第9話 調査結果に驚愕する悪役貴族


「ルーク・フォートマンの調査結果にございます」


「なんだこれは!?」


 ルークによって灸を据えられたことに憤怒したヴィクトルはクリスタル家──実家お抱えの暗殺一家フォール家にルークの素性を調べさせ、弱みを握ろうとしたと言うのに、出鱈目な調査結果を見せられ驚愕させられていた。


「僅か7歳で剣士隊の援助もなしに、戦闘能力を持たぬ戦姫含む3体の〈剣〉のみで大隊を殲滅だと!? ふざけるのも大概にしろ!! 早く調査をしろとは言ったが、ふざけた捏造をしろと言った覚えはないぞ!!」


「我々も信じられぬ結果ですが全て事実にございます。軍が〈剣〉から抽出した戦闘記録も確認し、裏を取ってあります故」


「そんなバカな!!」


 改めて捏造だと思った報告結果を俄かに信じられない気持ちを押し殺して全て真実だと認識し直して見て、ヴィクトルは顔面を蒼白にする。

 弱みを握るために作成させた報告書が自らを追い込む情報の凶器と化していた。


「お嬢様、ハート家に差し向けた我らが手勢が一人たりとも戻っておりませぬ。これ以上戦姫に拘ることは愚策かと。お嬢様の方から御当主様にも進言していただきたく存じます」


 止めのように争いのプロがそう告げられ、ヴィクトルの心が傾きかけると魔導スクリーンに父親の姿──国で多大な影響力を持つ現剣聖であるヴィンセントの姿が映し出し始めた。


「入学式の挨拶を思っていたが早くも臆病風に吹かれたか軟弱物が。全くこれだから女は。代々子は男子として生を受けられることが決まっているクリスタル家で女として生まれた貴様は結果を残す以外に存在を許されていないと言うことがわかっておるのか」


「もちろんでございます。父上」


「ならば国を取る際に邪魔になる戦姫を排除しろ。共和国から鹵獲した試作品の〈剣〉のデータを十全に取りつつな。この私の温情の意味がわかるな? 失敗すれば貴様はクリスタル家の者ではないと思え」


 温情──優秀な〈剣〉を送る代わりに失敗は許さないという父からのメッセージに内心打ち震えつつヴィクトルは返事を返す。


「わかっております! 必ずオリエンテーションの際には!」


「二言はないな。必ず成功させよ。最後に」


 ヴィンセントは通信を切るかと思うとヴィクトルのサラシから解放された平均の三、四倍はあるヴィクトルの胸に目を向ける。


「その大きくなるばかりで見苦しい乳を隠せ。自室であろうと気を抜くな愚か者が」


「くっ!」


 ヴィクトルは赤面するとシャツの上から手で胸を隠す。


「心中お察しします」


 通信が終わるとフォール家の者は進言がなされなかったことに失望したのか、ため息を吐いてその場から消える。


「こんなもの!」


 自分の足を引っ張る胸を叩いてストレスをぶつけるとヴィクトルは不貞寝するためにベッドに身を投げ出した。


 目を瞑ると自分に屈辱を味わせた灰色の髪と灰色の目をした執事のことが思い出され、羞恥が再燃し何故か下腹部がムズムズすると眠りについた。


   ───


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