第18話 攻略可能サイン



「昨日は凄かった。ルーク、あんなケダモノみたいに……」


 朝食を食べ始めると、アイリスが夢の中のことを現実のことと思っているようで話し始めた。

 合わせるか。


「申し訳ありません。日頃は抑制しているのですが、我慢できず……」


「我慢しなくてもいいのに」


 アイリスはご満悦のようでハニートーストをニコニコしながら平らげていく。

 我慢しなかったら、レーネとバトラーに命を狙われることになるんだが。

 命を犠牲にしてまでのロマンティックはごめんだ。


 アイリスが食べ終わると学園へ向かう。

 今日学園ではイベントも無しで座学しかない日なので、特に気をつけることはない。

 強いて言えば、俺とアイリスが付き合っていると誤解している主人公たちに弁解をすることくらいだろう。


「お花を摘みに行ってきます」


「おはよう」


 教室に着くとアイリスがトイレに行き、そのすぐ後に主人公たちが入れ違いなる形で入ってきた。


「おはようございます」


「昨日は大丈夫でしたか? すごい、アイリスに詰め寄られてましたけど」


「あ、あんた!?」


 挨拶を返すと、男主人公がナイーブな話題に直球で出してきたので、女主人公が素っ頓狂な声をあげる。


「お二人が心配なされることはありません。いつものことですので」


「アイリスって結構重いね。それでも付き合えるってことは本当に好きなんですね。ルークさん」


 女主人公が男主人公の調子に呑まれたのか、疑惑の核心について切り込んできた。


「それは誤解です。私のようなものがお嬢様と付き合うなど……。そんなことになれば私は父から抹殺されてしまいます」


「え、でもあんなにくっついて。キスマークも胸にあったじゃないですか」


「お嬢様は貞淑な方なので。従者の私が異性とベタベタするのが苦手なのでああして予防線を張ってらしているんです」


「え、でも流石にキスマークはそれくらいじゃつけられないじゃないですか?」


「本当につけずとも、毒を吸い出す医療器具を使えば簡単に作ることができますから」


「そうなんだ。じゃあ、大丈夫なんだ。ふーん」


 やっと納得したのか、女主人公が髪の毛を弄り始めた。

 これは女主人公を攻略できるサインだ。

 フラグを立つのが一番早いからな。

 主人公たちは男でも女でもいけるから、アイリスがフリーだとわかり、ルートが建ったか。

 ルートが行けるようになったのはいいが、あいにく女主人公側のアイリスルートの進め方は知らないからな。

 まあ放置して勝手に進んでくれたらいいくらいに思っておくか。


「はい。お嬢様は国にとって大役を務めるお方。できれば早く支えて頂ける方が現れれば私としても嬉しいのですが」


 ──


 主人公たちにアイリスには支える人間がいると伝えておいたので、足がかりはできた。

 ルートフラグイベント起こすにはあとはヴィクトルを万全な状態で学園に復帰させることが必要だ。


「新当主の様子はどうなってる?」


「揉み消しと事後処理も兄様の指示された通り動きました。勝手な行動をすることはないかと」


 アイリスを寝かせたあと、様子見と指示を出すためにクリスタル邸に向かうと消した使用人たちの代わりに補充したフォートマン領の手の者の中の一人──従兄妹のミーアに進捗を確認する。


「そうか。今は精神が不安定だからフォロー大変だったろ。よくやってくれたな」


「こ、このくらい当たり前です」


 労うために頭を撫でると頬を染めるとそっぽを向きつつも手に頭を寄せてくる。

 こういう姿は年相応だが、俺より二つ下の十三歳にしては実際よくやっている方だろう。

 こいつ以外の手の者でこの年で仕事を任されている人間はいないしな。


 屋敷の奥のヴィクトル──今は新当主となり、ヴィクトリアと名乗るようになった彼女の元に向かう。


「お休み前に失礼します。お嬢様。ルーに御座います」


「ルー……」


 ノックをして部屋に入っていくと昨夜置いていたやることリスト通り、部屋の中で待機していたようで、椅子から立ち上がるとこちらに向けて抱きついてきた。

 暴力的な胸がこちらの理性を破壊してくるが抑える。


「私あなたの言う通り頑張ったわ。ルー、褒めて」


「よく頑張りましたね。お嬢様。明日は王国内にあなたが今のクリスタル家の当主であることを布告しましょう」


「わかった。私あなたのために頑張るね」


 ゴマを擦っていたが驚くくらい聞き入れてくれるな。

 まあ聞いてくれる分なら問題ないか。

 しばらくやることやってもらった後に地の勝気な部分が出てくるまで精神が回復したら学園でフラグ作りにゴーだな。





     ───


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