第33話:魔法使いの浮気。

こっちの世界のことはヴァーラは何も知らないわけで、そういうことを

教えるのはルートガルザはうっとうしがって全部リンデに丸投げにした。


リンデはヴァーラに、こっちでも生活風習をいちから教えていった。

今のところリンデとヴァーラはうまくやってるようだった。


「ヴァーラ・・・こっちへ来てどう?」


「少しは慣れた?」


「時々、向こうでの刺激的な暮らしが恋しいって思うときもあるけど」

「でも、平和な方がいいね」

「きっとシルビリアースにいたらルートガルザとも、あまり会えないと思うし」

「あのさ・・・向こうではいろいろ、あったけどごめんね」


「あ〜いいよヴァーラ、私はちっとも気にしてないから」


「こっちは平和そのものだからね、争うこともないんだよ」

「誰かの命令や指示で動いたりすることもないしね」

「向こうよりは自由は多いかな」


「私、もしセイちゃんと出会ってなかったら、とっくにリルビリアースに戻ってた

と思うな・・・」

「でもよくルートガルザの告白をよく受け入れたね」


「実はね、ルートガルザとは私が幼い時、一度会ってるんだよ」

「私がアルデの暗闇の森でバルクハイド「強大な蛇の怪物」 に追われた時、

助けてくれたのがルートガルザだったんだ・・・、偶然通りかかったルートガルザが

バルクハイドを追い払ってくれて・・・。


「そのことをルートガルザは忘れてるみたいだけど・・・ わたしはちゃんと

覚えてるのにね・・・」

「その頃から、わたしはずっとルートガルザを慕ってたんだ 」

「だからルートガルザから告白された時、ふたつ返事でオッケーしたの・・・」

「ルートガルザから告られるなんて思ってもみなかったけどね」


「そうなんだ、そんなことがあったんだね」

「昔から、ふたりは結ばれるようになってたんだ・・・」

「それも運命だね」


ヴァーラはリンデの教えもあって少しづつ、こっちの暮らしに慣れていって、

もう自分がワルキューレだってことすら忘れようとしていた。


ヴァーラに付き添ってたのでリンデは夜になると一気に疲れが出て俺の相手は、

なかなかしてくらなくなっていた。


「ごめんね・・・今日は疲れたから、寝かせて・・・」


「え〜・・・まじで?」


「しょうがないな・・・じゃ〜今夜はハグだけで我慢する」


俺はリンデをハグしたまま、眠った。

エッチしようが、しまいが毎晩ハグして寝てるんだけど・・・。


それにしても、そのくらいで疲れるなんて、おかしいと俺は思った。

ワルキューレのリンデは体力だって俺より上だろう?

ヴァーラにいろいろ教えることが、それほどハードとは思えなかったからだ。

だから俺はリンデの病気を疑ったりした。

更年期障害にはまだ早いし・・・。

そんなこと言ったらリンデに怒られるだろうし・・・。


毎日じゃないが、そんなリンデの体調がすぐれない日が、時々あった。

でもそれはヴァーラも同じで、時々調子がすぐれない時があるって話だった。


ふたりともワルキューレで女神・・・何か共通するようなことが起きてる

のかもしれない。

何故か、嫌な予感が俺の胸をよぎった。


そんなある日、ヴァーラがめっちゃ不機嫌な顔で俺んちにやってきた。

ルートガリザが浮気してるっていうんだな、これが・・・。


「ヴァーラに内緒で、向こうに帰っては、他の魔法使い「女性の」と仲良く

やってるって・・・ 」

「もう、私を抱いていながら、他の女に手を出すなんて、私を裏切ったら、

呪ってやるから・・・」


ヴァーラによって運命に介入されたら、その人の未来には不幸しか残らないって

言われてるんだって・・・。

そのことはあとでリンデが教えてくれた。

だからヴェーラには呪われないようにしないとね。


ルートガルザも、怖い女を彼女にしたもんだ・・・。

まあ、俺だってもし浮気したらブリュストメイデンでリンデに叩き切られるかも

しれないし・・・。


「でもさ、なんで、ルートガルザが浮気してるなんてそんなことが分かるんだよ」


「私の使い魔が知らせに来たの」


「ヴァーラの使い魔って・・・ドラゴンのランドルス?・・・」

「そうだよ」


ちなみにランドルスは人間くらいの大きさのドラゴン。

ご多聞にもれずクチから火を吹いたり毒の息を吐いたりするらしい。


「リンデだって、使い魔いるでしょ・・・」

「私のは、私が戦に出る時に乗ってるスランジルファルって馬がいるけど・・・」


スランジルファルって馬はオーディーンが所有していた馬の中の一頭で

金色のタテガミを持っていて風のように野をかけ光より速く飛ぶって言われてる。


「ランドルスが知らせに来て、ルートガルザが浮気してるって」


「でもさ、ルートガルザってそんないいかげんな魔法使いって思えないんだけどな」


「それは俺も、思うけど・・・」


「それって本人に直接確かめた方がいいよ」

「ね、セイちゃん」


「そうだよ・・・浮気だって疑って、もしそれが間違いだったらルートガルザを

傷つけることになるんじゃないか?」


「だって・・・ランドルスが・・・」


「使い魔だって間違うときはあるよ」

「だいいち、その浮気だって情報、どこから出たものか分からないでしょ?」

「ルートガルザが、なんで向こうに行ったか彼から聞いてないの?」


「聞いてない・・・プイっと出てったから・・・」


「こういうことは、疑ったままでいたらますます猜疑心が膨らんでいるから

はっきりさせたほうがいいね」


「ヴァーラ・・・もし自分で確かめるのが怖かったら私がシルビリアースに行って

確かめてきてあげようか?


「え?でも悪いよ・・・」


「はっきりさせたいでしょ?」


「そうだけど・・・」


「セイちゃん、向こうで何があったか確かめたら、すぐ帰って来るから」

「行っていいでしょ?」


「ああ・・・分かった・・・気をつけてね」


「ヴァーラは待てって・・・」

「きっとルートガルザは浮気なんかしてないと私は思うよ」


そう言うとリンデは指輪をはめて、向こうの世界へ旅立った。


つづく。

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