第21話:お帰りリンデ。

俺は半ば諦めかけていた。

バイトから帰ってもリンデはいない・・・寒々とした部屋に俺ひとり・・・

飯はコンビニ弁当。

食ってもちっとも美味くない。


こんなにもリンデがいないことが、俺の生活に響くとは思わなかった。

前はそれでも絵里子がいたから不自由はしなかったけど・・・。


「あ〜あ・・・リンデとエッチしてえ・・・」


そこかよ、って思うかもしれないけど、結局そこなんだよ。

エッチっていうか、俺はリンデのぬくもりと優しさが欲しいんだ・・・。

もう一度会って、思い切りリンデを抱きしめたい。


ほんとにもうリンデは帰ってこないんだって思ってたんだ。

物事って案外、期待してたらガッカリすることが多いけえど、半ば諦めた時

奇跡はやってくるんだ。


その日、学校が休みだったから俺は気晴らしに街にでもでようと思ってたんだ。

そして玄関を出ようとしたら先に誰かがドアを開けて入ってきた。


「セイちゃん・・・ただいま」


俺は固まった。

一瞬なにがおきたのか俺の頭は理解できずに固まっていた。

そしてそこに現れた光景に自分の目を疑った。


「セイちゃん・・・帰ってきたよ、私」


「あ、ああ・・・リンデ」


俺はリンデを見て、ほとんど無意識にリンデに抱きついていた。


「あはは、ごめんね遅くなって・・・」


俺は嬉しくて自然に涙があふれ出た。


「リンデ、帰ってきてくれたんだ」


「セイちゃんとエッチしたくて・・・」


「えっ?」

「ああ、そう言えば俺が喜ぶと思って言ってくれたんだよね?」


「あはは、そうだね・・・半分ほんと・・・半分冗談」


「もう帰ってこないんじゃいかと思ってた・・・」


「ちゃんと帰ってくるって言ったでしょ」


俺はリンデを抱きしめてたまま、ずっと離さなかった。


「セイちゃんったら・・・気が済んだ?もう、そろそろ離してくれる?」


「あ、ごめん・・・」


で、リンデから離れた俺は彼女の後ろをなにげに見た。


「あれ?」


リンデの背後に、見たことある影が・・・


「どうも・・・スメラギ様・・・ルートガルザです」


「あ〜どうも・・・あのリンデを送っていただいてありがとうございました」


「いえいえ、感謝には及びません」

「実は今日から、私もこちらで暮らすことにしましたので、よろしくです」


「え?暮らすって・・・?」


「以前にも申し上げましたが、向こうの世界は飽きましたし」

「それに向こうに戻りたくなったら、いつでも戻れますからね」

「私は指輪など、なくても時空を飛べんるんですよ」


「あ〜そうなんですか?」

「って、もしかしてここに俺たちと一緒に住むつもりですか?」


「そんな野暮なことはしませんよ」


「それじゃ〜新婚さんの家に居候するようなもんじゃないですか?」

「私だって独身男性ですからね、ラブラブカップルのせきららな日々を

見せつけられたくはないですから・・・」


「ですから環境の良いところに住居は確保しますよ」

「田舎の方にでもね・・・」

「私は、公共の移動手段は必要ありませんから、都心から離れていても

大丈夫なんですよ」


「あ、そうなんですか・・・よかった・・・俺はまたこの狭い部屋に三人で

住むのかと思って・・・」


「私がいたらリンデさんと落ち着いて、いろいろできないでしょ?・・・いろいろ」


「いろいろって・・・あのね〜」


「ハグとかキスとか、セックスだよ、セイちゃん」


「分かってるよ・・・そんなこと」

「ああ・・・まあ・・・でも俺たちに気を使っていただいてすいません」

「あの・・・向こうの人って性に大して開放的なんですか?」


「およそ性に対しては、人間よりは進歩してるでしょうかね」

「そういう大事なコミュニケーションを、まるで不道徳のように否定したり

鍋に蓋をするようにひた隠しにするほうが間違ってるんですよ」


「ってことで、私もこれから住まいを確保せねばなりません」

「用事を済ませたら、こちらにも時々お邪魔させていただきくと思います

ので・・・」

「あと進言いたしますが、この際スメラギ様も、もう少しゆとりのある家に

お引っ越しされたらどうでしょう?」


「そのさ、スメラギ様っての止めてくれる、セイかセイちゃんって呼んで

いいからさ」


「では・・・セイちゃんではあまりに馴れ馴れしいのでセイ様にしましょう」


「セイ様って・・・飲み屋のネエちゃんに言われてるみたいじゃん・・・」

「・・・まあいいけど」


つづく。


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