第14話:港の第三倉庫。

「あ、ごときなんて言ってごめんなさい」


「いいよ、ごときで・・・人間の中にも悪いクズはいるからな」

「悪いやつは、懲らしめないとどうしようもないんだ・・・」

「みんな生まれたときは、同じなのに、どこで道をはずしちゃったんだろうな」


「あ、それはそうと、絵里子、今度その連中と接触するのはいつなんだ?」


「三日後・・・港の第三倉庫にひとりで現金持ってこいって言われてるんだって」


「港の第三倉庫って悪い奴らには定番の場所だな」


「あんまり人が来ないからね」

「人に見られないほうが、なにかと都合がいいんじゃないの?」


「じゃ〜その日、俺たちも絵里子の弟について行くか・・・」

「どうなるか分かんないけど、脅されて金払うことなんかないよ」


「はっきり断ればいいんだけど・・・そうなると暴力に訴えてくることだって

あるから・・・充分気をつけないとな・・・」


「私がいるから大丈夫」


「リンデは自信たっぷりだな」


「ほんとに大丈夫なのか?」


「たぶん・・」


「え〜・・・たぶんって・・・」


(内心は全面的にリンデに期待してるんだよ、俺は)


実は、この恐喝事件で俺はリンデの本当の力を見せつけられることになるんだ。


そして三日後の待ち合わせの日、俺とリンデは絵里子と弟と一緒にタクシーを

拾って港の第三倉庫に向かった。


「あの・・・俺のために力になってもらってありがとう」


「お礼ならこっちの、レディーに言えよ、俺はたぶん何もできないから」


「すいません、お手数おかけします」


「大丈夫ですよ・・・お力になれると思います・・・」


弟はリンデがワルキューレだなんて知らないから、なんでか弱い女性が同行

してるんだろうって思ったに違いない。


「絵里子・・・俺、今月きびしいからタクシー代出せよ」


「セイちゃん、セコイこと言わない・・・だから女にフラれるんだよ」


「余計な御世話だよ」


「セイちゃんと絵里子さんって、今でも気が合うんですね」


「どこがだよ」


「合わないと思ったから俺の部屋を出てったんだろ?」


「私とセイちゃん、出会った頃は意気投合したんだけどね・・・」

「月日が人の心を変えちゃうんだね」


「俺は何も変わってないからな」


「気づいてないのは自分だけ・・・」


「変わったのは、おまえだろ?」


「って・・・こんな感じで口喧嘩とかしてるうちに嫌気がさしてきたの」

「リンデちゃんも気をつけたほうがいいよ・・・男なんて自己中なんだから」

「ラブラブ中のふたりに水を差したくないけど・・・これは忠告」


「余計なこと言わなくていいんだよ」


「やっぱり仲いいんですね」


「だから、どこがだよ」


そんなくだらねえ、話に夢中になってるとタクシーは第三倉庫の前で止まった。


「着きましたよ、お客さん」


止まったタクシーの前に黒塗りのベンツのUV車が一台止まっていた。

俺はタクシーのうんちゃんにタクシー代を払って三人を連れて倉庫に向かった。


「あいつら、もう先に来てるみたいだな」

「みんな気をつけろよ・・・」

「引き返すなら、今だぞ・・・」


けど、誰も引き返すとは言わなかった。

俺の気持ちは、とっくにここから引き返していたんだけど・・・。


つづく。

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