第2話 神殿から王宮へ




神殿に入ると外観とは違い神聖な雰囲気が漂い、少しだけ安心感がある。

思ったより人が多く、静かに祈りを捧げる人やシスター達の働く姿が見られた。

しかしそれよりも壁に描かれた絵や彫刻、等間隔で配置されているほぼ裸の彫像?石像?に目のやり場が困った。非常に大きなこの石像が誰なのか知らないし知りたいとも思わないが子供ながらに「何故に揃いも揃って半裸なのだろう?」とは思った。

そうこうしていると、1人のシスターがやってきた。


「準備が整いましたので、こちらへ」


よそよそしく一礼して付いて行く。

どうやら洗礼の間に案内してくれるらしい。

洗礼の間に着くと他の職員とは違う豪華な服を着た「いかにも偉そう」な老人がいた。いや実際偉い人なのだろうが。その老司祭が丁寧に説明を始めた。

説明によると台座に置かれている丸い水晶に両手をつき、「目を閉じ穏やかに心を委ねよ」と言われた。「心を委ねる」って…?


説明も終わり、洗礼の儀が始まった。

老司祭に促され台座の前へ。


「シリウス、頑張れよ」

「しっかりねシリウス」

「兄上頑張って〜」


何をどう「しっかり」「頑張れ」ば良いのか。


「両手を水晶へ」


老司祭に言われた通りにした。

心穏やかに…は分からないが

目を瞑りゆっくり深呼吸をした。

水晶が冷たい。

しかしすぐ手に温もりを感じた。

その瞬間、雷が落ちたかの様な轟音が響き驚いて目を開けてしまった。

なんと水晶が太陽のように直視できない程輝いていた。いや太陽以上に眩しい。

段々と身体が熱くなり鼓動も早くなっていくのが分かる。何かが身体中を駆け巡っているような…これが星霊様の加護なのだろうか?

そんな事を考えた次の瞬間、色々不思議な光景が見えた。見たことも聞いたこともないような光景。誰かの記憶なのか、しかしどこかで見た気がしないでもない。そんな断片的な光景を見ていると、辺り一面真っ白な光に覆われどこからともなく1人の美しい女性がやってきた。その美しい女性はこちらをジッと見つめている。星霊様だろうか。

まさか…女神様?

その美しい女性は優しく微笑でいる。

が、少し悲しそうな…


「…ウス…シリウス!おいしっかりしろシリウス!!」


父上の呼びかけにハッと我に返った。


凄い形相の父上に両肩を捕まれ身体を揺すられていた。

周りを見ると心配そうな顔の母上と怯えたプロキオン、そして寿命が縮んだと言わんばかりに老け込んだ老司祭が驚愕の顔をして固まっていた。

にしても洗礼の儀はなかなか大変だと思った。

魂の器が保つとか保たないとか言われる程の事はある。


「おいシリウス、大丈夫か!?」


「ぇ、ぁ、はい」


そんな気の抜けた返事をすると母上が僕を抱き寄せ台座から引き離した。

僕を抱きしめた母上がちょっと泣いてるのが分かった。

僕が何か悪い事したのだろうか。何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「僕は本当に大丈夫です。どこも痛いところはありませんから」


プロキオンにも大丈夫だと笑顔で返した。

僕の身が大丈夫だと分かり安心したのか、険しい表情で父上は司祭に説明を求めた。


「司祭様、一体これは?」


困った顔の老司祭。

何か問題でもあるのだろうか。


「こんな事は…今まで見たことも聞いたこともありません」


「そんな…」


母上が落胆した様に呟いた。

父上も苦虫を噛み潰したような顔で硬直した。

父上と母上を見るに洗礼が上手くいかなかった、加護を受けれなかったのでは、と想像出来た。

しかし、それではさっき見た美しい女性は何だったのだろうか。幻覚かもしれないが、それよりも僕の中で父上と母上を安心させたい気持ちが強かった。


「あの、僕は先程光の中で不思議な女性を見ました。女神様なのか星霊様なのか分かりませんが、とても温かく優しく微笑んでいました。」


すると老司祭の顔が更に老け込んだのが分かった。父上も驚きの顔で食い気味に僕を見つめた。

ただ母上だけは少し表情が和らいだ様に見える。

そして母上が意を決した様に口を開く。


「王宮へ向かいましょう」


ここではこれ以上解決しないと判断したのかそれからは父上と母上の行動は早かった。

父上は神殿騎士に一家揃って王宮への入城と王様への謁見の手配を頼み、母上も謁見時に司教や各大臣達の同席願いを手配していた。老司祭も急ぎ馬車の手配をしてくれていた。

そうこうしているうちに「ベネトナシュの白薔薇」こと神殿騎士団長アケルナル様が騒ぎを聞き駆けつけてくれた。

険しい表情で父上と話をしていたが、話が終わると僕の方へやってきた。


「何も心配はない。私も一緒に王宮へ行こう」


そう言うと、穏やかな優しい表情で僕の頭を撫でた。


「馬車のご用意が出来ました」


そう息切れしながら老司祭が呼びに来た。

きっと老司祭は頑張ってくれたのだろう。

老司祭に感謝をしつつ皆で馬車に乗り込んだ。

アケルナル様が横に座った事に緊張したが、更に神殿騎士2名が馬で先導してくれるらしい。

何やら大事になってるのは僕でも分かていたが、今は王宮に入れるという事に興奮してあまり深くは考えていなかった。


道中、プロキオンと外を眺め見慣れない街並みを楽しんでいた。市街地を抜け高台にある王宮までの道程はクネクネと蛇のような道だったが市街地より道が舗装されており、思ったより快適だった。

ただプロキオンは乗り物酔いで気持ち悪くなったのか、母上の魔法で懐抱されていた。

アケルナル様によれば、敵が攻めてきた時の為に曲がりくねった道にしてあるそうだ。

いざ城門まで来ると城壁の高さに驚かされた。

門には門番がおり先導している神殿騎士が説明している。

すんなり入城かと思えば、先にまた城門がある。どうやらお城に入るままでに3つの城門を越えなければならないらしい。

先程が三の丸。次が二の丸。そして最後がやっと本丸の城門らしい。

そして城を警備しているのは全員神殿騎士団との事だ。

神殿騎士団は王国の治安維持や警備、犯罪者の摘発を一任されているらしい。戦争や魔物討伐等の遠征は父上が所属している王国騎士団が担当しているらしい。

とはいえお互いに連携し合っているので、神殿騎士団も戦争や魔物討伐をする事もあるそうだ。

二の丸も越え遂に本丸の城門まで来た。

馬車はここまでなので皆下車した。

目の前でお城を見上げたがなんと美しい事か。

そうこうしているとアケルナル様と父上が門番に手続きをしやっと入城出来た。


「ようこそおいで下さいました。ささ、コチラでございます」


城に入るとチョビ髭で髪の毛がクルクルしたピチピチズボンの恥ずかしい格好したオジさんが案内してくれた。


「謁見準備が整うまでこちらにて待機を」


案内された部屋は意外と広く、テーブルには美味しそうなお菓子が置いてある。

プロキオンと一緒に食べようと手を伸ばすと母上に叱られた。仕方ないので目を盗んで1個だけ素早くくすねた。隣りに座ってたプロキオンにテーブルの下でコソコソ渡そうとしたがプロキオンは「えっ!」という顔をし、父上と母上の様子を伺う。状況を理解しヨソヨソしくも笑顔で受け取って素早く口に入れた。嬉しそうなプロキオンの顔を見てこちらまでニヤけてしまった。

っがしかし、アケルナル様は見ていた。

シクジった!っと思いバツの悪そうな顔で緊張していると「ふふふっ」と微笑んで特に何も無かったかのように振る舞ってくれていた。


「お待たせ致しました。謁見の準備が整いまして御座います」


ピチピチが呼びに来た。

皆、緊張した表情で向かう。

遂に王様と対面……


いざ玉座の間へ。


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