第二十七話 魔族と別れ




間一髪間に合ったベテルギウスだったが、シリウスは既に満身創痍だ。


「お前達ー!スケルトンを叩き潰せー!」


騎士達が一斉にスケルトンに突撃する。


「コルとカラだったか?シリウスを頼む」


「ち、父上…」


「遅れてすまない」


そういうとベテルギウスは神と名乗る魔物へゆっくりと歩き始めた。


「お前魔族だな。ここに居て良いのか?それとも召喚されたか?対価はなんだ」


「………」


「だんまりか……」


するとベテルギウスは身体強化をし始めた。


「フィジカルブースト、ホークアイ、メンタルスタビリティ、ストーンスキン、金剛力!!ウオオオオオ!!」


「こ、これがトワイス…む、無茶苦茶だ。は、はははは」


余りに常識外れな身体強化魔法の重ね掛けにコルは笑うしかなかった。


「悪いがお前にはここで退場してもらう」


そう言うとベテルギウスは一気に仕掛けた。


強さは見るに明らか。ベテルギウスが一方的に切り刻んでいる。敵も応戦しているが余りの実力に手も足も出ないと言った状態だ。


「しかし…何故だ。何故あの状態で倒れない…」


コルが不思議そうに見ている。

ヤツはボロボロだがすぐに回復してしまう。

今はベテルギウスの攻撃が勝っているが、不死身なのか?


「うぅ…もう大丈夫」


「まだ駄目よ。無理しないで」


「もう痛くない。俺も戦う」


シリウスが立ち上がった。

腰から聖銀のナイフを出すと左手に逆手で構えた。


「こいつなら…」


シリウスは力を振り絞るかの様に向かって行った。

父と息子が二刀流で追い込む。

聖銀のナイフがヒットする度に苦悶の顔と唸り声をあげる。


「す、凄い…勝てる。勝てるぞ!」


興奮するコル。


「シリウス!どこでも良いからこいつの急所っぽい所にぶっ刺せー!」


ベテルギウスの言葉に呼応するかのようにシリウスが頚椎に刺し込んだ。


「うおおおおおおお」


「ぐぎゃあああああ」


たちまち黒い炎に包まれ、断末魔と共に消滅した。

スケルトン達も同じ様に消えてしまった。


疲れ切ったシリウスはヘタリ込んでしまった。


「立てるか?シリウス」


「ははは、やっぱり…父上には敵いません」


無事殲滅したベテルギウス達は、急いでサルガス達の下へ戻ることにした。


族長の家に着くとアケルナルと共にプロキオン達も居た。


「ここにも魔物が来てな、この子達のお陰で助かったのだ。殿下まで戦うと言って敵に突っ込んで行ったときは正直生きた心地がしなかったのだぞ」


「シリウスよ。大丈夫か?ボロボロではないか。」


「大丈夫だよ。サルガスも戦ってたんだね」


「当然だ。神子殿を守らねば国の威信に関わる」


俺達はお互いの情報を話し合い何故こんな事が起こったのかを話し合った。


「カラが言うには召喚魔術ではないかと」


「ふむ…しかし誰がなんの為に」


「俺とシリウスが戦った相手は魔族でした」


「何だって!」一同が驚いた。


するとそこにダビーが戻ってきた。


「犯人はコイツで間違いないと思うぜ」


なんとシルマの兄、マタルを拘束して連れてきた。


「何故…お兄様が…」


ダビーは説明しようとしたが…


「……悪いが殿下以外の子供は出て行ってくれなかいか。悪ぃ…」


「ちょっとー!アンタねー!私をガキ扱いするんじゃ無いわよ!」


しかしダビーの様子がおかしい事にサルガスが気づいた。


「皆すまない。今は席を外してもらえないか」


サルガスの一声で俺達は外に出る事になった。


長い話し合いの間俺はプロキオンやメイサの回復魔法の練習台になってた。

そして先程の戦いでメイサがこの森の中で広範囲火魔法を使おうとした事など、互いの武勇を語り合った。夕暮れ時には話し合いも終わり夕飯を皆で食べることになった。



翌朝、いつも通りシルマにくっついて森を散策することになった。コルやカラも一緒に付いてきてくれるようになった。


「いよいよ明日が儀式よね!」


スピカは待ち遠しそうだ。


「そうよ、綺麗な神子装束を着れるのよ」


「儀式って難しいの?練習とかしなかったの?」


「舞を踊る練習を昔からしたわ。一生懸命練習したのよ」


「シルマってお姫様よね?窮屈じゃない?」


「そうね、でもとても大切にしてもらってるわ」


子供達の質問攻めにも笑顔で優しく丁寧にシルマは答えていた。


「シルマってお母さんみたいよね!」


「そう?嬉しいわ」



その日の夜、俺は聞いてしまった。

余りにも残酷な……事実を。


「シルマ、今日まで良く頑張った」

「お父様お母様、長い間お世話になりました」


何だ…何の事だ。何処か行くのか?

俺は嫌な予感がして村長の家に入った。


すると…シルマの両親が泣いていた。


「何で泣いてるんだ?」


シルマが困ったような顔をしていた。


「シリウスには話しても大丈夫かな?」


そう言うとシルマは自分の事を話し始めた。


「私はね、星渡しの儀式をするために生まれて来た神子なのよ。五十年に一度行われる儀式を執り行って星々にこの身を捧げるの」


「それって死ぬって事なの…?」


「そうね、そう言った方が分かりやすいかも知れないわね。でも少し違うかも知れない。私は星霊になるのよ。そして世界の秩序に安定をもたらす為には、とても大事な事よ」


「だからって……」


「黙っててごめんなさい…」


俺は耐えきれなくなって自分の部屋に戻っていった。

その夜、俺の様子がおかしいと気付いたプロキオンやスピカやメイサが心配して理由を聞いてきた。

俺は1人で抱えきれなくなって、全部話してしまった…


皆、泣いてた。



儀式当日。

俺はとても儀式に出れる心境じゃなかった。

けど最後くらいしっかりと見届けてあげて欲しいと言われ、参列する事になった。


儀式は厳かに粛々と執り行われた。

シルマがとても綺麗な衣装で祭壇に向かっていた。

とても落ち着いた雰囲気だったのが逆に悲しくなった。

泣いているプロキオンの肩を掴む父上。

スピカとメイサはアケルナル様の脚にしがみ付いて大泣きしていた。

俺は納得出来なかった。

何故シルマなんだ…何故こんな事をしなきゃいけないんだ。

そんな世の中…何かが間違ってる…

こんな事があって良いのか?

良いはずがないだろ!


「こんなのおかしいだろー!!!」


「なんでシルマがこんな目に合わなきゃいけないんだよ!!」


「おいシリウス!」


「放せ!放せよコルーッ!!」


「落ち着けってシリウス!!」


「放せよダビー!こんなの間違ってるだろ!」




「シリウス、ありがとう」


「イヤだ、シルマ行くな!!」


「最後の一週間とても楽しかったわ。私の宝物よ」


「うぅ…シルマお姉ちゃん死んじゃやだぁ…」


「スピカちゃん私はね、お星さまになるのよ」


「シルマさん、寂しいよ…うぅ」


「大丈夫よプロキオン君、私はいつまでもあなた達を見ているわ」


「グスッ…シルマ…もう会えないのね?」


「メイサちゃんが寂しくなったらお星さまを見て。そこに私は居るわ」


「何でだよ…何でシルマが…」


「シリウスは優しい子ね。いつまでもその優しさを……忘れないでね」


「………」


「シリウス…許して……うぅ…ごめんね。もっと…皆と…」


「シルマ……」


「………一緒に…居たかったかな」



さようなら…




そしてシルマは祭壇に向い


舞った


その舞は


とても優しくて


とても儚かった


シルマは星霊になって消えていった








(……召喚呪具だけでなくコボルトの巣までお膳立てしてやったというのに……まぁ良い……しかしアレは邪魔だ……)



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