第1話 始まりと神殿
〜・星霊暦2684年4月日某日・〜
ベネトナシュ王都郊外ペテルギウス宅
「えいっ」(カンッカンッ)
「やーっ」(カッカッ)
「とぅー」(カーンッ)」
木剣の弾け合う小気味よい音が響く
「二人共ご飯よ〜」
「お~、分かった」
(隙ありっ)
「父上チェストー!!」
「甘いッ!!」
「わあぁ!」(ドサッ)
「ッててて…
クッソーッまた負けてしまった」
「わっはっはっはっは〜
俺から一本取ろうなど、十年早いっ。
だが、なかなか筋はいい。根性もある。隙とあらば迷いなく攻めるのも悪くない」
「でも父上には敵いません」
「はっはっは、5歳で俺と打ち合ってるだけでも凄いことなのだぞ?」
「そうでしょうか?」
「そうだとも。お前は強い。
そしてこれからもっともっと強くなる」
僕はシリウス5歳。只今偉大な戦士になる為に日々特訓中。
今僕が剣を打ち合っていたのは父上のベテルギウス。父は王国騎士団戦士長で強くて大きくて自慢の父上だ。
ご飯を呼んでくれたのは母上のカペラ。
母は元宮廷魔道士の優しくて美人な、これまた自慢の母上だ。
強い戦士になりたいと思うと同時に、こんな平穏な日々がずっと続けばとも思う。
っと、あいつが居ない…また寝坊か。
「シリウス、お寝坊さんを呼んで来てくれる?」
母上の言い付けでお寝坊さんこと、弟のプロキオンを起こしに2階寝室へ。
プロキオンは僕の2つ下で3歳になる。身体はあまり強くないので運動は苦手だが頭が良く、とても心優しい弟だ。
部屋の扉を開けて様子を見るとまだ寝ている。枕元には読みっぱなしの本があり、恐らくは夜更かししたのだろう。揺すっても大声出しても起きない。仕方ないので無理やり身体を起こす。
「おはよう、プロキオン。朝食が出来たから早く下に行こう」
「兄上…おはようございます」
プロキオンを連れ立って2人で食卓へつく。
父上が居る時はみんな揃った処で一緒ににいただく。これが我が家のルールである。
母上の料理は美味しい。ついつい食が進み早食いになってしまう。
「シリウス、落ち着いて食べんか」
叱られてしまった。が、こうするとプロキオンが嬉しそうにするのだ。弟の喜ぶ顔見たさにわざとやっている節もある。母上も笑ってはいるがプロキオンが真似しないように「ダメよ」と優しく諭す。親としては放置出来ないのだろう。
「二人共、食べながらで良いから聞きなさい。
今日は皆で出掛けるのは知っているな?」
今日は僕が洗礼を受け加護を授かりに神殿へ向かう。
加護とは星霊様より授かる魔法の事らしい。
星霊様とは、姿形は分からないが万物に調和をもたらす神々の使いの様なものをらしい。
難しい事は分からないが「そういうもの」らしい。
神殿とはそんな星霊様に感謝を捧げる場所で、洗礼を受ける場所なのだとか。
小さな町や村でも神殿の代わりに教会があり、そこで洗礼を受けるらしい。
「僕は魔法使いにはならないよ。父上のような立派な戦士に成るんだ!」
心無しか父上の頬が緩んだように見えた。
「シリウス、何も魔法使いだけが魔法を使うわけではないのよ」
母上曰く。
魔法には色々な種類があり基本4属性の火、水、風、土。
特別な属性では光と闇、そして無属性。
無属性とは1つの属性と括られているけど、それは少し違うらしい。
わかりやすく言えば良くわからないまだ解明されていない魔法や何にも属さない魔法を一色たんに無属性と言っているだけだという。
だから「無属性の加護」と言うのは無いらしい。
父上の使う身体強化魔法も無属性の一つだという。
ただ無属性は洗礼を受けたから使えるのか、はたまた洗礼を受けなくても使えるのかは分からず、属性ではなく個性だと言う人も居るそうな。だから洗礼を受けて損はないらしい。
「父上と母上は何の加護を受けたのですか?」
「俺は土の加護を受けた」
「私は風と水ね」
「母上は2つ加護を持っているのですね」
「そうね、でもこれはとても恵まれた事なのよ」
洗礼は5歳で受けるが、それは生まれてすぐでは魂の器が保たないからと言われている。
器が2つ目の加護を耐えられるのは五十歳位だと言われている。
ただ例外として生まれながらにして魂の器そのものに加護を受けている事がある。
そして生まれつきの加護は器に一切の負担を掛けていないそうだ。
そういう母上の様な人をギフトと呼ぶらしい。
例えばエルフは生まれながらにして風の加護を持ち、我が国の王族は光の加護を持って生まれるのだとか。その代わり反属性の加護は受けることが無いという。
反属性とは、火と水、風と土、光と闇。
属性が反発し合うもの同士だ。
例外として過去には4属性の加護を受けた魔道士が居たそうな。賢者と言われていたらしいがどうやったら4つも加護を受けれるのか本人にも分からなかったらしい。
「なんだか不安だなぁ…
星霊様は僕に加護を授けてくれるでしょうか…」
「大丈夫。魔力操作の練習は毎日してるでしょ。加護を受けるのに十分な魔力量と器は私が保証するわ。」
母上と魔力操作の練習はしているが、まだ魔法は使ったことがない。わざと教えてないかららしい。
母上曰く、本来授けてくれる属性の星霊様に嫌われないためとの事。
例えば風や水の星霊様が加護を与えようとしても洗礼前に火の魔法を使ってたら嫉妬して加護を与えてくれなくなっちゃうと言われている。
人は洗礼を受けなくとも魔法を使うことは一応出来るらしいがやめたほうがいいらしい。
加護が無ければ強い魔法は使えないから。
使えても生活魔法位。加護を受けている者が加護以外の魔法を使うのもやはり生活魔法程度に留めておくのが良いらしい。
ちょっと残念ではあるけれど…
「焦らずやれば良い」
そう声をかけてくれた父上の顔は「魔法も良いがやっぱり剣術だ剣術!」と言わんばかりのいい笑顔だったので、子供ながらに気を使って思わず微笑がえしをしてしまった。
「さあ食べ終わったら支度して出発だ」
〜王都城下町にて〜
「うわぁ~城下町なんて久しぶりだなぁ〜
あぁ父上母上あれはなんですか?
父上と同じ戦士ですか?」
「アレは冒険者だ」
冒険者とは冒険者ギルドに所属して、そしてその冒険者ギルドから様々な依頼を受けて報酬を貰い生活している者達だという。
父上も母上も若い頃は冒険者だったと聞かされたことがある。母上は上流貴族出身で見識を深める為少しだけ冒険者をしていたらしい。
平民出身の父上は若い頃に冒険者で名を挙げ、偶々ギルドの依頼先で出会った先代の騎士団長にその腕を見込まれ王国軍へ仕官したのだった。
「若い頃のパパ、カッコよくて結構ご婦人方からモテたのよ〜」
「ぉぃ、カペラ…」
困った顔で照れる父上とは対象的に母上は実に満足そうな笑みである。
「あれ、おいあれベテルギウス様じゃないか?」
「おー戦士長殿〜」
冒険者達が父上と母上に気付き次々と声をかけ集まってくる。挨拶程度でその場を凌いでも少し歩けばすぐに声を掛けられる。
それだけ慕われているのがわかり息子ながらに少し誇らしかった。
「おや?トワイス殿ではないか」
1人の騎士?だろうか。お供を数名連れた女性が声をかけてきた。
綺麗な女の人だ…白い甲冑に白銀の髪。耳の形から察するにエルフ族だろうか?まるで絵本で読んだ…ヴァルキリー(戦乙女)の様だ。
「今日は非番かね?」
「これはこれは神殿騎士団長アケルナル様」
父上の顔が引き締まり軽く頭を下げた。
「いつも主人がお世話になっております」
間髪入れずに母上も挨拶をする。
「いやいや非番なのだから頭を上げてくれ。
おや?そちらは?」
「失礼しました、こっちは長男のシリウス。
こっちは次男のプロキオンです」
「ほぅ…君が。
私は神殿騎士団長のアケルナルだ。宜しく」
「シリウスです。はじめまして」
「プロキオンです。はじめまして」
「ふふふっ可愛い盛りだな。
してトワイス殿が一家総出でどちらへ?」
僕が5歳に成り神殿へ洗礼を受けに行く旨を伝えると、アケルナル様も神殿へ向かう途中だったらしい。話の流れで同行する事になった。
そしてアケルナル様と騎士達で練り歩くせいか、声をかけてくる人が嘘のようにピタリと止んだ。
「父上、トワイスってなんですか?」
「ふふふっ。トワイスというのは君のお父上の二つ名だ」
アケルナル様が言うには、父上と戦うとその双剣から放たれる連撃にまるで2対1で戦っているかのような事からそう呼ばれているのだそうだ。実際1対1では無類の強さらしい。
「何をおっしゃいますか、ベネトナシュの白薔薇様には敵いませんよ。あははは…」
白薔薇?これがアケルナル様の二つ名なのか?父上が出来る精一杯の抵抗だったのだろう。しかしアケルナル様が追い打ちをかける。
「ふふふっ。しかし事実であろう?
実際、純粋な剣の腕では私は疎か猛牛殿でも勝てるかどうか」
猛牛?また二つ名だろうか?ややこしい…
「恐れ多い、からかわないでください…」
そんなこんなで話をしながら同行しているとあっという間に神殿まで来てしまった。
神殿は遠くから見ることはあったが、目の前で見るのは初めてだ。確かに荘厳ではあるが神々しいというよりも…形容しがたいある種の不気味さや怖さを感じた。
「さて着いたな。
私は公務が有るのでこれで失礼する。
シリウスよ、良き加護を受けられる事を願う。
ではまた。」
正面ではなく小脇へと消えていくアケルナル様を見送り、僕達は正面から神殿内へ向かう。
いざ洗礼へ。
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