第5話 サザンガルド本家での宴会
じいちゃんがサザンガルドに到着したその日の晩に、さっそくサザンガルド本家にて歓迎会という名目で宴会が行われるそうだ。
じいちゃんが到着したのが昼過ぎなのに、その日の晩にもう宴会できるとは準備の良さにびっくりだ。
オルランドさん曰く、「コウロン殿がいつ来てもいいように、手紙を出した数日後から、兄さんは屋敷の使用人にずっと宴会の準備をさせてたそうだよ」とのこと
シルベリオさんはコウロン・ドラゴスピア愛好家の鑑のようなお人だな。
ブラン・サザンガルド家の屋敷で、アドリアーナさんが用意してくれた宴会用の衣装に着替えて、ブラン・サザンガルド家の人たちと共に、馬車で本家に向かうこととなった。
なんとカルロ君も体調が良いようで、一緒に本家に行くようだ。
あと諸々の報告や労いも兼ねて、デフォナさんも本家へ行く。
準備ができたので、オルランドさん、アドリアーナさん、ビーチェ、カルロ君、デフォナさん、家令のハーロックさんと僕の7人で馬車で本家へ向かった。
ちなみにブラン・サザンガルド家の馬車は紺馬車の個室の仕切りをなくしたようなもので、1つの大部屋に全員が乗れるような造りになっていた。
10分程、馬車に揺られていると、本家に到着した。
本家に来るのは、シルベリオさんにビーチェとの結婚の承諾をもらいに来た時以来だ。
馬車から降り、本家の執事に案内され、僕らは数十人が同時に食事できるほど大きなテーブルがある大広間に到着した。
大広間には、シルベリオさんとじいちゃんがすでに着席していて、アドリアーナさんと同じくらいの年齢の女性と、僕より少し年上のように見えで凛々しく姿勢を正している男性と、眼鏡を掛けた知的な男性、少し年下だろうか明るくニコニコしている少年がいた。
僕らが大広間に入ると、シルベリオさんが立ち上がって、挨拶してくれた。
「ブラン・サザンガルド家の者達よ、よく来た。シリュウは我が妻と息子達に会うのは初めてだな。お前たち、自己紹介をせよ」
「あら~あなたがベアトリーチェのお婿さんのシリュウさんなのね~?私はスザンナです~。フォン・サザンガルド家当主の妻で、この子たちの母親です~」
非常におっとりしていて、柔らかい空気を醸し出している女性だ。
「お初にお目にかかる。フォン・サザンガルド家の嫡男のシルビオ・フォン・サザンガルドだ。此度の件、感謝申し上げる。シリュウ殿のような猛者と親族になれること嬉しく思う。これからもよろしく頼む」
こちらは凛々しい顔つきの男性で、若いながらも非常に貫禄があり、落ち着いた印象だ。
「初めまして。フォン・サザンガルド家の次男のピエールです。ベアトリーチェの夫となる者はどのような破天荒な人物だと思いましたが、まさかこのような少年とは……心中お察し申す」
こちらは眼鏡を掛けた知的な男性で、話しぶりから賢さが伝わってくる。
「なんで心中察するのじゃ!失礼じゃぞ!」
ビーチェからピエールさんの言いように、苦情が入った。
「当然でしょう…!幼い頃からあなたの行動に私達がどんなに苦労させられたか……!そんなあなたが縁談を断り続けたあげく、婚約したのが見ず知らずの少年と聞けば、どこかで攫ってきたのだと思うしかないでしょう!」
おいおい ビーチェに対してすごい猜疑心だな。
幼い頃にどんなことをしでかしたらこんなに信用がなくなるんだ。
ピエールさんの物言いは、客観的に聞けばビーチェに対してすごい失礼だ。
しかし周りを見渡すと、当主のシルベリオさんと嫡男のシルビオさんがうんうんと頷いている。
父親のオルランドさんと弟のカルロ君は苦笑い
母親のアドリアーナさんは、当然と言ったような顔で、何も言わない。
当主の妻スザンナさんともう一人の少年はニコニコと笑うばかり。
つまりビーチェをフォローするものは誰もいなかった。
「まぁまぁ、ピエール兄さん落ち着きなよ。初めまして!僕はアントニオだよ!ベアトリーチェ姉さんの婚約者になる人に会いたかったんだ!お話しようよ!」
こちらが年下のようで、明るく笑う少年
そして非常に美少年だ。
この容姿で人懐っこさがすごい。
社交性の塊のような子だな。
「フォン・サザンガルド家の皆さま。挨拶が遅れました。シリュウ・ドラゴスピアです。この度はベアトリーチェと婚約することとなりました。まだまだ未熟者ですがどうぞよろしくお願いいたします」
そう言いつつ、フォン・サザンガルド家の皆さまに頭を下げた。
反応がないので、頭を上げていると、フォン・サザンガルド家の息子達が驚きで固まっていた。
なんでだ
普通の挨拶をしただけなのに
そうして驚くようにして発言したのは嫡男のシルビオさんだった
「……なんと…ベアトリーチェの婚約者が…こんなにまともだ…と…?」
いや驚くのそこなんかい
「つくづく失礼じゃのう!シルビオとピエールは妾のことを何だと思ってるのじゃ!?」
ぷりぷりしながら抗議するビーチェに反論したのはピエールさんだった。
というかシルビオさんもピエールさんも明らかにビーチェより年上なのに、呼び捨てなの?
「おまえが幼い頃に私達にしたことを忘れたのか?いや幼い頃ではないな…現在もだ…理由もなく海岸の崖から海へ突き落されたり、騎乗の技術がなかった僕らを無理矢理馬に乗せ、見知らぬ土地まで連れて行き、自分だけ馬で帰り、置き去りにされたり……秘密基地を作ったからと招待されては、ゴブリンの巣だったり……」
おおう……想像以上のエピソードが出てきたぞ。
どれも子供の時に経験すれば、九死に一生を得る体験じゃないか
「どれも子供の可愛いイタズラじゃろうに…」
「……それは流石に僕も擁護できないよ…」
「シリュウまで!?」
「おお!わかってくれるか!シリュウ殿は常識人じゃないか!」
特別なことを言ったつもりはないが、ピエールさんの僕の評価が急上昇している。
「まぁ…そんな突飛なところも含めて僕はビーチェが好きなんだよ。別に矯正してほしいとも思わないしね。ただ人に迷惑をかけるようなことはしないようにね」
「…シリュウ!…こんな大勢の前でそんな好きとか言われると照れるではないか…//…シリュウの言うように人に迷惑をかけないようにするのじゃ」
僕らがそうやり取りをしていると、フォン・サザンガルド家の人達(スザンナさん除く)が目を丸くしていた。
「あのベアトリーチェが素直に言うことを聞く…?別人か?」
と疑うのはシルビオさん
「ベアトリーチェをここまで手懐けている…!?」
と驚くのはピエールさん
「いやぁ~ベアトリーチェ姉さんも乙女なんだね~。初めてみたよそんな顔」
と笑うのはアントニオ君
「さっきからうるさいのじゃ!お主ら!」
ビーチェが突っ込むが相変わらず味方はいない。
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挨拶もそこそこに、食卓に料理が運ばれてきた。
肉に魚、サラダにスープ、見たこともない豪華な料理が並ぶ。
そして僕らのグラスに飲み物が注がれていく。
シルベリオさん、オルランドさん、じいちゃん、アドリアーナさん、シルビオさん、デフォナさんは赤ワインだ。
スザンナさん、ピエールさん、ビーチェ、アントニオ君、カルロ君と僕は炭酸水だ。
スザンナさんとピエールさんはお酒が飲める年齢だと思うが、苦手なのだろうか、僕らと同じ炭酸水を飲んでいる。
皇国ではお酒は20歳から飲めるようになる。
成人年齢が20から16に10年前に引き下げられたが、お酒を飲む年齢は引き下げられなかった。
ちなみに王国では16からお酒が飲めて、帝国では年齢制限はない。
全員の飲み物が注がれたので、シルベリオさんが立ち上がり、それに倣って全員が立ち上がった。
「今日この日は、非常にめでたい日である。軍都という皇国の武の聖地を預かる我がサザンガルド家が、皇国の武の象徴であるドラゴスピア家と縁が結ばれる最初の日だ。この両家の素晴らしい門出をここに祝おうではないか。ではコウロン殿、お願いしまする」
「うむ。皇国の武の象徴とはくすぐったいが、我が孫シリュウが、ベアトリーチェ嬢のような素晴らしい女性を伴侶に迎えることができ、祖父として嬉しく思いまする。我がドラゴスピア家は武しか取り柄がございませんが、サザンガルド家の繁栄に資することをお約束しますぞ。ではこのめでたき日に乾杯!!」
「「「「乾杯!!」」」」
そして全員でグラスを掲げた。
そして宴会が始まった。
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