第20話:シルビリアースに戻ったリンデ。

「そうですか・・・皇帝が、ご崩御なさったんですか?・・・」

「お体の具合があまり、よろしくないのは以前から知ってはいました」


「まあ次期玉座につかれる方は、すでに決まっているので

そちらは安心なのですが、皇帝の魂を導くためには、ぜひとも、あなたに

シルビリアースまで、戻っていただかないと・・・」


「困りましたね・・・もう私はこっちの世界で生活してるんですよ」


「戻ってもらわないと私も困ります」

「上の者からリンデ様を連れ戻すようにおおせ使ってるんですから」


「それで先に、使い魔を使って指輪を送ったんですね」


「はい、指輪を見たら、リンデ様のことですから私が何を言いたいのか察して

いただけると思いまして」

「しかしながら、いつまでたってもお戻りにならないので、私自らリンデ様を

お迎えにやってきたと、そういうことです」


「それにしても、なんて平和なところなんでしょうね、ここは」


「当然だと思うけど、まだ向こうでは戦いは続いてるんでしょ?」


「そうですね・・・終わらないんじゃないですか?永久に・・・」

「静かなことはいいですね・・・私も、こちらに移住してこようかな・・・」

向こうにいるのも飽きましたし・・・」

「って、いうのは、まあ冗談ですがリンデ様、私と一緒に戻ってくれますね」


「セイちゃん、どうしよう」


「ん〜リンデが必要とされてることなんだろ?」

「一度帰って、用事を済ませて、また帰ってくればいいじゃん」

「俺、待ってるから・・・」


「そうね、私、自分のお仕事を放棄するわけにはいかないからね」

「じゃ一度向こうに戻って用事を済ませたら、また帰って来るから・・・」


「それじゃ、さっそくで申し訳ありませんけど、すぐにシルビリアースに

戻りましょう・・・ルートガルザ、私を連れて行ってください」


「私は自分の杖で向こうに戻りますからリンデ様は指輪を使ってお戻りください」

「指輪を人差し指にはめたら城の場所を念じるだけでいいですから」

「まさか指輪を捨てたりなんかしてないですよね」


「捨てちゃおうかと思いましたけど、ちゃんと取ってあります」


リンデは俺の引き出しから指輪を取り出して自分の人差し指にはめた。


「では、参りましょうか」


ルードガルザとリンデはアパートの表に出た。


「セイちゃん、行ってくるから・・・」


「気をつけてねリンデ・・・」


ルートガルザとリンデは通りに誰も人がいないことを確信すると光に包まれて

消えていった。


リンデは向こうの世界、シルビリアースに戻って行った。

俺は、軽い気持ちでリンデに言ったけど内心、ものすご〜く不安だった。


向こうの世界に一度でも戻っちゃったら、やっぱり向こうの世界のほうが

懐かしくて、こっちには帰ってこないんじゃないかって・・・。

こっちいるより、向こうにいるほうが、友達だって知り合いだってたくさん

いるだろうし・・・。


リンデは無事に自分のお役目を果たせるといいけど・・・。


リンデがシルビリアースに戻ってから、もう二週間経っていた。

リンデは帰ってこない・・・


俺がアパートに帰るとすぐにリンデが帰ってきてるんじゃないと期待した。

でも部屋の中は人気もなく寂しいものだった。


「もう帰って来ないのかな・・・リンデ・・・」

「そりゃそうだよな・・・彼女だって最初は望んでこっちの世界に来たわけ

じゃないからな」


「俺が無理やり俺のアパートに連れてきたんだから・・・」


「リンデは俺の彼女になるって言ってくれたけど・・・あれだって、こっちで

生きてくためしょうがなく、ああ言ったのかもしれないし・・・」

「そりゃ、誰だって生まれて育った故郷がいいに決まってるよ・・・」


その後もリンデは帰って来なかった、そして俺はまたひとりぼっちになった。

女神様は去った・・・今度は「さよなら」じゃなく「行ってくるから」って

言葉を残して・・・。


つづく。

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