第29話 バッティング



 グインが馬車に乗る一瞬のうちに糸にくくりつけた香水で俺の匂いを上書きする。

 流石にアイリスもこれで微かにしか残ってない俺の匂いを嗅ぎ分けることはできないだろう。


 嗅ぎ取ってからほぼノータイムだからワンチャン疑いが消える可能性もあるだろう。


「匂いが消えた? もしかして日頃採取しているルークの匂いを私に嗅がせたとでも言うの。一体何の為に? マウントをとっているとでも言うの? 何にしろルークの匂いを日常的に採取してるなんて変態すぎるわ。ルークに危険が及ぶ前に処分しないと」


 馬車に乗った二人の会話を窓に糸をつけて糸電話の要領で聞いているととんでもない声が聞こえてくる。

 アイリスがグインを危険な変態だと思い、処分しようとしている。

 どうしてそうなるのか全くわからないが、軌道修正しないとまずい。


「ああ」


「あなたは?」


「え」


 馬車が『紅の薔薇園』に到着してタイミングを見計らっていると何故かヴィクトリアがやって来て、アイリスたちとバッティングした。

 ヴィクトリアがこっちにやってくるとは聞いてないが、何かイレギュラーが発生しているようだ。


  ────


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