第36話:月の精霊アルフェンリル。

シルビリアースについた俺たちは、まず世界樹に向かった。


その木は想像した以上に大きかった。


(この木がすべての生命を担ってるのか?)


俺は大きな木を見上げた。

以前は枝々に黄金の葉をつけていたらしい。

今は葉も落ちて枯れ枝になっていた。


周りに暗闇の妖精とやらが無数に飛んでいて光をさえぎっていた。


「さて、のんびり眺めてる暇はありません」

「私とリンデ様とセイ様は月へ飛びましょう」


ルートガルザが指示した。


「こちらはヴァーラにお任せします」

「気をつけてくださいね・・・あなたを失ったら私は生きていけませんから 」


「またハグしたくなってきちゃった」

「ルートガルザ・・・かならず生きて後で会おうね」


「はい、かならず」


く〜俺も言いたい・・・そんな殺し文句。

ってかさ、この物語、途中からルートガルザの独断になってないか?


俺とリンデの物語なはずだろ?

まあ、でも今はルートガルザだけが頼りだから、しょうがないか。


「リンデ、俺たちはずっと一緒だからね、離れないからね」

「私、セイちゃんにくっついてく」


ルートガルザと俺とリンデは、さっそく月へ飛んだ。

アルフェンリルの住処はすぐに分かった。

だいたいの場所はルートガルザが知っていたから手間取るようなことはなかった。


アルフェンリルの住処は立派な城だった。

なんかドイツにあるノイシュヴァンシュタイン城みたいだった。

もし俺たちの月に、あんな城が普通にあったら大変なニュースになってる

ところだろうな・・・。


城の前まで来ると、門の両側に衛兵みたいな人が立っていた。


「私が先に門番と話してきましょう」


ルートガルザは門番のところまで行くと、になにやら話をしていた。

しばらくするとルートガルザが俺たちに向かって手招きした。


どうやら門番とは話がついたみたいだ・・・。

俺とリンデの手を引いてルートガルザの後に続いた。

城の中に入ると執事みたいた老人が現れて、アルフェンリルのところまで

案内してくれた。


アルフェンリルはオーディンのアポがあったせいか快く会ってくれた。


「そのほうがオーディーンが言っていた魔法使いか?」


「はいルートガルザと申します」


「私も、ずいぶんシルビリアースに行っていないから世俗に疎くてな」

「オーディーンを動かせるくらいの魔法使いとは並の魔法使いではないようだな」


「恐れいります、アルフェンリル様」


「それに・・・それに横にいるのはリンデブルグ・・・」

「幼い頃の面影がまだ残ってるな・・・」

「こんなに大きくなって・・・」


「え?アルフェンリル様は、私をご存知なんですか?」

「よ〜く知ってますよ」


「私の名前はアルフェンリル・シュタールエックですよ」


「えっ・・・どう、どういうこと?・・・リンデ?」

「シュタールエックって言ったよな、今」


「つーことはリンデの?・・・あの人リンデのお母さん?・・・うそお」


「わ、私の?お母様・・・アルフェンリル様が?」

「信じられない・・・」

「セイちゃん、どうしよう・・・」


「俺も驚いてるよ」


「よく来ましたね・・・あなたがオーディーンの手で世界樹によって蘇った

ことは知ってましたが、私は会いには行きませんでした」

「オーディンとはあなたが産まれてすぐお別れしましたからね」

「そして立派なワルキューレになったことも知っていました」


「なんてまあ、アルフェンリル様が、リンデ様のお母上様だったなんて・・・」

「まさに晴天の霹靂ですね」

「どうりで美しいはずです」


ルートガルデも、まじで驚いた様子だった。


「ところで、そちらの殿方は?」


「あ、この人は、あの・・・私の一番大切なです」


「大切な人?・・・」


「俺は人間です、俺の住む世界でリンデと出会いました」


俺は今までの詳細をアルフェンリルに語って聞かせた。


「そうですか・・・奇縁ですね・・・リンデの命の恩人てことですか・・・

それでリンデはその方を好きになったんでしょう?」


「そうなんですけど、今回の世界樹の寿命が尽きるって話を聞いて、俺は

リンデの命を救いたくてここまで来ました」

「世界樹とシンクロしてるリンデの命は、あの大きな木の寿命にかかっています」

「俺はリンデを助けたいんです」


「どうかお願いです、俺たちといっしょにシルビリアースまで行って世界樹の

復活に手を貸してください」

「リンデを失いたくない・・・俺の命を引き換えにしても彼女を救いたいんです」


「分かりました、世界樹の寿命が尽きようとしていることは知っていましたが、

それも運命と思って無理に手は出さず放っておこうと思いましたが、あなたの、

その命を掛けると言った情熱に心打たれました」


「さっそく行きましょう・・・と言いたいところですが、私はシルビリアースに

行く手立てがありません。

以前は、時空を超える指輪を持っていた時期もありましたが、今は紛失して

しまってます」


「それなら大丈夫です、私の使い魔がいますから、私と一緒に乗って行きましょう」


「そうですか、もしかしてあなたの使い魔はスタンジルファル?」


「そうです?ご存知なんですか?」


「その昔ね・・・オーディンと一緒にスタンジルファルに乗って月と

シルビリアースを往復したものです・・・懐かしいですね」


「そうですか、スタンジルファルは今もあなたの元で元気にしてたんですね」

「あ、ごめんなさい・・・ノスタルジーに耽ってる場合ではありませんね」

「行くと決まれば、早々に参りましょう」


「セイ様、迫真の演技でしたよ」

「命を引き換えにしてもってセリフ、泣きました・・・」


「あのね、あれは演技じゃないから・・・俺は本当にリンデのためなら

命なんて惜しくないんだよ」


「分かってますよ。それは私も同じですから・・・」

「リンデ様もヴァーラも守らなくてはね」


つづく。

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