第19話 討伐!キングバレーナ

急遽現れたフェリノシャークと言うBランク魔獣2頭を颯爽と狩るパオ少将の魔術に僕は驚嘆していた。




パオ少将がこちらに向かってくるので、僕が声を掛ける。




「お疲れ様でした。凄いですね!パオ少将!」




「……ノンノンノン…!オイラのことはパオっちと呼ぶのさ!」




「……パオっち…?いやいや畏れ多くて呼べないですよ…そんな海軍少将ともあろうお方を…」




「珍しいねぇ…パオが渾名で呼ばせようとするのは、相手を認めた時さね。あんたは戦わずしてパオに認められたようだよ」




ゾエ大将が感心したように言うが、そんな認められるようなことはしていないと思う。




「……チミにはファビオと同じ匂いがするんだもんもん。武術の強者の匂いがっ!」




「…いやファビオ中将とは仕合をしましたけど、得物を折られて負けましたので、僕は全然ファビオ中将の域には達していませんよ?」




「…なんだって…?…?」




ゾエ大将が怪訝な顔で僕に聞く。




「……ええ、そうですが、なにか?」




「得物を折られたってことは打ち合ったってことだろう?ファビオ相手に打ち合えるなんて、お前さん!これはとんだ拾い物だよ!今からでも遅くない。海軍に入りな!」




おおぅ……このパターン…2回目だ…




「いやでも僕は船に相当弱いみたいです…海軍なんてやっていけないですよ…」




僕が気弱に返答するとゾエ大将が気にせず答える。




「何言ってんだい!誰しもが最初から船に酔わないわけないじゃないか!皆最初は滝のように吐いて、じきに慣れるさね」




本当かよ




僕がまだ半信半疑でいると、フランシス中将が僕に言う。




「……ゾエさんの言うことは本当だよ…船内生活を経ていくうちに、酔わない立ち位置、目線のやり場、揺れに合わせた体の使い方などが自然と刻み込まれるのさ…」




う~む、海の専門家達がそう言うのならそうなのだろうな。




でも海軍か…僕の武術が役に立つのかな。




「でも海戦ってやはり魔術師が有利なのでしょう?武術師の僕が役に立つのでしょうか?」




「今まさにこの任務が役に立つじゃないか!魔力耐性のある海の魔獣は魔術師が多い海軍の天敵さね!こういう魔獣に出くわした時、武術師は何より貴重な戦力さね!」




ゾエ大将が力強く言う。




「……それに他国との海戦も魔術師同士の遠距離戦になることが多いが…双方の魔力が切れると結局は白兵戦になるんだ…また海賊の拿捕は、最後は必ず白兵戦になるから…シリュウ殿の武術は海軍でも必ず活きるよ…」




フランシス中将もそう言い、僕の武術を評価してくれる。




というかまだ海軍の人達には何も見せていない気がするんだけどなんでこんなに評価が高いんだろう…




実際戦闘になって、がっかりされたら申し訳ないな。




「ありがとうございます。船酔いで海軍だけは入隊できないなぁと思っていたのですが、そんなことないんですね」




「若いのに何言っているんだい!




「……!?」




ゾエ大将が何気なく放ったその言葉は、僕の心にとても刺さった。






確かに、今できないことで自分の可能性を狭めてどうするんだ。




できなければ、できるように努力すればいい。




今までもそうしてきたじゃないか。






海軍か…全く選択肢になかったけど、海軍に入隊するのもいいのかもしれない。




何より今日半日だけだったが、海軍に関わって初めて知ったことが多かった。






海軍で過ごす日々は僕の世界を大きく広げてくれる気がした。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




パオ少将が鮫型の魔獣を討伐してから15分程度後、僕たちは現場に到着した。




出航から1時間半くらい経っているが、ゾエ大将の話だと1時間で戻ってこれるんじゃなかったっけ?




帰りも含めたら3時間くらいかかるんじゃ……ビーチェを待たしてしまって申し訳ないなぁ…




「……シリュウ殿……予定を大幅に超過してすまない……どうやら目標の魔獣がいた地点が大きく変わっているようだ……最初の目標地点より北に大きく移動したようで…現場にはかなり迂回した形になってしまった……すまない…」




フランシス中将が釈明する。




不慮の事故なら仕方ない




それに皇都を襲う魔獣は討伐しておかないいけないという使命感が僕にはあったので、飲み込む。




「……まぁ仕方ありません。ビーチェにはいっぱい謝っておきます」




「……報酬は拘束時間に応じて上乗せしておくよ…」




「期待しておきます」




そうやり取りを交わして、僕は現場を見渡した。




すでに僕ら以外にも船が8隻到着しており、その先に大きな紫色の鯨のような魔獣がいた。




あれが『キングバレーナ』か




その大きさは巨大で、あの巨躯のエンペラーボアが子供のように思える大きさだ。




優にエンペラーボアの5倍はある。




すでに到着している8隻は鯨型魔獣を皇都方面を背に鶴翼の陣形のように取り囲んでいた。




作戦ではキングバレーナの背にこの鉄甲船が迂回しながら接近し、ある程度接近したところで、レアさんがキングバレーナを取り囲むように氷の魔術を放ち、それを足場に武術師軍団が一気呵成に攻め立てるそうだ。




ちなみにキングバレーナも動くので、8隻の船は陣形を保ちつつ、この鉄甲船も背に回るように調整しながら航行するようだ。




そちらが今回の作戦の鬼門らしい。




それはフランシス中将とパオ少将と各船の船長と航海士達、あとレアさんに委ねられていた。




僕ら武術師集団は、得物の手入れと氷の足場で滑らないように、特別仕様の靴に履き替える等の準備をしていた。




「お前さん、弓に投げ槍が得意なんだろ?一番槍は任せるよ、足場ができたら好きに攻撃しな!」




ゾエ大将が豪快に言う。




「いいんですか?」




「いいさいいさ!こいつらの得物はサーベルやアックスとか近接武器がほとんどさね。お前さんの攻撃具合を見て攻めさせるさ」




最初の一撃目を任された。




でもこれはありがたい。




集団で戦うなんて初めてだから、勝手がわからなかったが、最初に攻撃していいなら、普段通りにやればいい。




「ありがとうございます」




僕が礼を言っていると、船が大きく動く。




旋回している?




いやこれは、海流が魔獣の背に向かうように、変化しているではないか!




「…!?…これは?」




「これが魔術師の力さね。水の魔術で海流を操作しているのさ。このあたりはほとんど海流がないから、あんまり魔術の出力はいらないさね。あとは風の魔術で帆に風を当てて、速度を出すよ!」




「へぇ!海の上で海流も風も自由自在か…それは魔術師の独壇場ですね」




「航海に関してはそうさね!でも戦闘はそうでないから、また難しいさね」




ゾエ大将が神妙な面持ちで言う。




海戦を誰より知るゾエ大将でも、そう評価するのだ。




海戦は単純な魔術同士のぶつかり合いだけではないと




そうこうしていると、鉄甲船がキングバレーナの背を取ったようだ。




「おっ!さっそく背を取れたみたいだ。一気に行くよ!レア!」




ゾエ大将がレアさんに声を掛ける。




レアはすでに船首に立っていて、ロッドを構えている。




「準備はできています。射程に入りましたら、キングバレーナの一帯に氷の足場を作ります。持続時間はおおよそ10分です。時間が来ましたら合図しますので、見逃さないでください」




レア少将がそう言う。




どんどんキングバレーナに近づく鉄甲船…




キングバレーナとの距離がおおよそ50Mくらいになったところでレアさんが魔術を放つ。




「…行きます!………白銀世界……!!」




ガキィィイン!!!!




レア少将のロッドから氷の線が出て、その線がキングバレーナの周囲を走った。




キングバレーナを1周した線が繋がり、円となりそこから氷が外側へ波及し、足場ができた。




「よくやった!レア!行くよ!お前たち!」




「「「うい!!」」」




ゾエ大将の号令と共に僕らは氷の足場へと駆けだした。




僕は弓と投げやりを3本ほど背負い、キングバレーナに近づく。




キングバレーナがこちらに気付いて、吠える。




「ブオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!!!!!」




凄まじい咆哮だ。




僕らを敵と認識している。




そして、キングバレーナは風の魔術を放った。




ビュンビュンビュン!!!




風の斬撃、それも大の大人が3人まとめて斬られそうな程大きな斬撃が十数個も飛んできた!




エクトエンドにいたイビルベアーが放つ風の魔術とは比べ物にならないほど強力だ。




「防御態勢!」




ゾエ大将が大きな声で指示を出す。




しかし、僕はそれを見切ることができたので、躱すことで対処する。




そして斬撃を搔い潜って、キングバレーナに近づく。




「……!?なんて動きだい!やるねぇ…お前さん!」




ゾエ大将の賞賛が後方で聞こえるが、今はキングバレーナだ。




キングバレーナまで30歩程と迫ったところで、僕は弓を構える。




(狙いは……ベタだけど目かな…)




そして走りながら大きく弓を引き、キングバレーナの右目を目掛けて矢を放った。






ザシュッ!!




僕が放った矢が右目に命中する。




巨体を揺らしながら悲鳴を上げるキングバレーナ




「ブオオオオオオオオオオオオオオオオンン!ブオオオオオオオオオオオオオオオオンン」




そして大きくこちらに腹を向けた。




(……ここだ!)




距離は10歩程、ここまできたらキングバレーナはもう壁にしか見えない。




キングバレーナが向けた柔らかそうな腹に向けて、僕は槍を投げる。




ズドーン!!!!




投げた槍は、キングバレーナの腹を貫通した。




(……いける…!)




右目と腹の傷で、キングバレーナの動きが弱っている。




そして、巨大だろうが、人だろうが、魔獣だろうが、共通して持っている弱点に目掛けて僕は槍を構える。




脳天だ。




キングバレーナが、再びこちらを向き、威嚇するように吠える。




「ブオオオオオオオオオオオオオオオオンン!」




そして今度は大きな水流をこちらに放ってきた。




まるで大波だ!




これは避けれないので、防御態勢を取っていると、僕の体が突然浮きあがった。




「……!?……これは…パオ少将!」




振り向くと氷の足場にパオ少将が上陸していて、僕に向けて手を伸ばしている。




「……あまり無理するでないぞ…若人よ……ぷかぷか!」




パオ少将により助けられた僕。




そして今はキングバレーナより高い位置に浮き上がっている。




これは好機だ!




「ありがとうございます!そのまま僕をキングバレーナの真上に!」




「………むむ!?……がってん…!…ぴゅ~っとっな…!」




そして僕をキングバレーナの真上に移動させてくれたパオ少将。




「魔術を解除して!」




パオ少将に叫ぶ僕




「……落ちてしまうぜぃ?……でもチミを信じよう…!……パッとな!」




僕から浮遊感が消える。




僕はキングバレーナに向けて一直線に落下する。




そして僕は槍を下向きに両手で構えて、キングバレーナの脳天目掛けて突き刺す。




「………三の型……落雷槍…!!!!」






ザシュッ!!!!






僕の放った槍がキングバレーナの脳天に突き刺さった。




「ブオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!!」




大きな咆哮をあげる、キングバレーナ




しかし次第に、動きが弱まり、そして息絶えた。






(ふぅ……何とか狩れたか…パオ少将に救ってもらったな…あそこで水魔術に襲われていたらどうなっていたことやら…まだまだ修行が足りないな…)




首を捻りながら、キングバレーナから降りて、氷の足場に立つ僕




そしてパオ少将にお礼をしに行く。




「パオ少将…ありがとうございました…パオ少将のおかげで倒すことができましたよ」




「……チミ…マジで言ってる?……ほとんどチミの攻撃しか当たってないぞな?」




疑問符を浮かべながら言うパオ少将




「いやキングバレーナの水魔術を僕を浮かして躱してくれたじゃないですか。それに最後の技もパオ少将の風魔術のおかげです。ありがとうございました」




「………こいつぁ…ヤベェヤツだ……でもナイスファイト……!オイラの鼻は間違っていなかったぜい!」




そう言って握手を交わす僕ら




そしてレアさんが大きな声で言う。




「……そろそろ氷が溶けます!各々言いたいことはあるでしょうがとりあえず船に!」




その掛け声で、足場にいて、呆然としていた武術師集団は一目散に船へ、僕も船に駆けようとするが、戦闘の疲労で、少し出遅れた。




そんな僕を見てパオ少将が風の魔術で船まで運んでくれた。




この人は変人だけど、戦闘中も僕を助けてくれて、戦闘後も僕をこうやって気遣ってくれる。




心根は優しい人なんだと思った。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




キングバレーナの討伐後、幹部は作戦会議室に集まっていた。




ここにいるのは5人




ゾエ・ブロッタ海軍大将




フランシス・トティ中将




パオ・マルディーニ少将




ジョルジュ・キエリ大佐




レア・ピンロ少将の5人だ。




シリュウは戦闘後の疲労を考慮して、別室で休憩させている。




今は海軍の船員たちが、討伐したキングバレーナを曳航する作業を行っていた。






重苦しい雰囲気の中、沈黙を破ったのはゾエ・ブロッタ大将だ。




「…率直に言うさね。あの子何者だね?物理耐性は確かに高くないキングバレーナだが、あんなに一方的に屠るなんて、アタシはファビオとアレス、マリオくらいしか心当たりがないよ。それも16歳の坊やが?」




ファビオは皇軍最強の剣士 『蒼の剣聖』ファビオ・ナバロ




アレスは陸軍大将 アレス・デルピエロ将軍




マリオは陸軍少将 マリオ・バロテイ将軍




皇国軍において、最強の武術師と言えば、必ずこの3人の誰かだろうと言われる皇国軍最強の3人の武術師だ。




それと並ぶようだとゾエ・ブロッタ大将は言う。




ゾエの疑問に答えるのが、フランシス・トティ中将




レア・ピンロ少将もシリュウのことは知っているが、話す気はないようだ。




「…ゾエさん……あの子の本名はシリュウ・ドラゴスピア…あのコウロン・ドラゴスピアの孫だよ…」




「なんだって!?あんた…知ってたのかい?」




「…ここ最近の皇都の軍関係者では持ち切りだからね…まぁ上層部だけだけど…」




「なんとまぁ……猛者だとは思ったが、そこまでの大物だとは思わなかったさね…ジョルジュ…あの坊やどう思う?」




「どうもこうも……俺より強いのは間違いないでさ……そこまで大きくない体に、キングバレーナの腹を貫く程の槍を投げる膂力、魔術を躱した瞬発力…最後の槍の一撃…どれも驚くものばかりですぜ……」




ジョルジュ大佐が驚くようにシリュウを評する。




その若年にして、信じられない身体能力を持つと




しかしその評価に異を唱えたのは、パオ・マルディーニ少将だった。




「…シリュウっちの強さの本質は単純な身体能力じゃない…ほろろん…!」




「どういうことだい?パオ」




「…シリュウっちは魔獣に対する恐れがまるでなかったろん…!咆哮を受けても1人だけそよ風を受けているような顔だったじゃんね…!あと魔術を喰らいそうになった時も、まるで気にしていなかったじゃもん……まるでのん…!」




パオの言うことに目を丸くする各々




そしてフランシス中将が呟くように言う。




「……一心是胆成り……か…」




「なんだい?それは?」




「遥か東方にある、東方大陸の大国に昔実在した英雄を評する言葉だよ……その英雄は100万の大軍の中を単身で駆け、要人を救い出した逸話があるんだ…その要人を救い出し、主君へ要人を届けた際にその主君がその英雄を評した言葉だよ……」




「……すごい逸話さね。でもあの坊やならいつかやってのけそうだよ」




「……シリュウっちは凄い奴さ…!…ぜひ海軍に入れたいぬん…!」




パオ少将は嬉々として言う。




「それはなりません、パオ。シリュウ君は皇軍に『抜擢』するのです」




それを制すレア少将




「おいおい、あんな面白そうな坊や、皇軍で一人占めする気かい?うちだって欲しいさね!」






さらにレアに突っかかるように言うゾエ大将




「あの子は海軍で預かるよ!帰港したらすぐに皇王様に会うよ、フランシス!」




「……そのつもりで、帰港したら皇王様に謁見できるよう調整しているよ…」




「!?」




驚くレア少将




「さすがだねぇ…なんでもアタシがやりたいことがすぐわかる良いだよ」




「……それほどでもないさ…」




そのやり取りを見て、レア少将はまた頭を抱える。






ここにまたシリュウ争奪戦に参戦する勢力が増えたのであった。


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