第7話 『手紙』
悲しい話なんです。
当然ですよね。
幽霊って、亡くなってしまった人たちですから。
僕の地元、スーパーは多くても美味しいパン屋さんがありません。
でも、あまり行った事のない方角に、新しいパン屋さんが出来たそうで。
同居している母に、美味しそうなパンを2千円ほど買って来るように頼まれました。
「あの道を真っすぐ行って突き当りを左に曲がって幾つ目の信号を……」
なんて、言われた時には行けるような気がするんですけどね。
知らない場所ではありますが、自宅から自転車圏内だったので、軽い気持ちで出かけました。
そうしたら案の定、住宅地に迷い込んでしまって。
昔ながらの家があったり、駐車場や空き地があったり、真新しいマンションも建っていたり。
とても静かな住宅地でした。道を聞けそうな通行人も見当たらなくて。
自転車を降りてキョロキョロしていると、小さい男の子を見付けました。
一方通行の細い道路なんですが、道の真ん中に5歳くらいの男の子が立っています。
道路と一体化したような色の子でした。
半透明だったので、道路の色が透けて見えていたんですよね。
すぐに、生きている子ではないとわかりました。
時々見える、幽霊と思われる存在。
僕には何も出来ないので、関わらないようにして来ました。
ただ、その時はこちらもキョロキョロしていたので、目が合ってしまってたんです。
『お兄ちゃんが居ないの』
男の子が、僕を見上げて言いました。
「お兄ちゃん?」
聞き返してみると、男の子は頷きながら目の前のマンションを指差し、
『僕のうちに、お兄ちゃんが居ないの。お兄ちゃんに、お手紙を見て欲しいのに』
と、泣きそうな顔で言うんです。
「……お手紙?」
『僕が寝込んじゃったとき、いつも面倒みてくれてありがとうって、お手紙書いてたの。でも気付いてくれないの。動物図鑑に隠しておいたけど、僕は救急車に乗ってって、帰って来られなかったから。お兄ちゃんに、手紙を渡したいの』
半透明の男の子の涙が、ぽとぽとと道路に濡れ跡をつけていました。
出来る事なら手助けしたいですけど、そうは言っても、ですよ。
たぶん、十年とか二十年前に亡くなっている子なんです。
その男の子が『僕のうち』と言って見ている場所には、真新しいマンションが建っていて。
男の子が住んでいた家が取り壊されてマンションが建っているなら、その男の子は、引っ越して行ったご家族について行けてないという事でしょう?
もう、悲しいしかなくて。
でも土地の持ち主がマンションを建てて、大家さんとして一階とか最上階なんかに住んでいる事もあるじゃないですか。
そうだったり、しないかなーなんて。
マンションの上の方を見上げていたら、男の子も僕の視線に気付いたんですよね。
男の子もマンションを見上げて、
『やっぱり僕のうち、こうなっちゃったんだ。もう、お兄ちゃんたち居ないんだね――』
そう言いながら、スーッと宙に消えて行きました。
マンションではなくて、昔に住んでいた家が見えているものかと思ったら。
男の子には両方が見えて、どちらが本当かわからなくなっていたのかも知れません。
僕は、早く家族に会いたくなってしまって。
パン屋には辿り着けないまま、家に引き返してしまいました。
母には、
「方向音痴すぎる!」
と、怒られましたけどね。
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