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  私は想う。こういった食事もまた、     

  前戯ぜんぎの一部なのではないかと…


お互いの舌を先ずはよろこばせ、脳への快感中枢を刺激する。

様々な料理が一つ、また一つと提供されるごとに快感は増幅され二人をに導くのだと。


      ーーーーーーーーーー


 前菜、最初の一皿は、白身魚の刺身風。


塩、オイル、香草、仕上げにカラスミを削り掛けてある。もしかすると醤油なども使われているのかも知れない。

フォークで刺す時の手応えを感じながら口許くちもとに運ぶとやはり、表面の柔らかさとは裏腹にしっかりとした噛み応えがある白身だ。オイルが為らないように、上手く香草が効いている。


〈なかなか期待出来そう…〉

〈この店の料理と、この店を選んだこの男…〉

 心の声がつぶや


二皿目は小さめの烏賊いかの蒸し焼き。


胴体にゲソや内臓、松の実、野菜などを詰め、あっさりとした味付けで仕上げてあるので、SPUMANTEスプマンテにも良く合う。

烏賊いかの内臓などは、滋養強壮に善いと聞く。まさに前戯ぜんぎ相応ふさわしい前菜と云える。


グラスが空にるのをみて、男がワインを注文しようと、私に問いかけた。「ボトルでいきますか?」

「ええ。」と、首を縦に振る。


 お酒の量を気にする程には、

 お酒には弱く無いつもりだ。


「次の料理は何が出ますか?」男が質問すると、「あわびのフリット」とシェフが答えた。


あわびか…」

男が呟《つぶや》くと

「濃い目のでも良いかな…」と云いながら白ワインに決めたようだ。


あわびね…」

「良く女性器をあわびに例える事が有りますよね?」と私は男に問い掛けた。

「えっ!」と男は一瞬、言葉を詰まらせた後に

「ええ、まぁ…そんな事もあるのかな」…と


「…でも、私は牡蠣かきだと思うんですよ。」「牡蠣かき外套膜がいとうまく…あのビラビラした部分なんですけど…小陰唇の肉襞にくひだにそっくりだと思いません?」


「なるほど…そういえば、そんな気もします」と男は答えてから言葉を続けた…「牡蠣かきがお好きなんですか?」

「ええ、大好き!」


      ーーーーーーーーーー


注文したワインのボトルとグラスが男の前に置かれた。

ワインをグラスに注ぎその一つを私の前に差し出すと…


「面白い方ですね。貴女あなたって」

「面白い…ですか私?」男の方向に顔を向ける。

「イイ意味でね!め言葉ですよ。」


「ありがとうございます。」


「僕も牡蠣かき、大好きですよ!」


私はグラスを挙げて男を見る。

男もまたグラスを挙げて答えた。


「素敵な夜に乾杯!」…


      ーーーーーーーーーー

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