第13話 皇軍3将との出会い
僕らを乗せた馬車は、皇軍本部に着いた。
皇軍本部
青く塗られた建物が乱立するその施設は、さながら『空の砦』と形容するような風貌をしていた。
「大きいね…サザンガルドで見た皇国軍駐屯地よりも大きいや」
「皇軍の大規模な駐屯地はここセイトだけじゃからのう。あとは各地に駐屯所くらいの規模のものがあるくらいかや。陸軍は皇国各地に大規模な駐屯地があり、海軍もタキシラとカイサにはあるのじゃよ。皇軍は『皇家の守護者』じゃから基本は皇都でしか活動せんのよ。後は皇王様が皇都を出られるときに随行したりとかかや?」
「主な活動地域に大規模な駐屯所があるんだね」
「そうでございます。では皇軍本部に入ります。このまま敷地内に入り、中央棟の入口前まで馬車で向かいます」
ブルーノさんがそう言う。
皇軍本部の門に着いたので、ブルーノさんが降りて、門で警備している兵士と会話を交わす。
ほどなくして門が全面的に開いたので、またブルーノさんが戻ってきて、馬車が進み始めた。
馬車から見る皇軍本部は、大きな建物はあるが高い建物はない印象だ。
3階から5階建てくらいで面積が横に伸びている建物がいくつかある。
僕らの馬車はその建物群の中央にある大きな道を門から真っすぐに進んでいた。
どうやらこの大きな道を中心に、建物が建設されているようだ。
少し遠くには大きな広場があり、兵士と思われる人が訓練に励んでいた。
訓練場だろう。
その他にも数百頭もの馬が飼育されているようで、かなり広い放牧場と大きい厩舎をいくつも見かけた。
ちなみに僕の騎乗については、サザンガルド滞在期間に、オルランドさんやビーチェから訓練されたおかげで、ある程度乗れるまでにはなった。
まだ戦闘騎乗はできないけど、移動くらいなら問題はないだろう。
そんな僕の騎乗の成長振りに、ビーチェは僕を後ろに乗せる理由がなくなったことで複雑な心境だったが、僕が後ろに乗せてあげると上機嫌になったものだ。
そんな少し前のサザンガルド滞在期間の思い出にふけっていると、馬車が停止した。
「お待たせしました。皇軍本部中央棟でございます。ここから大将室へご案内します」
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ブルーノさんの案内で、皇軍本部中央棟の中を進んでいく僕とビーチェ
ちなみに今の格好は、僕はいつもの武闘服で、ビーチェはカジュアルな黄色のドレスを召していた。
非公式な会談と言うことで、比較的ラフな格好で来たのだ。
「こちらです。どうぞお入りください」
ブルーノさんがノックして中から入室の了承を得たようで、大将室の扉を開けてくれた。
いざ、皇軍のお偉いさんとご対面である。
ビーチェも少し緊張しているようなので、少しだけ手を握って安心させてあげた。
さあ入ろうか。
部屋に入ると、壮年の黒髪をオールバックにした温厚そうな男性と、空色の長髪で眼鏡を掛けている知的そうな女性、そしてただならぬ気を放っている青色の短髪の男性がいた。
……………この青髪の人……めっちゃ強そう……
入った僕がまず目を取られたのが青髪の男性だ。
ソファーに腰掛けているが、隙はなく、放っている気がただ者じゃない。
ソファーに腰掛けているようで、重心は沈んではおらず、いつでも戦闘態勢に入れるようになっている。
少なくともこれほどの強者は、じいちゃんしか見たことがなかった。
僕が青髪の男性の存在感に呆気に取られていると、温厚そうな男性が声を掛けてくれた。
「はっはっは。やはり強者同士は惹かれあうのだろうか。まぁまずは掛けなさい。自己紹介はそれからにしよう」
「……失礼いたしました」
不躾に青髪の男性を見たことと、待たせてしまったことを詫びて、僕とビーチェはソファーに腰掛ける。
対面には、僕から向かって右側に男性、その左隣に青髪の男性、さらに左側には空色の知的そうな女性が座っていた。
「では私から名乗らせてもらう。私はルイジ・ブッフォン、恐れ多くもこの皇軍を長を任されており、大将の位を頂戴している」
温厚そうな男性がそう名乗る。
この人が僕をここに呼んだ張本人であり、皇軍のトップである『金剛将軍』ルイジ・ブッフォン大将か
「初めまして。私は皇軍少将のレア・ピンロです。皇軍で参謀を務めています」
続けて知的そうな女性がそう名乗る。
この人は、『氷の智将』のレア・ピンロ少将か。
見た目はもう超賢そう。
「…………ファビオ・ナバロだ…」
青髪の男性がぶっきらぼうにそう名乗る。
この人がファビオ・ナバロ
皇軍最強兵士であり、『蒼の剣聖』とも呼ばれる人か。
立ち会わなくてもわかる。
この人は尋常じゃなく強い。
「子供ではないのですから、きちんと名乗りなさい、ファビオ」
でもレア・ピンロ少将から怒られている。
少将の方が階級は下だろうに、結構強気だな。
そう思っていると
「……ファビオ・ナバロ中将だ…」
ファビオ・ナバロ中将が素直に名乗りなおした。
力関係が一瞬で見て取れたぞ。
皇軍のお三方が名乗り終わったので、次は僕らが名乗る。
「わざわざお会いする時間を作っていただきありがとうございます。僕はコウロン・ドラゴスピアの孫であるシリュウ・ドラゴスピアと申します。16歳になったばかりです。こちらは婚約者のベアトリーチェ・ブラン・サザンガルドです」
「お初にお目にかかります。妾はシリュウ・ドラゴスピアの婚約者にして、サザンガルドを治める一族に連なるもの、ベアトリーチェ・ブラン・サザンガルドと申します。以後お見知りおきますようお願い申し上げます」
立ち上がってカーテシーをするビーチェ
こういう立ち振る舞いを見るとやっぱりビーチェは華族の令嬢なんだなぁと思う。
「あの名高きサザンガルドの剣闘姫に会えるとは、光栄ですね。いずれはサザンガルドを背負って立つ方だと思っていましたが、ドラゴスピア家とは言え輿入れされるのは驚きです」
レア・ピンロ少将が少し驚くように言う。
サザンガルドの剣闘姫?
ビーチェってそんなかっこいい二つ名持ってたの?
「……レア・ピンロ少将に知られていたとはこちらも光栄です。あとその名は少し恥ずかしいのであまりそう呼ばないでいただけると…」
顔を隠しながら赤くなっているビーチェ
可愛い
でもビーチェってやっぱり強いんだよね。
初めて会った時に僕に槍を投げた時の精度や度胸からそう思っている。
「失礼いたしました。女性に対して武勇を褒めるなど、少し配慮に欠けましたね。謝罪します」
「いえ!少し前まではその名で呼ばれることが誇らしいとは思っておりましたが、シリュウに出会ってからは妾の剣技など児戯にも劣ると思ってますゆえ…」
「ほう。かのサザンガルドの剣闘姫にそこまで言わしめるとはやはりシリュウ殿は相当な腕前ですのかな」
ルイジ・ブッフォン大将が僕らに問う。
「はい。妾が出会った人物の中では、間違いなく一番の猛者であります」
ビーチェが答えてくれた。
自分で「はい!猛者です!」なんて答えるとかできないから助かった。
「……一流の武術師が集まる軍都を預かる一族のあなたがそこまで言うなんて」
ビーチェの言い振りに、困惑しているレア・ピンロ少将
「…………議論など不要…仕合えばわかる。シリュウとやら、俺と仕合え」
ファビオ・ナバロ中将がそう言う。
そうなる流れかと思っていると
ゴンッ!!!
レア・ピンロ少将がファビオ・ナバロ中将に強烈な拳骨を下した。
ぇぇ……めっちゃ痛そう……
「あなたは少し順序ってものを覚えなさい。自己紹介してすぐ仕合えなど初対面の人物に失礼が過ぎますよ。それにわざわざブッフォン様が招待した人物に対して…この脳筋バカが……」
レア・ピンロ少将も中々豪胆な人だな…皇軍最強の人に対して躊躇なく拳骨を下した…
「まぁまぁレアよ。逸るファビオの気持ちもわからないでない。自分と同等の実力の者など珍しいから、その可能性がある若者が来て嬉しいのだろう」
レア・ピンロ少将を宥めるブッフォン大将
「……ブッフォン様はこのバカに少々甘すぎます。もう中将なのですから立場を自覚した振る舞いをして欲しいのです」
「……中将の地位なぞ望んでない…俺は戦えるなら平兵士でもいい…」
「その分給金は減りますよ。レベッカに報告しておきますね」
「……いや……それは…!」
ファビオ・ナバロ中将が急に情けなくなった。
レベッカさん何者だよ。
「失礼いたしました、シリュウ殿」
レア・ピンロ少将が僕に向けて頭を下げる。
「いえそれは全然」
「今回はコウロン・ドラゴスピア様からシリュウ殿の話を聞いたブッフォン様がぜひともシリュウ殿を皇軍に勧誘したいというお話です。皇軍に入隊するには通常『皇軍選抜試験』に合格する必要がありますが、これは年1回9月に開催されます。なので正規の方法で入隊となると、あと4か月は待つ必要があります。しかし我が皇軍は優秀な人材をいつでも欲していますので、皇軍の4将のうち3将が了承すれば、その者を試験を経ずに皇軍に入隊させることができる『抜擢制度』がございます。今回は、この『抜擢制度』を利用して、シリュウ殿を皇軍に入隊させたいのが、ブッフォン様の意向です」
なるほど
試験があると思っていたが免除される制度があるんだ。
でも4将のうち3将?
ここにいる3人に認められれば、入隊できるけど、一人はこの場にいない。
「すみません。あとの1将の方は?この場にいないようですけど」
「あとの1人は准将です。私達3将が認めれば良いので、呼んでいません。あと話がこじれるので」
可愛そうな准将さん
「その准将というのはどなたですか?最近変わられたと聞きますが」
ビーチェがレア・ピンロ少将に聞く
「その准将はアウレリオ・ブラン・ベラルディです」
「……あ~…あやつじゃったか……ならシリュウの入隊は絶対認めぬでしょうな…」
ビーチェがすっごい嫌そうな顔で言う。
「ビーチェ知ってるの?」
「残念ながらのう…妾の縁談に執拗に申し込んで来た奴よの。シリュウが妾の婚約者と知ったら絶対入隊を認めぬと思うよ」
「よし槍で貫こうか、そいつ」
「急に物騒じゃな!?」
「要はビーチェのストーカーでしょ?そんな奴生かしては置けないよ」
「……まぁ言うなればそうかもしれんが…落ち着くんじゃよ…」
「シリュウ殿、槍で貫かれるとは……」
「ほらレア・ピンロ少将も怒っておるじゃろ…」
「後処理は私に任せてもらえれば、事件は迷宮入りにしておきます」
「まさかの推進派!?レア・ピンロ少将ともあろう方が何を!?」
「よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いするでない!」
ビーチェが鋭いツッコミを披露する。
にしてもレア・ピンロ少将もそのアウレリオ准将を嫌っているのだな。
このような理知的な人に嫌われるって、どんな人物なんだ。
「とまぁ冗談はさておき、私達3人と少し考えが異なるのは事実ですので、あまり大事な話には呼びたくないのですよ。まぁあのアホの話は置いて…」
レア・ピンロ少将が補足し、話を流そうとする。
とりあえずその准将とやら、僕と出会った時が貴様の最期だ。
「……やはり抜擢するにあたり、私達に武の腕前を披露していただきたいと思っております。こちらから呼びつけておいて失礼ではありますが」
レア・ピンロ少将が言う。
相応の地位の方に招待されたので、武の腕前を見せろって話も僕は全然失礼ではないと思う。
「もちろん。大丈夫です。どのような形で披露すれば良いでしょう?」
「我が皇軍の精鋭達と仕合をしていただく形を考えています」
レア・ピンロ少将の提案に対して、ファビオ・ナバロ中将が不躾に言う
「……やめておけ。時間の無駄だ…」
「……ファビオ…まだ拳骨が足りないのですか…」
「……そうではない。皇軍の精鋭達とは1番隊の奴らだろう?その中にこの者の相手になる者はいない」
「「……!?」」
ファビオ・ナバロ中将の言ったことに驚いているのは、ルイジ・ブッフォン大将とレア・ピンロ少将
「……この者……入室と同時に、俺の気に気付いたようだ。それだけではない。目線の動きからどうやら俺の重心も見ていたようだな。そして隙を伺っていた。あの入室の一瞬でそこまでできるのは達人の域だ……なるほど…ドラゴスピアの継承者の名に恥じぬ強者だ……」
なんかめっちゃ褒めてくるよ この人
そんなに大したことはしたつもりはない。
自然とそういう風に気を配るようになっただけだ。
「……では腕前を披露していただくには?」
レア・ピンロ少将がファビオ・ナバロ中将に問う。
「……入隊という観点なら不要だ。今すぐにでも皇軍に入れるべき猛者だ。ただ俺個人としてはお前の腕前に興味がある。俺と仕合え……」
ファビオ・ナバロ中将が立ち上がって、僕を見つめる。
その表情は、鋭くもどこか玩具を見つけた子供のように無邪気だった。
「……シリュウ殿、一度ファビオと仕合ってはもらえぬか?恥ずかしながらファビオの稽古相手になるような者は皇軍にはいないのだ。それほどファビオの武が皇軍内で突出しておってな…久しぶりに相手になりそうな者を見つけて気が高ぶっているのだ」
う~ん 皇軍最強の剣士にそこまで評価されるのはなんだか不思議な気分だが、僕の血も騒いでいる。
「……もちろんいいですよ。僕の血も騒いでいますので」
立ち上がってそう答える。
皇軍最強の剣士に、僕の槍がどこまで届くのか、試してみたい。
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