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 男に好意を抱いていたのは事実だった。

何度かのデートを重ね、その日の私は〈今夜はかもしれない〉と、思っていた。


 これまでのデートでは、翌日に予定が有ったり、仕事の都合などで帰宅を余儀よぎなくされ、余りゆっくりとは出来ていなかったのだが…


この日のデートはお互いに、翌日の予定が無い日をあらかじめ調整しておく事が出来ていた。


はからずもこの日は私にとってでもあり、若干の期待を後押ししていたのは事実だった。


      ーーーーーーーーーー 


 男が予約したイタリアンはカウンターだけの小さな店だった。店主一人で切り盛りしている為、時間を気にする様なシチュエーションには不向きだが、今日の二人には『ちょうど良い店』だったのかも知れない。


料理は、お任せのメニューで、その日仕入れた食材をメインに組み立てているようだ。

店主が毎日、市場いちばおもむき、みずから厳選した素材を使い、何が出来るのか…? 何を創るのか…? と、常に頭を働かせながらの提供である。


その日のメニューは全部で6皿、デザートを入れれば7皿にもなる。

その7皿を、ゆっくり時間を掛けしょくする。


《なんだかSEXみたい》

男の…唇を、指先を、分厚い胸を、そして男根を…しょくする。

そう、ゆっくりと時間を掛けて…

吸い込み、め、あるいはかじり、飲み込む。全てを迎え入れ、力尽きて果てるまで…

《こんな事、思うのは私だけだろうか?》


      ーーーーーーーーーー


 APERITIVOアペリティーボSPUMANTEスプマンテを頂き。

  先ずはCINCINチンチン


 時間を気にせずに、ゆったりとした

   二人の食事会の始まりだ。


 

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