。その彼女達は先発部隊として、ついさっき出撃した。

 芽亜里たちの話じゃ、多分彼女たちだけでやっつけちゃうんじやない? と言っていた。

 あの人たちなら本当にやりかねない。

 そうしたら待機しているガンダルヴァと僕たちは出番なしだ。


 とはいえ何が起こるか分からないから、艦内は第三種戦闘配備で、小惑星群の外で警戒待機状態にある。

 僕たちも念の為にメイガスに着替えたけど、待機している間に食堂で時間を潰そうとなった。


 そこでアガットが紅茶とおやつを用意してくれた。今回参戦出来ない芽亜里も加わり、パウリーネ達とちょっとしたお茶会となっている。

 茅はお茶を飲み干した途端に寝ちゃったけど。

 カフェインが効かないのかな?


 そんな彼女たちから少し離れ、僕は前にガリプさんの図書館で借りた本を読んでいた。あの女子たちの輪に男の僕が入り込む勇気がなく、一人手持ちぶさたになったからなんだけど。


「そういえば芽亜里、ゲオルグは大丈夫なの?」

「ここに来る前に見てきたけど、取り敢えず心配無いって船医が言ってたよ。まだしばらくは寝ているだろうって言ってたけど」


 パウリーネがふとゲオルグの様子を訊ねた。彼は昨日の事故(と言っておこう)で酷い目に遭い、今も寝ている。

 ただ命に関わる程ではなかったけど、今回の作戦で彼が目覚める事はなさそうだ。

 まあ、それを言うなら僕たちも今回は出番はなさそうだから、似たようなものだけど。


 そう、気が緩んでいた。僕は軍というのを、そして僕たちが戦う敵というのを甘く見ていた。


 ビーーー!! ビーーー!! ビーーー!!


 突然艦内に警報が鳴り響き、僕は椅子から立ち上がる。パウリーネ達も警報に身を固くし、寝ていた茅も目覚めた。


『敵襲! 総員、第一種戦闘配備に移行! 戦闘要員は直ちに出撃態勢に入れ! 繰り返す! 総員、――』

「敵襲!? 何で!?」


 予想外の事態に僕は動揺してしまう。パウリーネも狼狽えて僕や仲間を交互に見ていた。


「落ち着いて! 先ずアタッチメントを装着しに格納庫に向かうわよ」


 覚醒した茅が僕たちに指示を出す。普段は眠たそうにして、隙あらば寝てしまう彼女だが、目覚めたら別人の様に頼もしくなる。

 彼女の言葉に僕もパウリーネも気を持ち直す。

 僕たちは芽亜里を残して急ぎ武器を保管している格納庫に向かった。




 ガンダルヴァが襲撃される少し前。

 小惑星群の内部でヘルタ、パメラ、シアン、マルコ、これにガンダルヴァに配備されているメイガス隊五十人の内、十人を合わせた計十四名が先発部隊として出撃していた。


 そしてヘルタ達は、偵察に先行させていた三人と合流し、彼らの案内である100㎥ほどある小惑星の近くまで来ていた。

 そこに小惑星の半分程度の大きさの、海賊船と思わしき船が泊まっていた。

 周囲の星屑に隠れ、海賊船を窺うヘルタ達。そこで、ガリプと通信を取り、海賊船の形状から海賊の正体が明らかになる。


 平らな屋根の屋形船の様な形状の海賊船は、認知世界No.316ヤンクーの移民船と同じ型だった。

 その周囲に、ドラム缶型の機体の左右に作業用のマニピュレーターを取り付け、背部に取りつけた小型ブースターを細かく噴射しながら、その場で滞空しながら警戒する作業用ポッドがあちこちにいる。


 しかし妙だった。

 ガリプの話だと、ヤンクーはまだ宇宙開発に着手し始めたばかりの文明レベルしかなく、異世界に転移する技術は持ち合わせてない筈であった。

 ヘルタ達は首を傾げたが、ふとマルコがポツリと呟いた。


『例の突然転移に巻き込まれたんじゃないか? 技術を持ってないならそれしか考えられない』


 それを聞いた全員が得心した。

 しかしそうなると何故彼らは海賊をしているのだろうか? 何やら違和感を感じるヘルタ。


『それでどうするんだヘルタ?』


 暗緑色のメイガスに身を包み、その上に分厚い装甲を身に着け、右手に自分の身長と同じ程の長さの大斧を手に持ち、両肩にミサイルランチャーやビームバズーカといった付属装備アタッチメント、その他複数の装備を取り付けた重装備のパメラが作戦を聞く。


『…船に潜入しましょう。私とパメラ、そしてメイガス隊二名が密かに入るわ。上手く頭を押さえればそれでいいし、見つかったら実力行使に訴えるわ。シアンとマルコ、残りのメイガス隊は騒ぎになったら突撃して押さえて』

『了解』『それでいこう』


 そう言ってヘルタ達は小惑星の影に隠れながら海賊船に近づく。

 見張りは真面目にやっている様だったが、チェックが甘いからかヘルタ達は見つかることなく海賊船に取り付く。

 四人はパメラのアタッチメントでシステムをハッキングし、外部からハッチを開き中に潜入する。

 開いたハッチに気付き、宇宙服に身を包んだ船内にいた見張りが来たが、彼らはヘルタ達に気付く事なく、背後から忍び寄られその場で気絶させられてしまう。


 その後も見張りをやりすごしながら進み、難なくブリッジに辿り着いた。そしてドアを開けると同時に、ヘルタとパメラが突入する。

 突然の事に驚く海賊達だが、OCMMでもトップクラスの兵士二人の前にあっという間に何人か打ちのめされた。

 相手が抵抗もする間もなく、ヘルタは船長と思われる男を取り押さえてしまった。

 一応援護するハズだったメイガス隊の二人も、続いて突入したがその時にはもう終わっており、ただ唖然とするしかなかった。

 俺達いらなかったんじゃないの?

 そう思うエリート兵士二人だった。


 母船と船長を取り押さえられた海賊達は呆気なく投降した。船の食堂に構成員全員を集めたが、百人近くいた。

 その半分は女子供で、皆やせ細っていた。

 飢餓きがで限界が近かったのも素直に投降した一因だったかも知れない。


「た、頼む……命だけは助けてくれ……」


 船長が震えながら命乞いをする。見ると彼もかなり痩せていた。多分自分の食糧を仲間に分けていたのだろう。

 これには皆哀れに思い、任務に冷徹なパメラですら彼らに同情した。


「心配しないで。あなた達を見逃す訳にはいかないけど、命を奪ったり飢えさせたりはしないから」

「本当か!?」

「よかった……近くの惑星に助けを求めたけど断られたから、もうどうしようかと……」

「……ちょっと待て。それはどういう事だ?」


 捕虜達の話に違和感を覚えたシアンが訊ねる。そして聞いた話からとんだ真実が判明した。


 彼らがこの世界に転移してきたのはメンテーが救援を求めてきた日と同じだった。

 話だとだいぶ前から海賊に悩まされたというが、それだと情報と食い違う。


 更に彼らはメンテーに救援を求めたが、何故か軍が来て追い払われたのだった。

 言われてみると海賊と言うには装備が貧相過ぎて、拳銃を数丁持っているだけだった。

 この世界では宇宙船は必ず護身の為に武装するのだが、この船には機銃の一つすらない。


 どうやら彼らは元の世界ではただの民間人らしい。

 船には攻撃を受けたと思われる焦げ跡や、船体が一部吹っ飛んでいたのが見受けられる。


「でも何でメンテーは救援を求めた無抵抗な船を襲ったりしたんだ? コイツらを海賊と思ったんじゃ無いのか?」

「それが、彼らは何も言わず攻撃してきて……何が何だか…」

「だとしたらやり過ぎよ。どうしたのかしら?」

「おい、何か他に気づいた事はないか?」

「…そういえば私達がその惑星に到着した時、船が降下していました」

「船?」

「はい、その船はとても大きく、私達を追ってきた船と形が随分と違っていました……」

「そういえばその船、変なマークが描いてあったな」

「どんなマークだ?」

「何か円盤状に集まった星達の上に獅子が乗っかってたような…」

「な!? まさか帝国か!?」


 メンテーに敵である帝国の船が降下していたと知り驚愕するヘルタ達。

 だがメンテーは敵である筈の帝国に襲いかからず、何も知らない民間船の方を襲った。

 恐らく目撃者を消そうとしたのだ。


「メンテーと帝国が繋がっていたというのか!?」

「けど待て、それだと何でOCMMに救援要請を出したんだ? ありもしない海賊をでっち上げてまで?」

「……まさか!?」


 そこで気づいた。救援は罠だったのだ。

 OCMMに参加して軍事同盟を結んでいる連合は、勢力下の星系全体にシャイニングメテオズの復活を知らせていた。それはもちろん惑星メンテーにもだ。

 もし前から帝国と繋がりがあったなら、その情報を帝国に流していてもおかしくない。


 そこで帝国は今回の罠を張ったのだろう。かつて帝国を痛めつけた仇敵であるシャイニングメテオズに報復する為に。

 そして取り逃がした目撃者を海賊と偽って、誘き寄せたのだ。

 うまく沈めてくれたなら目撃者の始末の手間も省けるなんて考えていたのかもしれない。


「おい、それって!」

「ガンダルヴァが危ない!!」


 気づいたヘルタ達はメイガス隊に難民達を預け、急ぎ取って返した。




 そして――――


「何で連合の勢力圏内で帝国の一個艦隊に遭遇するんだよ!?」

「艦長! 今しがたヘルタ大尉から連絡が! どうやらメンテーは帝国と裏で繋がっていたようです!」

「マジか!? もうちょい早く報告してくれよ!」


 ヘルタ達が帝国の罠を察知したとほぼ同時に、ガンダルヴァは奇襲を受けた。


 敵はティターン帝国の灰色のカラーリングで統一された艦隊であり、やじりのような形をした、船体が1000mを超える超弩級宇宙戦艦オケアノス級が一隻。

 それを旗艦に、上部甲板が船体の倍以上の600mはある大型空母テテュス級が三隻、そして音叉のような形状の双胴型宇宙巡洋艦オケアニス級十六隻で構成された艦隊だった。


 彼らは全艦一斉射撃でガンダルヴァの上方から狙い撃った。

 幸いガンダルヴァは事前にレーダーで敵の存在を察知していた。

 船体後部のブースターから放出された噴射炎は、黄金色に長くエナガの尾羽のように炎を吹き、ガンダルヴァを急発進させ敵のレーザーの初撃を回避する事に成功していた。


 その直後に船尾から放たれる細長い炎は縮まっていき、扇の様な形状に変わる。

 そして六枚の両翼を各々動かし角度を微調整する。それらは、荷電粒子噴射、重力制御等の複数の推進装置を内蔵した翼型のブースターだ。

 緑色の六枚の翼が輝き、光の粒子を撒き散らしながら、ガンダルヴァの艦首を襲ってきた敵艦隊に向け急旋回した。

 その動きは戦艦というより戦闘機の様な機動だ。


「主砲撃て! 一番、二番ミサイル発射口はマイクロポッド弾を装填次第発射!」


 艦長の号令と共にガンダルヴァに取り付けられた武装が火を噴く。

 ガンダルヴァの甲板前部が開放した事により現れた、左右一つずつの60ミリ径の荷電粒子砲がビームを放ち、3000m先のオケアニス級二隻に亜光速で襲いかかり直撃させる。

 食らった二隻は爆発四散し宇宙の塵と消えた。


 その直後に敵空母から帝国の人型機動兵器、通称NGM――ノーブル・ギガント・メイル――が逐次出てくる。

 羽飾りを施したバケツ型の兜の様な頭部に、角張った駆体のデザインの、黒光りの十メートルを超す機械の巨人だ。

 およそ200機の帝国の誇る巨兵達が、背中と足底部のブースターを噴射しながらガンダルヴァに向かおうとしていた。


 だがガンダルヴァは今度は鳥の頭の様な船首の、目に見える左右のミサイル発射口からミサイルが一本づつ放たれる。

 それらはNGMの集団の内部まで入り込む。するとミサイルが弾け、中から無数の小型ミサイルを周囲に撒き散らした。


 近くにいた敵は避けられず直撃して爆散し、鉄屑と化してしまう。

 ミサイル直撃を免れ離れていた敵も、撒き散らされた破片を喰らい、無傷とはいかなかった。


 怪鳥の狡猾な攻撃を食らった漆黒の巨人兵達は、十数機が撃墜され三十機以上が損傷を負った。

 とはいえ軍としての被害は軽微で、敵はまだ戦意を失ってはいない。

 だがガンダルヴァの次の行動には敵全体が度肝を抜かれた。


「艦長、ガンダルヴァに搭乗していたメイガス隊は全員出撃しました」

「よし、! バリスタシステム始動! 重力制御オペレーターは艦内のG制御を始め! メイガス隊は巻き込まれるなよ!」

「了解。船首の磁界固定装置起動、プラズマ発生・放出装置起動します」

「全翼を後角に展開完了、全ブースターの推力を前方推進へ集中、進路固定完了」

「ガンダルヴァの予測加速度に合わせ演算完了、発進と同時に艦内GCフィールド調整プログラム始動します」

「周囲のメイガス隊の退避完了を確認、いつでもどうぞ」

「ガンダルヴァ、システム全開! 突撃!」


 艦長の命令を受け、ガンダルヴァブリッジのナビゲーター達が粛々と、ガンダルヴァのシステム発動のシークエンスを行う。

 そして全ての確認が終わったと同時に、艦長が号令を掛けた。


 ガンダルヴァの黄色く塗装された四角錐のクチバシの様な船首が、うなりを上げながら頂点から四つの側稜そくりょうが僅かに開く。そこから黄金色に輝く無数の粒子が放たれ、船首に纏わり付く。

 そして全翼を折りたたんだ後、船尾と翼のブースターが光り輝き、ガンダルヴァを瞬間最大速度、マッハ十五を超える速度で飛翔させた。


 向かう先は敵艦隊の左翼。

 黄金色のプラズマの鏃を輝かせ、黄金色と青緑色の羽根により暗黒の宇宙を音速を超え飛翔する巨大な矢が、敵に艦隊陣形を突破されたのを気づかれる間もなく疾駆した。

 ガンダルヴァの船首に展開されたプラズマのエネルギーに衝突された敵のNGMや戦艦は、触れた部位が瞬時に溶解しえぐられ貫かれる。

 直撃した敵は貫かれた事を知る事も無く、戦場で英霊となった者達の仲間入りとなった。


 ガンダルヴァは進路上にいたNGM八機を撃墜、オケアニス級三隻を大破、あるいは撃沈した。

 そして進路のど真ん中にいたテテュス級空母一隻が真正面から貫かれ、甲板の一部を残すのみで他は原型を留めてなかった。


 敵の奇襲を受けてから僅か二十分後に、ガンダルヴァは敵艦隊の四分の一を叩いていた。それも戦艦らしかぬ戦術を用いて。


「思ったよりも敵を削れたな」

「乗るのは半年ぶりですけど、相変わらずとんでもない船ですね……本当にこの船なのですか?」


 ガンダルヴァの性能をフル活用し、敵艦隊を逆襲することに成功した。

 その戦果に艦長は胸をなでおろしたが、傍にいたガリプは魂消たまげて開いた口が塞がらなかった。


 彼が驚くのも無理がない。彼の知る限りガンダルヴァは正式な軍艦ではなく、分類上ではクルーザーや貨物船と同じ商船に当たるのだから。


 ガンダルヴァは元々戦艦として設計されたのではなく、本来は乗せた物資や人員をどんな環境であれ、どんな場所にも無理矢理にでも送るというコンセプトで造られた船だった。

 先のバリスタシステムによる強行突破も、高速で急旋回を可能とする六枚の翼も、敵だろうが障害物だろうが突破するためのオプションに過ぎず、それに荷電粒子砲や対空砲等の装備を取り付けて戦艦の体裁を取っているに過ぎない。


 普通ならその目的の為だけに、最高水準以上の装備や機能を施した船を造る等はあり得ない。

 だがこの船を設計した者はマトモでは無かった。

 船長を始め、旧シャイニングメテオズにとっては忌まわしく、思い出したくもない人物であった。


 だがそのマッドサイエンティストの発明品が、彼らにとって大きな力になっているのも事実であった。

 その事を思い出した艦長、そしてガリプは苦い顔をしたが、そんな嫌悪感を頭から振り払う。


 目標が艦隊陣形を突破したことを、数秒遅れて気づいた帝国艦隊は急ぎ方向転換する。

 その敵艦を襲撃するはずだったNGMの軍勢も急ぎ取って返そうとする。だがそのにいた二機が、一斉射撃を受けて撃墜された。


 巨人兵達が振り返ると、そこにはガンダルヴァから発艦した、紺色のメイガスに外部装甲と宇宙戦用の付属装備アタッチメントを取り付けた、計四十名のメイガス隊がいた。


『よし、敵のNGMの軍隊を引き付けるぞ。だが無理するなよ? 俺達は陽動が目的だからな』

『分かってるっつの。いざとなったらそこの守銭奴を囮にして逃げるからな』

『テメェ、俺にポーカーで負けたからって憂さばらしする気かよ?』

『ほらほら、無駄口叩いてないで、敵が来てるわよ!』


 そんな軽口を叩きつつ、向かってきた百機のNGMを四十人のメイガス隊が迎え撃つ。

 自分達の数倍のある巨体の人型兵器が、倍以上の数で襲い掛かってくる。端から見れば過剰戦力の投入に思われるかもしれないが、彼らの使うNGMはメイガスの登場により、既に時代遅れの兵器となりつつあった。


 メイガスを着た兵士は人間大であるにも関わらず、NGM並の機動性と火力を用いる事が出来る。

 それだけでも厄介なのに的が小さい為に攻撃が当たりにくく、シールドを装備していればそれを弾く事もできるのだ。

 そんなモノが連合のおよそ六割以上の兵士に支給され、現在では帝国は連合に押されその勢力は逆転していた。


 そしてこの戦場においても、倍の数の敵であるにも関わらず、メイガス隊は機動性を駆使してヒットアンドアウェイ戦法を繰り返し、少しずつ敵の数を減らしていった。

 奇襲と数の有利を活かしきれなかった帝国艦隊は、エースを欠いた単艦部隊にいいようにやられていた。




「この調子だと私達の出番はなさそうですね」

「そうね、まあ今から宇宙に出ても足手まといになりそうだけどね」


 ガンダルヴァ底部にある格納庫に僕たちはいた。 

 敵襲と聞いて慌ててメイガスにアタッチメントを取りつけたけど、そこに備え付けられていたモニターから、ガンダルヴァの外部カメラの映像を見ていた。

 アガットと茅はその様子を見て安心していた。茅は油断はせずに覚醒状態を保ったままだったけど。


 ただ僕とパウリーネはその映像を見て、ガンダルヴァが十倍以上の数の敵に苦戦することなく、敵を蹴散らしていく様を唖然と見ていた。


「話には聞いてたけど、私達とんでもない部隊に入っちゃったわね……」

「ハハハ……」


 昨日の訓練でそれなりの結果を出したから宇宙戦に対して少し自信があったけど、外の映像を見てそんな自惚うぬぼれは完全に吹き飛んでしまった。

 あんな風にビームやミサイルの雨あられに晒されながら、縦横無尽に飛び回るなんて無茶だ。少なくとも自分の技量じゃ真っ先に堕とされるだろう。


 そう思うと共に、戦いがこちらの勝利に終わりそうな事に安堵する。

 けど異変はすぐに起きた。ガンダルヴァが突然大きく揺れたのだった。そしてさっきまで外の様子を映していたモニターに艦長の顔が映った。


『茅! 聞こえるか⁉』

「艦長! どうしたの⁉」

『やられた! 敵艦隊の後方にメンテーのステルス艦が隠れていやがった! 取りつかれて既に艦内に敵が侵入している!』

「! 分かった! 撃退するわ! 芽亜里もこっちに来てくれる⁉」

『さっきブリッジから出ていった! 敵の所に直行しているハズだ! 場所は左舷後方、機関室付近だ! 急いでくれ!!』

「三人共聞いたわね! 急ごう!」

「イ、イエッサー!」「分かったわ!」「かしこまりました」


 敵の侵入を聞き、僕は焦るけど茅の呼び掛けに気を持ち直し、格納庫を後にした。

 これが兵士としての僕の初陣となった。

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