第3話 王宮と陛下




「では、陛下がお待ちかねで御座います」


何か悪いことしたわけじゃないけど緊張する。

そんな挙動を見兼ねたのか父上が笑顔で頭をなでてくれた。


「シャンとしてれば良い。あとは見様見真似で付いてこい」


物々しい雰囲気で遂に玉座の間の扉が開いた。

左右に騎士達が並び、玉座までの赤い絨毯を進む。

先頭にアケルナル様。次に父上が続き後ろに母上と僕達兄弟が進む。

王様に近づくにつれて緊張が増してくる。

っが、緊張は王様にだけではなくその手前に控えている大男だ。

なんという偉丈夫…そして背中に背負っている斧だ。

それは斧と言うにはあまりにも大きすぎた。

大きくぶ厚く重くそして…兎に角全て規格外だ。

父上も凄いがこの男は間違いなく強い!

思わず魅入っていると、足並みが止まった。

父上を真似て片膝をつく。


「本日、陛下におかれましてはご多忙の中、御拝謁賜りましたこと誠、至極恐悦のに御座います」


うおおお、父上カッコイイ!


「面を上げよ。そんなに畏まらんでも良い。そなた等の事じゃ、何か余程のことなのであろう」


ベネトナシュ王は威厳と優しさを感じる人だった。


「はっ。それが…その…私の長子、シリウスの事なのですが…」


急に歯切れが悪い。父上しっかりー!


「私が説明いたします」


おぉ、白薔薇様カッコイイ…


「うむ、聞こう。申してみよ」


こうしてアケルナル様が事の経緯を説明すると皆一様に困惑の顔を隠せないでいた。

そして当事者本人からも話を聞くべきだという事になり自分で説明する事になった。


「シリウスよ、陛下にお話するのだ」


僕を見てそう促したアケルナル様の顔はチョット悪い顔に見えた。


「ぇ、ぁ、は、はぃ…」


うあああ、父上と一緒だー…


「がっはっはっはっは。シリウス少年よ、緊張することはない。陛下は寛大である。自分の言葉で良いから説明してみせよ」


焦った。

急にあの大男が大声で話しかけてきた。


「はっはっは。コレコレ、子供を脅すでないアルデバラン。ただでさえお主は猛牛と呼ばれ怖がれられているのじゃからな」


も、猛牛〜!?

じゃ、じゃあこの人が王国騎士団長の!

父上の大将!

けど不思議と最初に抱いていた威圧感や緊張感は解れた。よし。


「失礼致しました。概ねアケルナル様のご報告の通りで相違ありません。ただもう1つだけご報告申し上げます。私は眩い光の中で美しい女性を見ました。会話こそ有りませんでしたが彼女は優しく微笑んでおり悪魔や魔物という感じはいたしませんでした。それが星霊様なのか女神様なのかは分かりかねますが。幻だったかもしれませんし単なる勘違いかもしれません」


ふぅ~…なんとか言い切った…


「ふむ……ベテルギウスよ。そなたシリウスにどんな教育をしておる」


訝しげな表情で父上に問うベネトナシュ王だったが、アルデバラン様もウンウンと輪をかけるように笑っていた。

アケルナル様に至ってはピクピクと笑いを堪えてるのが背中越しでもわかる程だった。


「はっ。っと言いますと」


「シリウスの言動、もはや5才児のそれではないぞ。もはや脅威の5才児としか言いようがない…どんな教育をすればこんなどこぞの上級貴族の様な口上を述べられるのだ」


「はっ、そ、それはカペラの教育の賜物といいますか…」


不意打ちの様なベネトナシュ王の質疑に堪らず母上に矛先を向けた父上。父上しっかりー!


「カペラよ。息災だったか」


「はい、陛下。お久しゅうございます」


「上級貴族出身のお主の事だ、しっかりやっておるようじゃな」


「とんでも御座いません。お恥ずかしい限りで御座います。ただ何処に出しても恥ずかしくない様に教育してきたつもりではございますが、まだまだでございます」


母上が元上級貴族出身なのは知ってたけど父上と違ってチャンとリンとしてシャンとしている。

母上カッコイイ!


「はっはっは、左様か。…おっとシリウスの洗礼の件であったな。話が逸れて申し訳ない」


緊張の連続だったので胸をなでおろして、ふと横を見るとプロキオンが座りながら寝ていた…

それに気がついたアルデバラン様が気を利かせてくれた。


「もうここからは大人だけで話し合っても良かろう。子供達はワシが引き受けよう」


急に父上が慌てだす。

しかしアルデバラン様に押し切られる形で結局僕達は席を外す事となった。

それからの話し合いは玉座の間から謁見の間へ移動して話し合ったそうだ。前代未聞の出来事にベネトナシュ王も手掛かり探しに協力を惜しまないと約束してくれた。

また、教会や宮廷魔道士団、王立魔道具研究所への協力も打診し原因究明の手助けをしてくれるとの事だった。

父上や母上の人望もあっての事かもしれない。



アルデバラン様に付いていくとそこは騎士団の訓練場だった。

多くの兵士が鍛錬に励んでいる。

いつも父上としか稽古をしてなかったので他人の稽古を見るのは新鮮で自然と胸が踊った。

訓練中の兵士達がアルデバラン様に気付き手を止め掛けたが、アルデバラン様は右手をサッと上げ訓練を続けるよう指示した。


「シリウス、プロキオン。まさか家で宮廷作法ばかり学んでいる訳ではあるまい?」


妙に含みのある言い方と楽しそうな表情を浮かべるアルデバラン様だったが、なるほどこの人は戦いが好きなのだな…と。それもそうか王国騎士団長なのだから。


「はい、父上が家にいる時は稽古をつけて頂いています。居ない日も修練を欠かした日はありません」


成る程と言った顔で頷いた流れでプロキオンに目を向けた。


「ぼ、僕は戦いより本が好きです」


これまた成る程といった顔で頷くアルデバラン様だった。


「では…兄弟で違う道を歩むのだな?」


急に何を言い出すのかと思ったが、このまま行けばそうなるだろうか。妙に納得してしまった。


「ではシリウスよ、1本興じてみぬか」


何を仰る猛牛さん。僕を殺すきか?

そんなうろたえた姿を見越してかニヤリと笑ったかと思えば次の瞬間、ご自慢の斧を地面に突き立てた。


「無論この斧ジャガーノートは使わん。木剣で良い。何ならワシでなくとも良いのだ。シリウスよ、お主は父に稽古をつけてもらっていると言ったな。お主の父は良い師となろう」


アルデバラン様曰く、父上は土魔法や身体強化魔法こそ使えるが、その戦闘スタイルは実直にほぼ剣技のみで戦うのだそうだ。それ故にあまり魔法が得意でない一兵卒から騎士達まで憧れであり誇りであり、また目指すべき良き師なのだと。またアルデバラン様もそんな父上の事を尊敬している事。そして良き部下を持てたことを幸せに思ってるのだそうだ。



…何故か泣きそうになってしまった。

父上はやはり……やはり偉大だった。



「そなたの父も良いが、違う戦いをする者と試合ってみるのも良き経験ぞ。1本興じてみぬか?」


武者震いが止まらなかった。やりたい。この猛牛と呼ばれる人と戦ってみたい!


「お願いします!!」


「心意気や良し!!かかって参れ!!!」


いざ猛牛退治へ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る