第3話:リンデブルグ・シュタールエック。

俺は彼女を連れてアパートに帰ることにした。

彼女のことで頭がいっぱいでもう失恋した痛手さえ忘れてしまいそうだった。

そのくらい海岸に流されてきた彼女との出会いはインパクトがありすぎたからだ。


家の玄関を出たら、彼女はヨーロッパふうの衣装から、なにやら

鎧みたいな、まるで中世の戦闘服みたいな装束に着替えて俺を待っていた。


「・・・・・」


「凛々しいけど、なにその格好?・・・コスプレ?」

「つうか、めちゃカッコいいんだけど・・・」


「私の戦闘服です・・・」


「せ、せんとうふく?」


「あのさ・・・そんな鎧って言うの?、戦闘服っていうの着たまま電車に

乗るつもり?」

「たしかに凛々しくてカッコ良くて、わ〜守られて〜って衝動にはかられる

けど・・・・」


「一歩、外に出るときは、この格好なんですけど?・・・いけません?」


「ダメだとは言わないけどさ・・・けどそれ目立ちすぎるでしょ・・・」

「しかも、この日本のど田舎の風景にぜんぜんマッチしてないし・・・」

「中世から場違いな人がタイムスリップしてきたみたいだよ」


「それに背中に背負ってる、その剣?・・・剣だよね」

「それホンモノなら余計マズいからね」

「そんなの背負ってたら、銃刀法違反で捕まっちゃうよ」

「せっかく着替えて悪いんだけど普通の衣装に戻してくれない?」


「でも、これが戦場での装束ですから」


「あのね、ここに戦場なんかないからね、平和そのものだから」

「その剣で叩き切るような悪いやつもいないし」

「だいいち戦場って言うけど・・・君、どこから来たんだよ」


「ああ、そうですね、ここは私の世界ではありませんでした」

「あの〜私は、もう自分の世界には帰れないんでしょうか?・・・」


「それは俺にも分かんないけど・・・」

「そう、それだよ、君、どこから来たのってのが問題」

「どこの国の人?」

「名前は?・・・そういや、君の名前もまだ聞いてなかったよね」


「名前は・・・私の名前はリンデです」


「リンデブルグ・シュタールエック」

「リンデって呼んでください」


「私はノルンって呼ばれるワルキューレの一人で、シルビリアースって世界に

住んでました」


「なにそれ?・・・」

「ワ・ワルキューレって?・・・君、女神さん?」


俺はゲームをするからワルキューレってキャラのことは知っていた。


「あの、ファンタジーとかゲームに出てくる?」

「まさかだけど君、ゲームの世界から来たの?」


「いくらなんでも、そんなことはありません」

「神々が住む国はちゃんと現実に存在する世界です」


ワルキューレは戦場で生きる者と死ぬ者を定める女性、およびその軍団のこと。

戦場で死んだ者の魂を死者の国ヴァルハラに導く役割を担う乙女戦士。


「あの私はこれから、どうなるんでしょう?」


「そうだね・・・この田舎には置いておけないから、とりあえず俺といっしょに

俺のアパートに行くことになるね・・・君が来たところに帰れるようになる

まで・・・」

「いつまでになるか分かんないけど俺と暮らすことになるけど・・・不満?」


「行くところもないですから、ついていきます」


「じゃ〜そういうことで・・・」


「親父・・・おふくろ、世話かけたね」

「俺、この人連れて帰るから・・・」


「お前、見ず知らずの女性に手を出すなよ」


つづく。


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