第5話:元カノとの写真。

俺の知らない世界があって、そういうところに住んでる彼女がいて・・・

なんとなく想像はできても、この目で見たことがない世界のことなんか

絵空事だった。


ワルキューレだって言われても・・・ゲームの中でか知らないし・・・。

ワルキューレのイメージってゲームやイラストでしか見たことないけど、

あれだってあくまで想像だろ?


ほんとのワルキューレって?

倒れた兵士の魂を天国みたいな場所に導く仕事を彼女はしてたんだ。

彼女が言ってることが本当なら彼女がいなくなったことで家族が心配してる

だろうし、だいたいリンデが独身かどうかも俺は知らないわけだし・・・。

もしかして向こうの世界で彼氏とか旦那がいるかもしれないじゃん。


女神だって言わなければリンデはこの世界じゃ普通の女の子と変わんない。

女神って言うくらいだから誰でも想像するのは、もっとこう威厳に満ち溢れ

てるイメージだよな。

近寄りがたいオーラ出してるとか・・・。


まあ、たしかにリンデは普通の女子にはない気品とオーラは漂ってるけど・・・。

けど、何かに特化してるってわけでもないだろう・・・。


でも自分の衣装は自分で出したよな。

それは不思議だけど・・・。

まだ他にもできることがあるのかもな。


今は、彼女を向こうの世界に返してやる手立てすらない・・・。

もし海を泳いで行ったところで、彼女、リンデの言ってる世界には、戻れない

ことくらい俺でも分かる。


リンデをアパートに連れて帰った俺は、それからリンデとの狭い部屋での

生活がはじまることになる。

彼女は、はじめて入った俺の部屋を見て「狭いね」って言った。


台所があって、すぐにワンルームのリビングがあるだけ、そこにテレビやオーディオ

ソファーと小ぶりの洋服ダンスにパソコンを置いてある机と本棚があるだけ。

あとトイレに風呂。


「悪かったな・・・この世界じゃ広くて綺麗なところは家賃がべらぼうに

高いんだよ 」


彼女に台所を見せて、


「ここで料理を作るからね、向こうで料理くらいしてただろ?・・・勝手に

使っていいから・・・」


次にトイレを見せて、


「出そうになったらここでしてね」


って言ったら、


「何が出そうになるんですか?」


って来たもんだ・・・。


「え?今更?・・・田舎の俺の家で使ってたろ?」


「こんなもの使ってません・・・」


「えっ・・・一週間ばかり出してないのかよ」


「ああ・・・そのくらいなら辛抱できます」

「戦場にいるときは、そんな悠長にしてるわけにはいきませんからね」


「まじで言ってる?・・・俺をからかってるでしょ」

「その間に一度くらい入ってるでしょ、トイレ」


「入ってないですし、からかってなんかいません」


「便秘になるぞ・・・」

「とにかく・・・おしっ・・・こと・・・ウンちゃんがしたくなたらそこで

しなよってことだよ 」


「小と大がしたくなったら、したらいいんでしょ?」


「分かってるじゃないかよ」


「あと、トイレの隣が風呂だから・・・」


「分かるよね・・・風呂くらい」

「ああ、ユニットだから床に水をこぼさないこと、分かった?」


「分かりました」


それから彼女は興味深々で机のあたりの小物や雑誌や漫画を見てひととおり

物色したあと机の上の俺と元カノのツーショット写真立てを見つけた。


「この人、セイちゃんの隣の人、誰ですか?」


「あ〜・・・思い出したくない人・・・元カノだよ」


「元カノ?・・・・って?」


「最近まで、その女性と同棲してたの・・・」

「で、別れたんだ・・・」


「どうして別れたりしたんですか?」

「大切な人だったんでしょ」


「俺はそう思ってたけど、向こうは違ってたみたいだね」

「さよならって、それだけ紙に残して出てっちゃったんだよ」

「あのさ、もういいだろ・・・嫌なんだ思い出すの・・・」


「ごめんなさい」


つづく。

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