第16話 海辺のデート 〇軍〇将との出会い


烈歴98年5月4日 皇都セイト 11区(民間港湾区)




僕とビーチェが皇軍本部に顔を出した日から2日後




僕らは皇都セイトの海辺の地区、11区にデートに来ていた。




ブッフォン大将から戴いた軍資金をもとに、豪遊するためだ。




ちなみに昨日はビーチェとシルベリオさんとじいちゃんの4人で政庁に行き、諸々の手続きをした。




諸々というのは実際の手続きはビーチェとシルベリオさんにやってもらったので、僕とじいちゃんは待合の控え室でひたすら待っていただけだったが……




諸々の手続きは、皇王様へ皇都に到着したこと知らせたり、華族同士の結婚の手続きだったり、ドラゴスピアの家督を僕に継承させる手続きだったり…色々だ…




僕もビーチェに書類を持って説明されつつ、うんうんと唸っていたが実際は1割も理解していなかった。




そんなことよりも書類を見るために眼鏡を掛けていたビーチェに見惚れていた。




眼鏡を掛けたビーチェも知的で可愛かったなぁ…




そんなことで昨日は1日ビーチェに働いてもらったので、ビーチェに対するご褒美としてこの皇都11区であり、民間港湾地区に遊びに来たのだ。




ビーチェは海が好きって、お付き女性騎士リナさんから聞いていたからね。




僕らが今いる11区は、民間の船が停泊する地域で、海沿いに大きな船が見渡す限り並んでいる。




そして海を見渡せるような飲食店が数多く並んでおり、お店の数も非常に多い。




皇都でも有数の観光地なのだそうだ。




「いやー!壮観じゃのう!見渡す限り船じゃが、こんなにもレストランやカフェが海へ向けて軒を連ねているのがサザンガルドには決してない景色じゃのう!」




ビーチェがすこぶるご機嫌だ。




ここへきて良かった。




「シリュウ!早速じゃがどこか店に入ろうぞ!妾はお腹が空いたぞ!」




時刻は正午から少し前




確かにそろそろお昼ご飯の時間かな。




「そうだね、どこに入る?ビーチェの好きな店でいいよ」




「いいのかや?実はあの店が気になっておっての!入りたいのじゃ!」




そう言ってビーチェが指さすのは、軒を連ねる店の中で一際大きな建物のレストランだ。特徴的なのは、2階以上にあるテラスだ。




この建物は海から反対方向へ階段状になっており、2階の屋上テラス、3階の屋上テラス、4階の屋上テラス、5階の屋上テラスと海を見渡すテラス席が多くあった。




海を眺めながら食事ができそうなレストランだった。




「いいね。早速入ろうか!」




「うむ!ほれ!早く行こうぞ!」




そう言ってビーチェは僕の手を引いて店を目指して駆けた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ビーチェが入りたいと言った店へ入ると、さっそく店員さんに話しかけられた。




「ようこそ。リストレンテ・ス・マーレへ。お二人でしょうか?」




店員さんは執事のような恰好をしている。




店内も華族の屋敷のようで非常に豪華だ。




もしかしてこのレストラン高級店じゃないのか?




「うむ。2人じゃよ」




そんなレストランの内装にも怖気づかないビーチェ




華族の令嬢だもんね。




このくらいの店は良く来るのだろう。




「お席はいかがしましょうか?」




「一番海が良く見える席を頼むぞ!」




ビーチェがそう言うと、店員さんは少し怪訝な顔になる。




おそらく僕らがお金を持っているか怪しんでいるのだろう。




ビーチェはともかく、僕はいかにも貧相な少年だもんね。




「かしこまりました。ちなみに当店のメニューはこちらになります。お気に召すでしょうか?」




そう言って僕たちにメニュー表を差し出す店員さん




価格を確認させてくれているのだろう。




僕も手持ちで足りるかどうか心配だったので助かる。




メニュー表を見ると1品金貨2枚から3枚程度だった。




普段なら高くて目が飛び出るけども、ブッフォン大将から戴いた軍資金のおかげで十分すぎる程食事はできそうだ。




「良かった。これなら全然足りるね」




僕がそう言うと、店員さんが「マジで?」みたいな顔をしていた。




マジです。




「うむ。料理名からも美味しそうな匂いが漂ってくるぞ!早く席に案内してくりゃれ!」




「か、かしこましました。ではこちらへどうぞ」




若干戸惑っている店員さんに案内され、僕らは海が見えるテラス席に着いた。




テラス席からの海はまた圧巻だった。




ここは2階のテラス席で、このレストランで最も海に近い席だ。




眼下には、行き交う人と沢山の露店があり、この11区の景色を一手に眺めることができそうな場所のようだ。




「はー!綺麗じゃのう!潮風もまた心地が良いぞ!」




「凄いね。ここで食べる料理はきっとより美味しくなるよ」




「違いない!さぁ料理を頼もうぞ、シリュウ!」




目をキラキラ輝かせたビーチェを可愛いと思いつつ、僕もメニュー表を覗き込み、食べたいメニューを思案した。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




そして注文した料理が到着した。




海老や貝、白身魚がたっぷり入ったブイヤベースに、魚が一尾丸ごと使用されたアクアパッツァ、魚介類が豊富なペスカトーレと絶品料理ばかりだ。




そんな絶品料理にビーチェと2人で舌鼓を打った。




「はぁ~美味しかったのう!満足、満足じゃ!」




「ほんと美味しかったね。特にブイヤベースは凄かったよ…あんなに濃厚なスープ飲んだことないよ」




「そう言えばシリュウは内陸暮らしじゃったから海産物は馴染みがなかったのかや?」




「そうだね、川魚とかは食してはいたけど、エクトエンドに移住してから海産物はほとんどなかったなぁ。ビーチェは良く食べるの?」




「妾は海産物が好物じゃからな。サザンガルドに海はないが、サザンポートが近くにあるゆえ、そこから海産物が運ばれてくるから、サザンガルドでは海産物は珍しくないのじゃよ」




「へぇそうなんだ」




「とはいっても本場の港町で食する海産物には敵うまい。久しぶりに本物の海産物を食べた気がするぞ!ありがとう、シリュウ」




「いやいや僕は何もしていないよ、この店だってビーチェが見つけたしね」




「ふふふ……シリュウが妾のためにここへ連れてきてくれたのじゃ。それが何より嬉しい……妾を想ってくれることが…//」




「……ビーチェ……//」




そう言って見つめ合う僕ら




自然と距離が近づいていき、手を握り合う。




そしてまた見つめ合っていると……










「いやいやお熱いこって、若人よ!はっはっは!」






………見知らぬ女性に茶々を入れられた。






「ゾエさん…それは流石にないよ……ごめんね?」




茶々を入れた女性の代わりに謝るのは、別の気弱そうな男性だ。




「いえ……こちらも公衆の面前でお恥ずかしい…」




僕がそう言うと、また女性の方が茶化す。




「いやいやごめんねぇ!あまりにも2人の世界ができていたからね!時期を逸していたのさ!はっはっは」






「いやいや2人の世界って……ん?…いま話しかけようとしたと?」




「そうさ!そこのお前さん、?」




快活に笑っていた女性の目が鋭くなった。




この二人只者じゃないのか。




「アタシは武術は多少は齧っていてね。お前さんの佇まいとその筋肉で相当の猛者だとピンと来たのさ」




「………はぁ、それはどうも」




「……ゾエさんが不躾な声の掛け方をしたから、少年の心の扉が閉まっているじゃないか…」




気弱そうな男性が女性に非難めいた声で言う。




その通りです。




今この人に対して心の扉はがっちり閉まっています。




「うるさいねぇ…これから開ければいいんだろ!」




なぜか強気なこの女性




そして開けようとするのか…なんか面倒事じゃないのか…




「とりあえず名乗ろうか!アタシはゾエ、そこに停泊している船の船長をしている!」




そう言って指さした先には、帆船が1隻あった、




サザンガルド家の軍船よりかは大きくないが、良く見ると鉄を纏っているように見える。




「…鉄甲船かや?」




「ほう!そこのお嬢ちゃんは物知りだね!そうだよ、あれは鉄甲船と呼ばれる船で、皇国でもまだ希少な船さ!」




そんな希少な船の船長ってこの人何者なんだ。




そう自己紹介してくれるゾエさん




しかしその隣の男性はゾエさんが自己紹介をしている時ずっと頭を抱えていた。




なんだか関係性が手に取るようにわかるな。




このゾエさんが突っ走っていくのをこの気弱そうな男性が苦労しながらも支えているのだろうな。




「あんたも名乗りなよ!」とゾエさんが気弱そうな男性に向けて言う。




「……あぁ…もう…わかりました…僕はフランシスと言います。一応あの船の……副船長?になります…」




なんで疑問形なんだ。




変わった二人組だな。




「初めまして。僕はシリュウです」




「妾はベアトリーチェじゃ」




不審そうなので、僕らは姓を名乗らず、名だけ名乗る。




「シリュウにベアトリーチェか!良い名前だ!そしてアタシが用があるのはお前さんだよ、シリュウ」




「……何でしょう」




「単刀直入に言う。私の船に乗らないか?」




「お断りします」




「早!!??もっと悩んでもいいじゃないか!」




なぜ悩むと思ったのだろう。




怪しさ極まりない船に乗る方がおかしいでしょ。




「そもそも何の船ですか…?」




僕が聞く。




「魔獣討伐の船さ。それに船に乗るってのもずっとじゃない。討伐目標の魔獣を狩るまでだけの期間限定船員だよ」




ゾエさんがそう答える。




そしてフランシスさんが補足するように答える。




「…突然すみません…実は我々はあの船でとある魔獣を討伐しに本日沖合に出る予定なのですが、同行を依頼した冒険者が今朝の出航直前に失踪したのです…やっぱり無理だと…そこで変わりの人員をこの港湾区で探し回っているのです…」




「なるほど…事情はわかりましたが、この港湾区で冒険者の代替要員を探すのは流石に無茶では?」




「ごもっともです。でもゾエさんが『今日はこの場所で探したら猛者に会える気がする!』と言って朝からこの地区で強者を探しているのです……」




ただの勘かよ。




ゾエさんとんでもないな。




そしてそれに振り回されているフランシスさんかわいそう。




「結果シリュウという猛者を見つけられたからいいじゃないか!アタシの勘は当たるんだよ!偶に!」




偶にかよ




この人自由すぎない?




それに魔獣討伐か…海の魔獣なんだろうな




「……シリュウさん…突然の依頼で申し訳ないですが、僕たちと魔獣討伐に向かってくれませんか…?その魔獣を放置すると皇都を襲い大変な被害が出るでしょう。失われる命も出るかもしれません…それだけはなんとしても防がなくては…」




フランシスさんが神妙に言う。




事態は深刻か。




「もちろん、報酬は出すよ。逃げた奴の取り分と冒険者ギルドから迷惑料をふんだくるから活躍に応じて報酬は増やすよ。まずは参加報酬で金貨50枚、成功報酬で金貨50枚だ。更に活躍したと認められればさらに50枚」




合わせて最大金貨150枚 




これは破格の依頼だ。




でも気になることはある。




「しかしこんな僕に何でそんな依頼を?」




「お前さん武術師だろう?」




ゾエさんが言う。




「はい、そうですが…」




「今回討伐しようとする魔獣は武術師の力がいるんだよ。どういうわけかその魔獣には魔術が効きづらくてね。アタシ達の船の主戦力は魔術師だから討伐できないことはないだろうが、武術師も編成して討伐の成功確率を上げたいんだよ」




「そこで武術師の冒険者を雇ったと」




ビーチェが確認するように聞く。




「その通りさね。結局怖気ついて逃げられたけどね!」




「ふぅむ……なるほど…」




「どうだ!受けてくれるか?」




ゾエさんが僕の顔を覗き込んでに言う。




僕はゾエさんの顔を見据えて笑顔で答える。




「お断りします」




「なんでだよ!今いける流れだったじゃん!」




ゾエさんが僕に抗議する。




「……いやだって僕は船に弱いんですよ…船酔いして戦力になりませんって」




そう僕には海に出れない致命的な弱点があった。




船酔い




あの地獄はもう味わいたくない……




「なんだそんなことか。船酔いさせずに船に乗せれるよ」




ゾエさんが呆れたように言う。




「え!?そんな方法があるですか?」




僕は驚きつつもゾエさんに聞く。




「簡単さ。風の魔術でずっと体を浮かせておくのさ。アタシの船員達なら出航から帰港までの間にお前さんに床に足をつけずに浮かしてられるよ」




そんな方法があるのか。




目から鱗だ。




でも肝心の戦闘の時はそうもいくまい。




「でも戦闘の時は?」




「今回は氷の魔術で魔獣の周りに足場を作る予定だから問題ないさね」




「ふぅむ……」




僕が悩んでいるとビーチェが背中を押してくれた。




「シリュウよ、海戦での戦闘もまた良い経験じゃぞ?今回は支援体制も厚そうじゃ。それにこの二人は只者ではない。ここで恩を売っておけば良き縁になるじゃろうて」




なるほど




確かに自分の経験にもなって、人脈も築ける。




そしてお金ももらえるので一石三鳥か。




「ゾエさん、その魔獣討伐っていつ出航しますか?」




「お前さんさえよければ今すぐにでも。大丈夫1時間もあれば帰ってこれるよ。彼女はアタシの奢りでカフェでケーキ食べててくれよ」




「…ケーキ…じゅるり…」




おっと ビーチェの胃袋が掴まれてしまったぞ?




確かにビーチェを放っておきたくないのが、この案件を受けることを躊躇する最大の理由だ。




でもビーチェがケーキに心を傾けつつあり、待ってる間も皇都を満喫できるなら問題はない。




「……ビーチェ…待っててくれる?」




「もちろんじゃ。旦那様の帰りを待つのも妻の役目じゃろうて」




「なんだい!あんたたち夫婦だったのかい!こんなに幼いのに甲斐性あるじゃないか、お前さん!」




僕の背中をバンバンと叩くゾエさん




痛い……力強いなこの人




「……わかりました。どれだけ力になれるかわかりませんが、一緒に行きましょう」




「助かるよ!じゃあ早速行こう!嬢ちゃん、旦那を借りるよ!これアタシの奢り!」




そう言ってビーチェに向かって布袋を投げるゾエさん。




「…ベアトリーチェさん…本当にすみません…シリュウさんをお迎えに来られる時はここへ来てください」




そう言ってフランシスさんがビーチェに四角い小さな紙を渡す。




「わかりました。ではシリュウ待ってるのじゃ。無理しない程度に頑張るのじゃよ?」




「ありがとう、ビーチェ。でもせっかく行くからにはビーチェのために武功を立ててくるよ」




「うむ。ではシリュウをよろしくお願いいたします」




「任せな!ほれ、行くよ!あんたたち!」




そう言って、ゾエさんは僕とフランシスさんの手を引いて、店を出た。






ゾエさんに半ば引きずられるようにして、鉄甲船の前まできた。




これが今から乗る船か。




近くで見ると、鉄の迫力が凄い。




この船の船長とはゾエさんは高貴な身分なのかな。




そう思っていると船に見慣れた紋章が。










あれって……皇国の紋章じゃあ……










「………改めて聞きますけど、この船はどこの組織に所属しています?」










「あん?そんなの皇国海軍に決まっているじゃないか!」










ですよねー












凄く悪い予感がするが一応聞いておこう。




























「……ちなみにゾエさんとフランシスさんの階級は?」
















「アタシが大将で、こいつが中将だよ?」




















あんたら海軍大将と中将かよ!!!!








もうちょっと威厳だせよ!!!!






わかりづらいだろ!!!




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