太陽が生まれる場所
朝日屋祐
第一話 変態次期当主・白戸正宗
「白谷さーん!」
「すみません。手が離せない用事がありまして、ここにて失礼致します」
と雪は答える。
先代の
雪はすくすくと成長した。
祖父母も雪の誕生を自分のことのように喜んだ。
信太郎が怪しげな闇商売に手を染めるまでは。瞬く間に信太郎の噂が街中に広がり、雪は小さい頃から、白い目で見られるようになる。
信太郎は悪徳高利貸しをしていた。悪銭を抱え、料亭で扇子で舞妓の頬を引っ叩いて、女を取っ替え引っ替えする。信太郎は婿養子に入ってからというもの、悪行三昧を重ねる。雪は信太郎の噂のせいで、孤独な幼少期を過ごした。
雪の祖母、
そして信太郎はお縄になる。
やっと平穏なじきが来たのかと雪はほっと胸を撫で下ろした。すると近所の子供がからかって石を投げてきたり、雪が結婚する年齢になると、信太郎の噂のせいで縁談が次々に破談になる。
雪の父、信太郎は刑期が終わったあと、なにを思ったのか男と失踪する。帝都に逃げ延びた信太郎は美雪を捨てた。
そして白谷家が傾く、信太郎の噂が街中に広がり、雪は仕事をするのにも苦労している。
雪のことを理解してくれる人もいない。家族以外の人から雪と呼ばれたこともない。誰も雪自身のことを見てくれた人は居ない。
そのなかで
雪はその白戸家に仕え、約五ヶ月が過ぎようとしている。
(ふぅ……洗濯物が良く乾くわねぇ)
春風にそよぐ、
女性の使用人が去っていく、なんでも今日は顔の良い坊っちゃんが帰ってくるそうで、屋敷の女性陣は賑わっている。
「今日は顔の良い坊っちゃんが帰ってくるらしいわよー」
「見たわ〜! まあ、いい男だったわ!」
(……わたしには結婚は縁がない話しだから)
「お前」
男性の低音の声が聞こえる。
雪は振り返る、と笠を被った幸太郎がいた。
体格も幸太郎より、体格は二周りくらい小さい。幸太郎は御痩せになられて、背も
「旦那さま? なにかご用事が御座いますか?」
雪は鴉の濡羽色に、前髪を作り、片方に寄せ、編み込んだ毛先を下ろしていた。
「お主、名は何という?」
「白谷です」
「そうではない。お前、美人だな……」
(え? び、美人?)
そういえば幸太郎は随分瘠せられた、そして、風体もとても格好良い。
「名は?」
雪とは中々、言いづらい。
だが、勇気を振り絞って言う。
「雪と申します」
「良い名前だ……
「ちょ、ちょっと! ぎゃあああ! おやめくださいませ!」
雪は絶叫した。
「ぬおおお! 私はお主と寝たいんじゃああああ!」
雪の身体を肩に担ぎ上げ、お尻をペチペチと叩く。
「
雪は思う。この男性に
「白谷さん、息子が大変失礼しました」
正宗は起き上がってきて、今度は叫ぶ。
雪は屋敷の中を全力疾走した。正宗は運動神経がずば抜けてよく、走っても追いついて来る。
「雪殿! お主と出会えた春は忘れぬであるぞ! 私と一緒に風呂に入ろう!」
正宗は叫ぶ。
正宗は雪に付き纏ってきた。現当主の幸太郎も怒り心頭のご様子だ。
「正宗! いい加減にしなさい!」
幸太郎も扇子で頬を引っ叩いた。だが、びくりともせず、正宗はお気に入りを見つけたようだ。正宗は言う。
「父上も心得ているだろう? 好いた女と風呂に入るのは至高のひとときだと!」
幸太郎は「
女中仲間の
「あの旦那さまと交際してるのかしら?」
そうではない。
「ま、まさか!」
雪は否定する。
「照れなくて良いのよ〜」
と紫乃は言う。紫乃は嬉しそうに結ばれてよかったわね、と声を掛ける。そうじゃない、違う。違う。違う。違うのだ。正宗は一方的に好意を寄せて来ただけだ。自分は正宗とは違うのだ。何もかもが。
「こ、交際はしていません〜!」
交際すらした事もない。ひと目しか会ったことのない相手に好意など寄せられる訳が無い。彼とは結ばれることはない。ましてや信太郎の噂が立っているからだ。
「あらそうだったの?」
紫乃は否定も肯定もしない。
寧ろ良かったじゃないと言い始める。
「
正宗は話を盛りまくっている。あんな事もこんな事もしていない。彼と雪は身分が違うからだ。
「あらまあ!」
紫乃は正宗の言葉に驚いて口に手を当てる。
紫乃も味方にはなってくれない、正宗の味方になっている。雪は髪を触られると、キュッと固く口を結んだ。
「お主は俺は出会うべくして出会ったのだ!」
正宗は手の甲に口付けを落とす、このような
「雪殿ー! 私はお主と結婚するまでは絶対に身を固めん! 私はお主と結婚したいのじゃぁああ!」
適当においてあった
求婚されているのは確かだ。周りの人も幸太郎以外から拍手喝采を浴びている。幸太郎は忍びを
「そなたの髪は綺麗だ。その濡羽色を俺の色に乱す……ぬぐ!」
幸太郎の扇子で正宗の頬は思いっきり引っ叩かれ、正宗は気絶した。忍びに身体を抱きかかえられ、寝室まで運ばれた。
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