第21話 皇都急襲 皇帝鯨

キングバレーナを討伐し、皇都に帰港して、ビーチェと皇都10区の軍港区で合流した僕は、埠頭で引き上げられている曳航されたキングバレーナを見ていた。




改めて見ると大きい。




軽い華族の屋敷の建物くらいある。




キングバレーナは船に曳航されてきたので、その体から流れた血が海に流れている。




海にはキングバレーナの血がまるで足跡のように続いていた。






「…それにしてもこれを狩ったのかや…相変わらずシリュウの武は凄まじいものじゃ…」




「でもほとんどパオ少将のおかげだよ。パオ少将の風の魔術で、キングバレーナの魔術を躱せたし、とどめもパオ少将の風の魔術で位置取りできたから…」




「……妾がパオ少将と組んでも絶対狩れぬ……それはシリュウの武のおかげだと思うがのう…」




ビーチェが相変わらず僕を褒めてくれる。




身内びいきとは言え嬉しいものだ。




引き上げ作業現場は、ゾエ大将とフランシス中将が指示を出しており、レアさんがそれを見守っている。




パオ少将は……埠頭に来ていた子供達にサインしていた。




おおう…パオ少将の戦闘以外の行動で初めてまともな行動を見た気がする。




パオ少将は相変わらず変なことを言い、変な挙動をしているが、子供達には大ウケだ。




こうやって見れば、子供に好かれる素晴らしい大人に見える。


























そんなほのぼのしていた光景を切り裂くように鐘の音が港全域に響き渡る。






カラーン!カラーン!カラーン!カラーン!!






明らかに鐘の音が強く、これは合図でなく、警告だと瞬時に判断する。






鐘の音は軍港の灯台の頂上から鳴らされている。






見張りの兵士がどうやら海で何かを発見したようだ。








「なにがあった!!!??」








大きな声でゾエ大将が見張りの兵士に聞く。








見張りの兵士から大きな声で返答が帰って来た。








「皇都沖合北方より非常に巨大な鯨型の魔獣が迫っています!!!!その数1!!!」








鯨型の魔獣が接近?








さっき討伐したキングバレーナの仲間か?








そう思って、兵士が言う方向を見ると、黒紫の禍々しい巨大な鯨が凄い勢いで皇都の港を目指している!




「………あれは……!!!…まずいです!Sランク魔獣ですよ!!」




双眼鏡で魔獣を確認したレアさんが叫ぶ。




「なんてこったい…このキングバレーナは子供だったのさね…血の匂いでここまで引き付けちまったか…!!」




ゾエ大将が悔しそうに言う。




「……おい!…皇都警備隊に連絡!…いますぐ11区10区の一般人を避難させろ…!あと皇軍と陸軍にも救援要請…!…政庁にも非常事態宣言を発布するよう進言しろ!…10区にいる海軍全軍で直ちに出陣…!皇都に近づけさせるな!」




フランシス中将がびっくりするくらい大きな声で、部下に指示を飛ばす。




いつもの気弱そうな感じからは想像もつかない。






「これがいつものだね…!」




そしてどこからか現れたパオ少将




この緊急事態にも動じていない。




そして神妙な面持ちで僕に言う。




「…すまないが…また力を貸してほしい…!…インペリオバレーナは魔力耐性が非常に高く、オイラの魔術はほとんど効かないのだ!…でもオイラが君をサポートするから、アイツを討って欲しい!あれを狩れるのはこの皇都ではファビオとマリオとデルピエロ将軍くらいだが、彼らがここに来るには時間がかかりすぎる!今あれを倒せるのは君しかいない!」




「…!?」




驚いた。




出会ってから一番真剣な表情のパオ少将




そして変な語尾もふざけた口調もない。




真剣なのだ。




そうパオ少将からお願いされると、ゾエ大将とフランシス中将からもお願いされる。




「…シリュウ…これは皇都の危機さね…まだ軍に入隊してないお前さんに頼むのも情けないが…共に打って出てはくれないか!?お前さんの武が必要さね!」




「…シリュウ殿…お願いします…あれを討つには現状の海軍戦力ではかなり厳しいでしょう…でも君がいれば…勝ち筋が生まれる…」




海軍の3将から真剣な眼差しで依頼される。




迷っていると、ビーチェが僕の手を優しく包み込んだ。




「行ってくるんじゃ、シリュウ。お主なら大丈夫じゃ。なんせSランク魔獣などつい先日単騎で狩ったろうに?今ここには海軍の最高戦力が手助けするんじゃ。何も恐れることはありんせん」




優しくもそして力強く背中を押してくれるビーチェ




敵わないなぁ…本当…




「わかった…僕で良ければ共に行きます!」




「よっし…!」




ガッツポーズをするパオ少将




「助かる!」




ゾエ大将が大きな声で言う。




「私も行きますよ。皇都の危機なんて皇軍が放置できませんからね」




そう言うはレアさん




「……ありがとうございます…この借りは必ず……」




そう言うフランシス中将




「…あなたは損得勘定以外のことをそろそろ学んだらどうです?軍は違えど、共に皇国を守る仲間なのですから」




レアさんがぶっきらぼうにも愛があるように言う。




「…違いない…耳が痛いよ…」




頭を掻いて、苦笑いするフランシス中将






そうして僕らは動き出す。




「さっきの鉄甲船に乗るよ!」




ゾエ大将掛け声で、面々が鉄甲船へと駆ける。












鉄甲船へ駆ける前に、僕はもう1回だけビーチェと向き合った。






「絶対無事に帰ってくるよ」






「…信じておるよ、旦那様…」






そう言って笑うビーチェがどうしようもなく愛しくなった。






僕はビーチェを抱き寄せて、そして、衝動的に唇を重ねた。








それは僕にとって初めての接吻だった。






「……!?//」








驚きつつも、僕を抱きしめ返し、目を閉じるビーチェ






そしてどちらからともなく離れる。








「ありがとう、ビーチェ。勇気100倍だ。今の僕は無敵だよ」






「……こんなことで良ければ、妾はいつでも良いぞ?」






「……じゃあ帰ってきたらお願いするよ…じゃあ行ってきます!」








「行ってくるのじゃ~!!!」








ビーチェの声援を背に、僕は鉄甲船へ駆けて行った。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




鉄甲船に乗り込むと、即座に出航し、インペリオバレーナに向けて船は進んだ。




甲板ではゾエ大将、フランシス中将、パオ少将、ジョルジュ大佐、レアさんと僕で円を囲みながら、作戦会議をする。




「まず時間がないので端的に、インペリオバレーナは魔力耐性が非常に高く魔術はまず通りません。パオを持ってしてもです。そして氷の足場を作る作戦は、インペリオバレーナ自体が火属性を操るため、その作戦は採用できないでしょう。そして何より厄介なのが雷の魔術です」




レアさんの説明に僕が質問する。




「インペリオバレーナは雷と火を操るのですか?」




「いえ、雷と風と火ですね。パオと同じ2系統3属性です」




「…パオ少将と同じ…」




「そしてその体は非常に頑強で、キングバレーナよりも強固です。その体の固さは過去の資料からSランク魔獣エンペラーボアと同程度と予想されます」




「エクトエンドの皇帝猪か…あれと同じ固さと言われるなら、俺の斧は通らないな…」




レアさんの説明に、衝撃を受けるジョルジュ大佐




「…パオ…見立てはどうだい?正直に言いな」




ゾエ大将がパオ少将に意見を求める。




「…インペリオバレーナに有効打を与えられるのはシリュウだけだね…オイラ達はシリュウの後方支援に全力を尽くした方が勝算があるよ…!」




「なら話は単純だ。パオがシリュウを浮かせて、後の奴らは茶々を入れてインペリオバレーナの気を逸らさせる。そしてシリュウに隙を見て有効打を与えてもらう」




ゾエ大将が作戦を立案する。




「……それしかないね……頼めるかい…シリュウ殿…」




フランシス中将もその作戦しかないと結論付けた。




「もちろんです。よろしくお願いいたします。パオ少将…!」




「…パオっち…」




なんか物欲しそうな目で言う。




わかりましたよ…




「……頼むよ、パオっち!」




「おお!!」




僕がそう呼ぶと一番の笑顔で答えるパオ少将だった。










さあ行こうか。










捕鯨の時間だ。

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