第19話 門出3




早くランクを上げなければ。

逸る気持ちを抑えつつ、ブラッドバニー討伐とノマドシープ討伐を受けいつもの狩り場に向かう。


「ふぅ〜、コレくらいで一度ギルドに戻るか。にしても、やっぱり荷馬車必要かなぁ…」


狩った獲物は素材や食料などとしてギルドで買い取ってくれる。しかし一度の狩であまり大量に仕留めても持ち帰れない。狩り場に馬を放置するわけにもいかず…どうしても効率に欠けた。


「こちらが今回の討伐報酬と素材の買い取り料金、合わせて銀貨8枚と銅貨3枚です」


「ありがとうタリタさん」


「いえいえ。でもシリウスさんは凄く頑張ってますね」


「いやあ…早くランクを上げたくて。それに全然まだまだ稼げてません」


「そんな事無いですよ。駆け出しでこれだけ稼げてれば優秀な方ですよ?」


「そうだ、狩った獲物を一度で大量に運ぶ方法とかは無いんですかね」


「うーん、荷車を牽くとか…あとはその場で解体して荷物を纏めるとか?収納魔法とか使えれば便利なんですけどね〜」


「収納魔法?」


「はい、でも個性魔法なんで使える人なんて殆ど見たこと無いですね」


「そっかぁ…解体、覚えてみようかな」


なけなしの金で荷車を買って獲物の解体も試す事にした。

こんな感じで解体のスキルを磨きながら狩りの日々を続けていった。が、とある日


「おいそっち行ったぞ!逃がすなー」


「なんで回り込んでないのよー」


森から慌ただしい声が聞こえた。

その瞬間ワイルドボアがこちらに突っ込んできた!

すぐ武器を取りブーストを掛けると寸での所で前足に一撃を叩きつけた。

一度は倒れたワイルドボアだったが当然致命傷にはならず戦意を俺に向けている。

前脚のせいで突進力は無かったが興奮しているせいか迷わず向かってきたので軽く躱し眉間に叩き込むとそのまま倒れ動かなかった。


「おーい少年ー、大丈夫だったかー?」


「ごめんなさい〜怪我は無かったー?」


恐らくはこのワイルドボアを狩っていた冒険者だろうか。

男性は父上位の体格で。女性の方は…捻れた角?悪魔?いやいやまさか…でも綺麗な人だ。


「すまなかったね君。本当に申し訳無い」


「いえ俺は大丈夫です」


「だから2人じゃ無理だって言ったのよ」


話を聞くと、最近まで組んでいたパーティーが解散になり仕方なく2人で活動していたと言うことだ。


「俺はコルカロリ、コルでいい。こっちは龍族のカラ」


「カラよ。宜しく」


龍族?


「見たところ君も冒険者の様だね。その歳でワイルドボアを一太刀とはなかなか」


「その歳で冒険者だなんて……可哀想に」


可哀想って何…


「お父さんは?お母さんは?ソロで活動するなんて…」


「そうか君も大変だな…歳は?ランクは?ソロじゃ苦労も多いだろうに」


「ちょ、チョット待ってー!俺は別に可哀想な子じゃ無いですよ!」


俺は彼等の誤解を解く為に説明した。

一応は理解してくれた。

その後、親切に今後の為といいワイルドボアの解体のコツを教えてもらった。


「これでよし…これは君が倒した獲物だ。君がギルドで換金すると良い。それに牙は取っておいていつか依頼を受けた時の討伐報酬にすると良い」


「いや、俺は良いですよ。解体もさせてもらったし、元々コルさん達の獲物だから」


「なんて良い子なの…」


「じゃあ…牙以外の素材は俺達が、牙は君が持っていくと良い」


「ええ良いんですか?」


「ああ、俺達はワイルドボアの依頼を受けてたわけじゃない。別件でこの森に居て序に狩ってただけだ」


結局牙は貰ってしまった。その後ギルドまで一緒に戻る事になり、荷車を牽くのも手伝って貰ってしまった。


「しかし荷車…凄い量だな。いつもそんなに狩るのかい?」


「ええ、まだFランクなので実入りの良い依頼が無いんですよ。それにランクも上げたくて」


「そうだったのか…」


ギルドに到着しコルさん達は依頼を報告していた。

俺も素材を買い取ってもらい、討伐報酬を貰った。


「おめでとう御座いますシリウスさん。Eランクへ昇格となりました。これでソロならDランクまでの依頼が受けられます」


「結構時間がかかってしまった…」


「いえいえかなりハイペースでの昇格ですよ」


「そうなんですか?」


「はい、低ランクは上げやすいとはいえ、1つ上げるのに数ヶ月はかかります。本来こんなにポンポン上がるもんじゃ無いんですよ?」


そうだったのか。でももっと頑張らないと…

するとコルさん達も報告が終わりやってきた。


「シリウスおめでとうEランクだって?お祝いに飯に行こうぜ。ワイルドボアのお礼も有るしな」


「いいんですか?」


「勿論だ」


僕達はコルさん達が泊まっている宿の食堂に来た。


「それでシリウス、お前この先どうするんだ?」


「ソロでは限界があるでしょう」


「今の処、ソロでも困った事が無いので考えてませんでした」


「困ってからでは手遅れという事もあるんだぞ」


コルさんとカラさんは共にBランクのベテラン冒険者で、もし良ければパーティーを組まないかと提案してくれた。


「シリウスは何か目標とか目的は無いのか?」


「特には…強くなりたいだけです」


「プッ…ぷはははは!いやすまない。バカにするつもりは無いんだ。なんというか、真っ直ぐだなと思ってな」


「強いて言えば、冒険者ランクを上げたり無属性魔法を何個か覚えたいです」


「ほう、ランクは兎も角、魔法の習得は難しそうな問題だな…無属性魔法ねえ…おいカラ、アレ教えてやったらどうだ?」


「構わないけど、人に習得できるとは思えないわよ」


「あの、どんな無属性魔法なんですか?」


「収納魔法よ。個性の中でも難しい魔法だから習得出来るか分からないけど」


こんな都合の良い事が有って良いのだろうか…

今まさに喉から手が出る程欲しかった魔法だ。


「ぜ、是非よろしくお願いします!」


「何度も言うけど、習得できるか分からないわよ」


この後も色々話をした。そして俺達はパーティーを組む事になったが、もう一人欲しいという事だ。前衛の俺とコルさん後衛のカラさん。もう一人はシーフかレンジャーが欲しいらしい。

食事を終えた俺達はギルドに人材を探しに行ったが目ぼしい人は居なかった。仕方なく場所を変え酒場へと向かい探す事にした。

始めて酒場なんて来た…


「親父、ビール」「私は蜂蜜酒」「お、俺は」


「シリウスはぶどうジュースにしとけよ。っで親父、フリーで手練れのシーフを知らないか?」


コルさんが酒場のマスターに話を聞いてくれた。


「俺トイレ行ってきます」


トイレを済ませ戻ろうとすると一人の少年がお酒を飲んでるではないか…妙に気になったので僕も情報収集として声をかけることにした。


「君、お酒呑んでるの?見たところまだ未成年っぽいけど」


「何だテメェ五月蝿えな、俺はこう見えて成人だ。見た目で判断するんじゃねえよこのクソガキが」


口悪ぅー!!なんだこんニャロー!!

…イカンイカン、ここは冷静に…


「そうだったか、それは失礼した。それで君に聞きたいことがあるんだけど良いかな?」


「何が聞きたい。いくら払えるんだ?」


「え、お金取るの…?」


「この世にタダなもんなんか無ぇんだよ。それが情報なら尚更だ」


そういうものだろうか…


「この辺りでフリーで手練れのシーフかレンジャーって居ないかな?冒険者の」


「大銀貨1枚だ」「有益な情報なんだろうな」


「払えるのか払えねえのかハッキリしろ」


「払おう」


「目の前に居るぜ?」


どういう事だ…何処だ。ついキョロキョロしてしまった。


「ったくトロ臭ぇ…鈍い野郎だなぁ…俺の事だ」


まぢか…だとしてもパーティーに迎えるには…性格に難アリ過ぎる。


「っでシーフ探してどうすんだ」


「俺等パーティーメンバーを探してて「断る!」


はい終わったー…


「お前はそのシーフに何を求めてんだ?罠の解除か?宝箱の解錠か?索敵か?あとは何だ、荷物持ちか?俺の価値を分からねえ奴の仲間なんかに誰がなるかよ。それにお前、駆け出しだろ?頭の中お花畑なんだよ」


ぐうの音も出なかった。けどここまで言われて黙っては居られなかった。


「じゃあ君は何が出来るんだ。何を持ってる」


「俺はシーフの仕事は当然出来る。が…元暗殺者ギルドに居た。殺し屋だよ。」


まぢか…ヤバいじゃんコイツ…


「安心しろ足は洗ってる。今は綺麗な身だ。けど俺の力はそういうモノじゃねえ。俺には観察眼と直感、洞察力が有る」


「観察眼と直感と洞察力?」


「違う。観察眼と直感で洞察力だ。魔法とかじゃねえし、鍛えたくて鍛えられるもんじゃねえんだ。素質ってやつだ」


詳しく聞きたくなった。なにか形容し難い…

凄く気になって彼に興味が湧いた。


「君を仲間にできなくても良いから……一杯奢るから洞察力の話を聞かせてくれないか?」


「…変わった野郎だ。いいぜ座れよ」


「じゃあ1つレッスンしてやる。向こうのカウンターで呑んでるのカップル居るだろ?何話してると思う?」


「そりゃあ…チチクリ合ってるんじゃないの?」


「チチクリ合うってお前なぁ…コレは初歩だぜ?アレは喧嘩してんのさ」


「え?ウソでしょ?」「まあ見てろよ」



「私達もう終わりね!

 ああそうだな。

 酷い人…さようなら」


女が荒れた様子で店を出て行く…



「す、凄い本当だ……で、でも何で分かったの?」


「男の方は最後まで女の方を見なかった。女の方はカウンターの下で悔しそうに手を握りしめて俯いていた。それが愛を語らう恋人の姿だと思うか?」


凄い……この人は…本物だ!


「お、俺達の仲間になって下さい!」


「おかしな野郎だ…結局仲間にしたいんじゃねえか」


「いえ、さっきとは違い、今は君の能力の凄さを見込んでのお願いです」


「……悪いな、もっと実力を付けてから来るんだな」


するとトイレの帰りが遅いと心配して探していたコルさんがやってきた。


「シリウスどこ行ってたんだ。心配したぞ」


「コルさん!俺見つけました!逸材を!凄いシーフです」


「落ち着けシリウス。コイツがその人なのか?」


「はい…えっと」


「…ダビーだ。アンタがこの子の保護者かい?」


「コルカロリだ。保護者じゃない、仲間だ」


「そうかい、悪いがあんたらには俺は使いこなせねえ。連れて帰んな」


「でもコルさん!本当に彼は凄いんです!だから」


「だから落ち着けってシリウス。お前…本当に気に入ったんだな」


「コルさん…」


「でもシリウス辞めておけ!どんなに優秀だろうと、どうせ怖くなって燻って酒場で入り浸っているだけだろ。そういう奴は使い物にならなと相場は決まってる。俺達は臆病者に背中を預ける気はない。命がいくつ有っても足りないからな」


そう言うとコルさんは俺を連れ、背を向けて帰ろうとした。


「コ、コルさん!」


「おいテメェ、チョット待て」


コルさんが少し笑っているようだったっがスグ真顔になった。


「テメェって俺の事言ってんのか」


「クックック、見え透いた芝居はよせ。俺の力が必要なんだろう?」


「俺達はコソドロに用はない。足手纏も要らない」


「…見くびるなよ。良いだろう。お前等のパーティーに入ってやる。役に立ってやる」


「ええ!?本当に!?じゃ、じゃあ!」


「ふっ…決まりだな。俺はコルカロリだ。コルでいい。シリウスはもう知ってるな。向こうで酔い潰れてるのは魔道士のカラだ」


「ダビーだ。改めて宜しく頼む」


「有難う御座いますダビーさん」


「敬語はよせ…あとさんも要らねえ」


「はい!パーティーへようこそダビー!」



こうして新しい仲間と出会い、新たな冒険が始まった。




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