第2話 ヤマタノオロチ

「違う…世界?」

「どういう意味ですか?」

「文字通りの意味です。私たちはこの世界とは違う時空からして来たんです」


 人間の女性、ヘルタの言葉の意味が分からず僕は呆然としてしまう。ヘルタは続けて説明する。


「つまりあなた方のいるこの世界の他に、自然法則や種族、文明等が違う世界がいくつもあるんです。それらは異世界や別宇宙と言い、まとめて【多元宇宙】と呼ばれています」

「えっと…つまりいろんな国があるように、僕たちの世界の『外』にも世界があると?」

「あなたたちはその外の世界から来た人間なのですか?」

「そういう事になります」


 あまりの話に僕は、いや多分他の皆も目が点になってる。ただ彼女の話が本当なら彼女達がここにいるのも納得がいく。けれどもロベルトさんは疑っているようだった。


「待て待て、世界がいくつもあるだと? そんな事があるハズないだろう?」

「けどロベルトさん、そう考えれば、昔滅んだ人間がここにいる事も、彼らが僕たちが見たこともない武器を持っていることも説明がつくじゃないですか」

「ハッタリかも知れんだろう? ひょっとしたら彼らが我々の知らない何処どこかでひっそりと生き延びていて、そこで妙な武器を独自に作ったとも考えられるぞ。お前達の話が本当なら何か証拠はあるのか?」

「ん〜…そう言われると難しいかな?」


 ロベルトさんの指摘に肩をすくめるヘルタ。そこに彼女の仲間が話に割って入った。


「ヘルタ大尉! ガンダルヴァから入電です! あと五分でこちらに到着するとの事!」

「場所は?」

「この城の真上です」

「丁度いいわ。さっき言ってた証拠を見せられるかもしれませんよ?」




 ヘルタに促されるまま、バルコニーに出た僕たちは彼女の言われるままに空を見上げる。


「あと10秒、9、8、……」


 外に出たと同時にヘルタが腕につけた時計を見ながら秒読みを始める。

 見た目は金属の腕輪にガラスを貼り付けたようなもので、彼女が秒読みをしなかったらそれが時計と気付かなかった。


 そして彼女がゼロを口にすると空に異変が起きた。

 上空に巨大な真っ白な漏斗の様なものが現れ、広い縁側から白い光を撒き散らしている。


 そしてその中心から、ゆっくりと巨大な六枚の翼を持つ緑色の鳥みたいな物が現れた。

 白い漏斗が消えた後、巨大な鳥はゆっくりと降りてきて、六枚の翼を折りたたんで僕達のいるバルコニーの横にピタリと止まってしまう。

 

 それは船だった。全体がエメラルドグリーンのカラーリングで、先端が鋭く尖った黄色の四角錐の船首、その上に並ぶ二つ水色の穴があり、鳥の顔を模していた。

 船体はやや丸みを帯びた長方形の箱型で後方がややすぼんでいて、鳥の翼のような巨大な翼が両舷に三対、取り付けられている。

 そして最後尾に大きな箱の様な物が四つ取付けられ、その中の二重の輪が炎や煙を出さずに黄金色に燃えていた。


 その船の甲板の一部が開き、中からヘルタが着ている色違いのスーツに装甲と、前面にガラスを嵌め込んだ兜を着けた誰かが現れた。

 翼がない代わりに、船と同じく二重の黄金の輪が埋め込まれた箱を背負い、火の吹かない炎で飛んで僕たちの前に降り立った。


「ヘルタ大尉、お迎えに上がりました。あの、そちらの人達は?」

「それは後で説明するわ。取りあえず艦長に彼らの乗船許可を貰って」

「了解」

「……ねえロベルト、彼女達がこの世界の人間なら、今頃は獣人わたしたちが人間に支配されていると思うんだけど……」

「……」


 あまりにも高度な技術で作られたと思われる、空飛ぶ巨大な船を目の当たりにした僕たちは圧倒されてしまった。ロベルトさんも開いた口が塞がらない。


 ヘルタに案内されるまま船に乗った僕たちは、船の兵士に剣などの武器を取り上げられそうになったけど、ロベルトさんが毅然として拒否した。


 それで互いの空気が悪くなったけど、ヘルタがとりなしてその場は収まった。

 それで僕たち以外の兵士は別室に待機させる条件で、僕たちは武器を持つことを許された。

 ヘルタの側にいた兵士は危惧していたけど、「私が見張るから心配しないで」と言うと兵士は引っ込んだ。


 彼女はこの船の中でよほど信頼されているらしい。

 僕とパウリーネ、そしてロベルトさんの三人は彼女に案内されるまま船の中を進んでいった。




「話が違うじゃねぇか、人がいないって聞いたから迎えに来たんだぞ?」

「その時は本当に彼らはいなかったのよ。接触した時にはすぐに来ちゃったし」

「にしたって連絡を寄越すくらいしろ。こいつらどうするんだよ?」


 茶色の髪と髭を伸ばしっぱなしにした、ガサツな男は不機嫌そうに愚痴る。

 この船の艦長で名前はクリスというらしい。


 艦長室に案内された僕たちはソファーに座り、対面に艦長、その隣にいつの間にか白い軍服に着替えたヘルタが座った。

 その側にマルコが立って僕たちを睨んでいる。ヘルタは別として、あまり歓迎されてないらしい。


「そもそも何でこいつ等に多元宇宙の事を教えたんだ? 魔王だっけか? そいつと話してここが未確認の異世界だというのは分かってたはずだ」

「その魔王の話で気になる事があってね。ちょっと聞きたい事があるんだけど、あなた達、【ウナフェニス】って知ってる?」

「え? それって私のご先祖様でゲザメルト帝国の前身、フリーデン王国の初代国王、マクシミリアン・の事ですか?」

「ウナフェニスだぁ? じゃあここは異世界ウナフェニスなのかよ! しかもお嬢ちゃんがその子孫だと?」

「やっぱりね」


 パウリーネがウナフェニスの名前を出して驚く艦長。そして納得するヘルタ。


「あの、この世界の事を知ってるんですか?」

「ええ、断片的にだけど、この世界の情報を私たちは持ってるの」

「けどそれがどうしたんだ? こいつらが何も知らない異世界の人間には違いない。異世界人との無闇な接触はご法度はっとだぞ?」

「そうね。けど今の私達にとって彼らの力は魅力的じゃない?」

「おい、まさか…!」


 ヘルタの意図を汲み取った艦長は顔を引きらせる。ヘルタはそんな彼を無視して僕達に語りかける。


「ねぇ、あなた達、私達の仲間にならない?」

「「「――え?」」」

「おい! 本気かヘルタ!」

「本気よ。正直人手不足だし。それにあの噂のウナフェニスの力を借りられるなら、ちょっとは横紙破りしてもいいじゃない?」


 何やら勝手に話が進んでいく。ロベルトさんは慌てて相手の意図を聞き出そうとする。


「おい待て! 何でそうなる!? まず事情を話せ!」

「あ、ごめん。勝手に話を進めようとして。実は私達、今厄介な事に巻き込まれているの」

「お前なぁ! それ機密事項だぞ!?」


 何やら重要そうな秘密を、艦長の制止を振り切って話し出すヘルタ。


 彼女の話によると、世界と世界の間には次元の壁があり、それにより異世界間を行き来する事が簡単にできないという。

 この次元の壁を超えるには特別な装置や、大掛かりな魔法を使う事になる。

 ただ、不用意な異世界間の接触は、お互いにとてつもない影響を及ぼし、場合によっては世界が滅亡する事もあるらしい。


 ところが一月くらい前から、何の前触れもなく異世界への転移現象が起こるようになった。

 しかも確認できただけでも十六件もあるという。ちなみに最後の十六件目の転移は、ヘルタ達がここに来た事だという。


 原因不明のこの現象はこれからも続くと見られ、放っておけば多元宇宙全体が混乱を起こし、多くの世界が滅ぶかも知れないと彼女達は警告した。


「それは私達の世界もですか?」

「そりゃそうだろ。現にヘルタ達が現れたし、それでお前らかなりショックを受けているだろうが」

「その転移現象の規模は!?」

「最大で都市一つが丸ごと転移してる。今もOCMMが軍を派遣して街を隔離して、住民を元の世界に送還している最中だ」


 僕たちの知らないところで、危機が迫っていると知らされ愕然がくぜんとする。

 魔王以上にとんでもない事だった。


「それで今、私達はその現象が起こった時に対応する為の部隊を編成しているの」

「それで私達にその部隊に入って欲しいと?」

「そういう事。ウナフェニスの力はとても強力だって聞くわ。貴方達が入ってくれると助かるのだけれど」

「それは噂だろ? コイツらが本当に頼りになるかは、力を見ないと分からないじゃないか。そもそもOCMMに参加してないのに徴兵も雇用もできないだろ」


 いろんな世界が大変だから力を貸してくれと言われても、急すぎる話に僕たちは戸惑うばかりだった。


「あ、あの! 事情は分かりましたが、急にそんな事を言われても困ります! 僕たちは今からでも帰って魔王が倒れた事を報告しないといけないんです!」

「そう言っても、俺達もハイそうですかと帰す訳にはいかないんだ。許可なく異世界に関する知識を持ち帰らせる事は許されないからな」

「おい待て! その言い方だと俺達を拉致するつもりか!?」

「なる程、それが一番手っ取り早いかもな」

「ちょっとマルコ!? 私達は次元犯罪者じゃ無いのよ!」


 雲行きが怪しくなり、僕たちは帰ろうとするが、艦長から脅迫とも取れる言葉が出て険悪な空気が出る。

 更にその空気をずっと黙っていたマルコが最悪なものにする。ヘルタもこれには驚いたようだった。


「だが秘密を漏らさない為にはそれが一番だ。彼らを連れていけば、心変わりして協力的になるかも知れんぞ?」

「勝手なことを言わないで下さい‼ 仮にも皇女である私を拉致しようなんて、帝国を敵に回すつもりですか!?」

「黙れ小娘」


 勢いで立ち上がったパウリーネがマルコに詰め寄り抗議するが、彼に突き飛ばされてしまう。そのまま彼女は床に倒れてしまった。


「姫! 貴様――」

「お前何やってるんだ!!」


 パウリーネが突き飛ばされたのを見て、僕は怒り狂ってしまう。

 そして幻獣紋を発動させてしまう。近くにロベルトさんがいたにも関わらず。


 発動したと同時にどす黒いオーラが僕の体から現れ、体中に黒線が伸びて張り巡らされる。

 そして黒線の一本が僕の体から飛び出し、それは黒い蛇に変わった。


 黒蛇は飛び出た拍子に、側にいたロベルトさんを吹き飛ばす。ロベルトさんは衝撃で強く壁に打ち付けられ、彼の体から鈍い嫌な音が出た。


「ロベルトさん! しまった! 止まってくれ、頼む‼」


 ロベルトさんにケガをさせたことで、僕は我に返ったが遅かった。黒蛇は僕の体と繋がったまま、目の前にいたマルコに襲い掛かった。


 彼は身構える間もなく、ロベルトさんと同じように吹き飛ばされ壁に叩きつけられ気絶する。

 こうなったら僕にこの黒蛇を止める事は出来なかった。


「お、おい! なんだこれは⁉ これが幻獣紋ってヤツなのか⁉」

「クロム⁉ 落ち着いて! 私は大丈夫だから!」


 その様子を見ていた艦長は、腰を抜かしてソファーからずり落ちてしまう。

 パウリーネは僕を呼び止めるが、何もできない彼女は倒れたままその場を動けないでいた。


 ただ一人、ヘルタはソファーから立ち上がったが、しばらく僕と黒蛇を観察していた。


 黒蛇は今度はヘルタに襲い掛かる。彼女に逃げるように呼び掛けるが、彼女は右手の手のひらを黒蛇に向けた。

 そしてその手のひらから光線が放たれた。

 それは小さかったものの、魔王城の壁を破壊した光線と同じだった。


 光線に当たった黒蛇は頭が吹き飛んでしまう。だがエネルギー体に過ぎないそれはすぐに再生される。


 するとヘルタは今度はその黒蛇になんと飛び掛かる。黒蛇は再度襲い掛かるが、ヘルタは右の手のひらを発光させ、黒蛇を掴んで捕らえてしまった。

 黒蛇はもがくけどガッチリと掴まれ逃げる事ができない。


 そして彼女はそのまま僕に向かい、残った左手を発光させ僕の肩を掴んだ。僕の体から発していた黒いオーラは、ヘルタの光で押さえつけられてるようだった。


「落ち着いて! 深呼吸して、私の捕まえている蛇を引っ込めて。ゆっくりでいいから」


 言われて僕は深呼吸する。そして黒蛇を自分の体の一部だと言い聞かせ、ゆっくりと僕の体に引っ込める。

 黒蛇は元の黒線に戻り、やがて僕の体全体に張り巡らせた黒線も引っ込んだ。


 何とか黒蛇を抑えられた安心から、僕は体の力が抜け、倒れそうになった。その僕の体をヘルタが支えてくれた。


「クロム、大丈夫⁉」

「僕は心配ないよ……それよりロベルトさんを治療して。多分骨が折れている」

「わ、分かった‼」


 黒蛇が引っ込んだのを見たパウリーネは立ち上がり、僕を心配してくれる。

 けど僕はロベルトさんが気がかりで、彼の治療をパウリーネに頼んだ。


 彼女はロベルトさんに近寄り、腰にぶら下げていたナイフを鞘から抜き、彼の上にかざす。

 すると彼女の右腕に刻まれた、青白いユニコーンの頭が描かれた紋様から、角の部分が伸び彼女の持っていたナイフの刀身に宿る。

 そしてナイフから柔らかな白い光が放たれた。


 光を浴びたロベルトさんは、青ざめた顔がみるみる良くなっていく。そして完全に顔色が良くなり、彼は目覚めて自力で起き上がった。


 これが彼女の幻獣紋〈ユニコーン〉の力だった。ナイフなどの先の尖った物を媒介にして、治癒の光を放つ。

 その治癒力は、切り落とされた片腕さえくっつけるすごいものだった。その光景を見ていたヘルタ、いや、ヘルタさんも艦長も目を丸くする。


「すみませんロベルトさん。僕のせいで怪我を……ヘルタさんもご迷惑をお掛けしました」

「気にするな。俺が姫様を守れなかったのが悪い」

「いや、それなら悪いのはウチの艦長とマルコよ。あんな脅すような事を言った挙句、女の子に手を上げるなんて」

「悪かったよ……そんなつもりは無かったけど言い過ぎた。嬢ちゃん、許してくれ」

「いえ、みんな無事で良かった…」


 僕の未熟さで危うく大惨事になるところだった。ヘルタさんがいなかったらどうなっていたか分からない。

 けれどそのおかげで僕たちは少しだけど打ち解けた。


 約一名を除いて。




 マルコは駆け付けた人達に医務室に運ばれていった。パウリーネが彼を治療しようとしたけど、それは僕を含め全員が止めた。


 彼は普段無口なくせに、口を開くと悪態ばかりつく。彼にはいい薬だと、艦長は冗談めいて話していた。


「ところでクロムくん、さっきの黒い蛇があなたの幻獣紋よね? 何の幻獣なの?」


 ヘルタさんの質問に僕はビクリと体を震わせてしまう。


「わっ分かりません。幻獣紋に詳しい人も見た事が無くて。この紋を授かった時に試してみたんですけど、発動するとさっきみたいに暴走して手が付けられないんです」

「そうなんだ…その紋様ってどこにあるの?」

「僕の胸の中心ですけど……」

「ちょっと上着を脱いで見せてくれる?」


 裸を晒すのは気が引けたけど、僕は言われた通りにした。パウリーネは顔を手で隠してたけど、指の隙間から僕の裸をばっちり見ていた。


 服を脱いで上半身を露わにし、白い毛で覆われた体の胸部には小さな黒丸があり、そこから上下左右、斜めにそれぞれ黒線が伸び、その数は八本あった。


「さっき見た時はこの黒線が蛇になってたよね。これ全部そうなるの?」

「はい、最初に試しで発動した時はそうでした。発動した時はヒュドラの紋みたいに複数の蛇の頭が出たんですが、この紋様は形が違うし、あっちは毒液や毒の霧を吐いたりするんです」


 あの時は酷かった。森の中で発動させたけど、現れた八匹の黒蛇は所かまわず暴れ、周りの木々を全てなぎ倒し、近くの岩を砕き、僕を中心に大きなクレーターが出来た。

 側にいた人達が逃げて怪我をしなかったのは不幸中の幸いだった。


「蛇の頭が八つ……〈ヤマタノオロチ〉?」


 僕の幻獣紋をまじまじと見ていたヘルタさんが、何か思いついたらしくつぶやく。


「ヤマタノ……何?」

「『ヤマタノオロチ』よ。ある異世界の一地域の神話に出て来る、頭が八つある蛇の怪物なんだけど、そいつはとても凶暴で生贄の娘を何人も食べていたの。その噂を聞いたある神が、怪物がいる場所に酒を入れたかめを置いて、それを飲んで酔っ払ったところを神が討ったっていう話なの」

「敵を酔わせて倒すとは、ずいぶん卑怯な神がいたもんだな」

「けど逆を言えば、そうしなければ倒せない程強かったとも言えるわ」

「僕の幻獣紋がそれだと?」


 その話を聞き僕は身震いした。やはり僕はとんでもないものをその身に受けてしまったんだ。神すら恐れる化け物なんて。


「そんなに悲観しない!コントロールできないなら、できるようにすればいいだけだわ。さっきあなたは黒蛇を引っ込められたじゃない」

「それはヘルタさんが押さえつけてくれたからで――」

「もちろん最初からうまくいくわけじゃないわ。訓練は必要でしょうけれど。それに私達はそういった能力の研究もしているの。力になれるかも知れないわ」

「本当ですか?」

「絶対とは言えないけど、可能性はあるわ」

「……なら僕、その部隊に入ります」

「クロム様⁉」

「クロム!」


 僕の故郷の田舎では、先祖返りで周りと違うからか奇異の目で見られ、授かった幻獣紋はとても凶暴で操ることが出来ず、僕は自分が存在する価値があるのか疑っていた。


 勇者に選ばれてからも、僕は自信を持てなかった。けれど、この力を制御できるかも知れないと言われ、僕は決心した。


「ごめん、でも僕は今まで自分も、この力も嫌いだった。けれどこの力が人の役に立てるようになったら、本当に胸を張れる気がするんだ」


 僕はパウリーネを見つめ、彼女に謝る。


「パウリーネ姫、ごめんなさい。けれど役目とはいえ僕なんかと婚約するのは嫌でしたよね? これであなたを縛るものはもうありません」

「おい待て、クロムそれは――」

「分かりました‼」

「「へ?」」


 僕の言葉を聞いたパウリーネが何故か怒ったように声を荒げる。そしてとんでもない事を言い出した。


「クロム様が行くとおっしゃるなら、私もご一緒いたします!」

「なっ⁉ 姫それは!!」

「え⁉ いや、どうして⁉」

「魔王を倒したのですから私たちはもう婚約者じゃありませんか! その私を置いてどことも知れない異世界に行くなんて、あまりに無体じゃないですか!」

「いやっ倒したのはヘルタさんですよ⁉ それだと約束は――」

「何と言われようともう決めました!!」


 え? なんでついてくるの⁉ 僕の事何とも思って無いんじゃ――⁉


「お前ら盛り上がっているところ悪いが、そんな単純な話じゃないぞ? お前たちを連れていける訳じゃない」

「「「え?」」」

「さっきも言ったが、不用意な異世界間の接触はご法度だ。それはこちらが異世界のモノを持ち出したりしても同じだ。そんな事をしたら俺らの首が飛ぶ」

「な⁉ じゃあさっき揉めていたのは何だったんだ⁉」

「あれはこいつと、さっき連れていかれた馬鹿が事情も考えずに話を進めようとしただけだ。そもそも俺はお前たちを連れていくつもりは無かったぞ? ただ情報を漏らされたら困ると言っただけだ」

「えぇ……?」


 言われてみれば確かにヘルタさんやマルコを艦長が止めようとしていた。言い方はあれだったけど。


「そもそもヘルタ。お前、こいつらをどうやってOCMMに連れていくつもりだったんだよ? このままガンダルヴァに乗せていくなんて馬鹿な事言わないよな?」

「あら、その通りよ?」


 艦長の疑問に、ヘルタさんはさも当然というように言ってのけた。

 その言葉に艦長と僕たちは空いた口が塞がらなかった。

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