第16話 お嬢様フリーダム



「父を殺すなど正気か?」


「正気にございます。浅はかな計画で国家転覆を企むあのような愚物に我々の仕えるクリスタル家を任せれば破滅することは見え据えていますので」


「だがそれでも私たち二人だけで、父を打とうというのは……」


「不安ですか。ならば私が事実を持ってお嬢様の不安を払拭しましょう」


 ──


 手練揃いのはずのクリスタル家の剣士たちが成す術もなく、何か見えないものに〈剣〉をバラバラに寸断されて散っていく。

 最初は正気を疑ったが、戦いとも言えない光景を見せつけられ、突如独房に現れ、自分を連れ出したルーという暗殺者の言葉を信用せざるを得なかった。

 この男は父を下す。


「俺が敵わなかった騎士たちが皆死んだ」


「〈剣〉は皆排除しました。邸宅の害虫を駆除しましょう。〈剣〉からお降りになる際は危険ですので、私の手をお取りください」


「男子が手を貸されて降りるなど……」


「ふむ……。単純な疑問なのですが、格好といい、口調といい、なぜそこまで男であることに固執するんですか?」


「それは父上がそうであれと言って、周りのものから……」


「周りから請われることに固執する必要はありません。お嬢様はお嬢様自身のものであって誰かのものではありませんから」


「え……。でも皆の期待に応えないと認められないから……」


「お嬢様の嫌がることを強いるのは期待ではなくただの強要です。お嬢様自身を認めてなどいません」


「じゃあどうしろって言うの? 自分を出しても皆否定するじゃない」


「否定するものを私がお嬢様の世界から消します」


「この家のものは誰もいなくなるわ」


「お嬢様を否定するのならば全て消えればいいのです。お嬢様は本当にしたいことはなんですか? 私はお嬢様の手足です。お嬢様の望むことを叶えることが私にとって至上の幸福です。望むままを仰り下さい。私が全て肯定します」


 抑圧するばかりだった周りの人間とは違い、暗殺者は全てを解き放つように言ってきた。

 見捨てられ味わされた絶望が、自分の全てを否定されてきた苦しみが迫り上がってくる。

 すでに押さえつけられることで限界ギリギリだった心の堰が壊れた。


「消して……。お願い消して……。怖いのも、苦しいのももうイヤ! 私を否定する人なんてキライ! 全部消して!」


「かしこまりました。お嬢様。私がお嬢様があるべき世界をご用意致します」


 暗殺者の手をとって、地面に降りた。

 殺戮が始まった。

 剣士が異変に気づく間も無く、無数のナイフによって胸を貫かれて絶命し、使用人たちが見えないものにバラバラに分解されて息絶えた。

 否定してきた人間たちが死んでいくごとに心が軽くなった。

 自分であることが怖くなくなっていた。


「ねえ、ルー。あそこの部屋にドレスがあるの。私、一度でいいからドレスが着たかったの」


「かしこまりました。お嬢様。あちらでドレスの着付け、お身繕いをしましょう」


「女の子のダンスの仕方ってどうするのかしら。これからはそっちでしたいから教えてくれる」


「かしこまりました。お嬢様。お手をお取り下さい」


 否定され続けてきた望みを口にして、暗殺者と死体と血だらけの廊下で踊る。

 どこまでも幸福な夢を見ているようでひたすらに心地よかった。

 自分を肯定してくれる人がいるって言うのにこんなに幸せなんだ。


「お疲れですか?」


「ずっと最近眠れてなかったから。すごく楽しいのに眠くなってきちゃった」


「どうぞ、お休みになってください。私がベッドまで連れて行きますので」


「ありがとう。ルー。あなただけは私を見捨てないでね」


 暗殺者の腕の中に身を任せると、今までの不眠が嘘のように眠りの中に落ちていった。

 腕の中はどこかで嗅いだことある甘い匂いがした。



 ──


「ふー、短い時間だったが割とゴマ擦れたか」


 人から好意を受け取るとツンケンするヴィクトルの性質を圧で滅殺してからしたので多少強引だった感は否めないが割とこちらの声に耳を貸してくれるくらいにはなったのではないだろうか。

 剣聖を殺して当主となった時にはある程度こちらの意思を汲んで動いてほしいからな。

 これでそうなってくれれば万々歳だが。


「後は剣聖だけだからな。パッパと処理して、当主としてするべきことリストをヴィクトルの部屋に置いたら帰るか」



    ───


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