第15話 陸軍2将との出会い
ファビオ中将との仕合が終わったタイミングで、訓練場に大柄の男性が突如登場した。
その男性の脇にはもっと大きな巨漢の男性がいる。
誰かと思っていると、皇軍の皆様方が形は違えど、頭を抱えている。
レア・ピンロ少将に至っては嫌悪の目線だ。
ファビオ中将は目を向けることもしない。
ブッフォン大将だけは何とか苦笑いの表情で、登場した男性に声を掛けた。
「……アレスよ…こんなところに何か用か?それにマリオまで…」
ブッフォン大将が大柄の男性へ問う。
「おいらは旦那に付いてきただけだよぉ~。よくわからないけどなぁ~」
巨漢の男性が答える。
すごいおっとりしているが、纏っている筋肉はものすごく引き締まっていた。
かなりの強者だと風貌で理解できる。
大柄の男性は、ブッフォン大将に近づいて、肩を組みながら答えた。
「いや、昨日からどうやらお前の家のモンが皇都でこそこそしてるってサンディの奴が言っていてな!これは面白いことが皇軍で起きてるんじゃねえかと思って、お前を訪ねてきたんだ!マリオを連れてきたのはノリだ!暇そうだったからな!でもお前を訪ねて大将室に行っても誰もいねぇから、ここら辺をウロウロしていたら訓練場からすげぇ剣戟が聞こえてきたもんだから、ここに来たってわけよ!」
「…こそこそはしておらぬがな…それにしてもサンディは耳が早いな」
サンディ?誰だろう
僕がそう疑問に思っているとレア・ピンロ少将が教えてくれる。
「サンディ・ネスターロ…陸軍中将にして、陸軍の参謀です」
「陸軍中将!?ということはあの方たちは?」
そうレア・ピンロ少将に聞き返すと、大柄の男性が僕の方に一直線へ近づいてきた。
「おめぇがこの輪の中心だな!ガキみてぇだが俺には分かるぞ、さっきの剣戟はファビオとおめぇの剣戟だな!あのくれぇの音をファビオと出せる奴は、皇軍にはいねぇからな!」
そう言って、僕の肩をバンバンと叩く男性
凄い迫力と圧だ。
「ど、どうも…」
「なんかおめぇの顔見たことあるんだが……気のせいか?」
「いえいえ、初対面ですよ、絶対」
「そうかそうか!俺はアレス・デルピエロってもんだ!陸軍の大将やってるぞ!」
おう…このタイミングでまさかの陸軍のトップと会ってしまうと…
「こっちは、マリオ・バロテイだ!こんな奴だが少将だぞ!」
「どうもぉ~マリオだぞぉ~」
「どうも、僕の名前はシリュウ・ドふごっ!!」
名乗ろうとしたら、レア・ピンロ少将に口をふさがれてしまう。
目を見ると、凄い勢いで首を横に振っている。
姓は名乗るなってことか。
そしてその後ろでまた瞳の光を消しているビーチェ
ピンロ!うしろ!うしろ!
「あん?何やってんだレア?」
「何もありませんよ?どうぞシリュウ殿」
「えぇ…改めましてシリュウです」
「おう!シリュウ!よろしくな!早速だがおめぇ俺のところへ来い!」
「………はい?」
言葉の意味が呑み込めない。
どういうことだ?
「何だよ…察しが悪りぃな…俺の陸軍に入れってことだよ!」
「ええ!?…そんな会ってすぐに勧誘だなんて…」
思い切りが良すぎるだろ、この人
しかもここ皇軍の訓練所ですよ?
いきなり皇軍の関係者を無視して、勧誘なんてあまりにも大胆すぎる。
「一目見てわかったぜ!昨日からルイジの野郎がこそこそしてたのはおめぇを他所の軍に取られる前に、皇軍に入れてしまおうという腹だろう!そうは問屋が卸さねぇぜ!おめぇは俺の陸軍に来るんだ!」
デルピエロ将軍の発言に、目を見開いて驚いているのはブッフォン大将とレア・ピンロ少将
このデルピエロ将軍は見るからに、頭が回らなそうな風貌をしているが、着眼点は非常に鋭い。
こちらからは全然情報を提供していないのに、真実を言い当てている。
さすが陸軍のトップだ。
「いやいや…僕はただの皇軍施設を見学にきたただの田舎の少年です…」
ここままでは話がややこしくなりそうなので、一度皇軍からの勧誘は伏せることにした。
誰か助けて…
「ただのガキじゃねぇことはもうわかってるぜ。さっき打ち合ってたのはおめぇとファビオだろ?ほかの奴らは得物を触ってた感じがしねぇからな。でもおめぇとファビオだけはさっきから手を何回も握ってやがる。打ち合った痺れが残ってるんだろうな。しかもファビオに至って珍しく手を腫らしてやがる。マリオと仕合っても中々そうはならねえのにな。おめぇ本当にただものじゃねぇな」
今度は僕が驚いた。
この人見るからに大雑把そうな人だが、僕とファビオ中将のそんな細かい動きまで見ていたのか。
そしてファビオ中将の手の状態まで見抜いている。
流石の陸軍大将だ。
僕がデルピエロ将軍に圧倒されていると、ブッフォン大将が助け船を出してくれる。
「アレス、正直に言うと、この者は我が皇軍に『抜擢』する予定なのだ。今回は諦めてくれ」
「はっはっは!面白くねぇ冗談だ!こんな在野の逸材を逃すわけないだろうがよ!皇王様にも上奏して、陸軍に入隊させるぜ!帝国への侵攻戦に備えてこういう猛者はどんだけいても困らねぇからよ!」
えー…僕の入隊先なんて皇王様興味ないって……
巻き込むのやめてあげようよ
「おい、シリュウ…おめぇ…姓は?本当はあるんだろう?」
そう言って僕にすごむデルピエロ将軍
ブッフォン大将とレア・ピンロ少将の方へ顔を向けると、2人とも諦めたような顔で、ため息をついた。
僕はそれは了承の合図と捉えた。
「…失礼いたしました。シリュウ・ドラゴスピアと申します」
「……ドラゴスピアだと!?……はっはははははは!!!あの怪物親父の親族か!ますますおめぇが欲しくなったぜ!!絶対陸軍に入れてやるからな!首を洗って待ってろよ!!」
そう言って、デルピエロ将軍はマリオ・バロテイ少将と共に、訓練場を立ち去って行った。
何で首洗わないといけないんだよ……僕は敵じゃないよ…
それにじいちゃんのこと怪物親父って………
言い得て妙だな
確かに怪物だもん
嵐のようなデルピエロ将軍の来訪後、残された僕たちは同じ事を思っていた。
「面倒なことになりましたね…」
僕たちの気持ちをレア・ピンロ少将が言葉にしてしまう。
「……こうなれば、シリュウ殿の配属は皇王様に委ねられたも同然…もちろん私からもすぐにシリュウ殿を皇軍に入れるよう皇王様に上奏する予定だ」
「…私も参りましょう。シリュウ殿を皇軍に入隊させる有用性をあらゆる観点からご説明します」
「…助かる。では早速参ろうか。シリュウ殿、色々すまなかったが、私達は貴君と共に戦えることを心から望んでいるぞ」
「ありがとうございます。僕も有意義な経験になりました。陸軍に入るか皇軍に入るかはまだ決められませんが…というより決定権があるのかどうかわかりませんが、今のところは皇軍でお世話になりたいと思っています」
「それは重畳!皇王様に意見を求められた時も是非そう言って欲しい」
ブッフォン大将は笑顔で手を差し出し、僕と握手をした。
「シリュウ殿、あなたを皇軍に迎え入れるよう全力を尽くします。」
「ありがとうございます。レア・ピンロ少将」
レア・ピンロ少将も僕と握手をしようと手を差し出したが、その手はビーチェが代わりに握った。
「レア・ピンロ少将…シリュウは妾以外の女性と触れ合うことができません…僭越ながら妾が代わりにこの手を取らせていただきます」
そう言うビーチェ
そうなのか。
僕はビーチェ以外の女性と触れ合うことができないのか。
初耳だ。
ビーチェは僕が知らない僕のことをいっぱい知っているんだなぁ。
そしてまた瞳から光が消えている。
ビーチェ、最近多いよ、その瞳
「…そ、そうなのですね…それは失礼いたしました」
ビーチェの瞳に少したじろいだレア・ピンロ少将
「……シリュウよ…必ず俺のところへ来い…また仕合うぞ…お前との仕合は得るものが多い…」
そう言ってくれるのはファビオ中将
最初はぶっきらぼうで不愛想な人だと思ったが、そうではないみたいだ。
ただひたすらに武にしか興味ないのだろう。
「ありがとうございます。僕の方からもまた仕合お願いします。今度はもっと戦えるように鍛えておきますので」
「……くっくっく…この俺とそんなに打ち合ってもっと鍛えておくだと?つくづく面白い奴だ…」
そう言い笑うファビオ中将
今の笑いは仕合の時に見せた狂気的な笑いじゃなく、普通の笑いだった。
……いや本当にあの時のファビオ中将怖かった…
「シリュウ殿、今日は本当に有意義だった。帰りは我が家の馬車で送らせる。それとこれはほんの気持ちだ」
そう言ってブッフォン大将が僕に小さな布袋を渡す。
中身は……金貨!?それも十数枚入っている。
「…いや…!こんなの受け取れませんよ!」
「なに、時間を取らせて、仕合までさせたのだ。手ぶらでは帰せぬよ。それでベアトリーチェ嬢と美味しいものでも食べておいで」
なんという心遣い
そう言われれば、受け取った方がいい気持ちになった。
ビーチェの方に目を向けると、頷いていた。
そうか、これは受け取っておいた方が良いのかな。
皇軍大将ほどの人物の厚意を無下にするのも良くないと思ったので、素直に受け取ることにした。
「ありがとうございます。ビーチェと皇都で美味しいものでも食べに行きます」
「うむ、それが良い。聞けば昨日皇都に到着したばかりだそうだな。早々に私達に会ってもらったのだ。謁見まではゆっくり観光するが良い。その軍資金にしてくれ」
ブッフォン大将 超いい人
もう皇軍に入りたい。
「……出ましたよ…ブッフォン様の人たらし…」
「……相変わらず、人が良いお方だ……」
呟くように言うレア・ピンロ少将とファビオ中将
呆れるように言っているが、2人の表情は明るかった。
いつもこんな感じなのか ブッフォン大将は
けど素晴らしい人だと思う。
皇軍大将という凄く高い地位にいるはずなのに、年下で身分もない僕に最初から丁寧に接してくれた。
もしも仕えるならこのような人に仕えたいとそう思わせるほど素晴らしい人だった。
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