第20話 エクトエンド樹海再び
烈歴 98年 4の月16日
僕はエクトエンド樹海へ向かうべく、ビーチェが騎乗する馬上にいた。
相変わらず、ビーチェの腰にしがみ付いているが、ビーチェからは揶揄われることもない。
エンペラーボア討伐隊の皆が真剣な表情で、サザンガルドとカイサを結ぶ「海山道」を馬で駆けていた。
昨日は一日、遠征の準備を行った。
オルランド指揮のもと、騎士団長のフランコさんと家令のハーロックさんとビーチェで、誰が同行するか話し合い、物資の準備や、行程の確認などが行われた。
討伐隊は、僕とビーチェ、ビーチェの護衛のため、騎士団からは団長のフランコさんと女性騎士のリナさんの4名
リナさんはビーチェの少し年上の女性で、この若さで一隊を任されるほどの俊英なのだそうだ。
ビーチェを伴う遠征のため、女性騎士が同行した方が良いとの判断で、同行が決まった。
オルランドさんがもう少し討伐隊の人員を増やしてはどうかと提案されたが魔獣専門かのデフォナさんが「エンペラーボアは警戒心が強いので、大勢で行ったら出てこれないですよ!」と言ったので、必要最小限の人員となった。
運搬隊はデフォナさんを筆頭に、荷車やエンペラーボアの運搬のために騎士団員が30名ほど後発してくる。
僕ら討伐隊は、先行して、ハトウの街で休憩を挟んだ後、今日の午後からエクトエンド樹海へ入る予定だ。
乗り合い馬車ではサザンガルドとハトウで丸1日の時間がかかったが、今は馬で駆けているので、3時間ほどで着くそうだ。
そうこうしていると、サザンガルドに来るまでに寄ったハトウサービスエリアが見えてきた。
ハトウサービスエリアで、軽食を取り、馬の水分補給を行った後、ハトウの街へ向かってハトウ街道をひた走る。
その日の正午過ぎに、ハトウの街へ着いたのだった。
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ハトウの街へ着くと、僕らはハトウの駐屯所へ向かった。
今回の遠征において、ここを拠点とするらしい。
拠点に行くとハーグさんから入口で出迎えを受けた。
「ベアトリーチェお嬢様に、フランコ団長…それにシリュウ殿、お待ちしておりました。昨日の早馬で事情は伺っております。討伐隊の野営物資と運搬隊の宿泊体制を整えております」
「うむ、ハーグよ。ご苦労なのじゃ。こんなに早くまた顔が見れるとは思わなんだが、今は緊急事態での。妾達はそうそうにエクトエンド樹海へ入るぞ」
「かしこまりました。エクトエンド樹海の手前、ハトウの森の入り口に、我が隊の兵士が先行して、拠点を作っております。そこまで馬で行かれましたら、馬をお預けください。そこで我が隊の兵士が常に待機しておりますので、討伐後にハトウの街へすぐに連絡できるようにしておきます」
ハーグさんが事前に準備してくれた内容を説明する。
鮮やかな手並みだ。
本当に僕ら討伐隊はエンペラーボアの捜索と討伐に専念できる。
「ハーグよ、流石の手筈だな。このような駐屯所の長ではもったいない気がするぞ」
フランコ団長がハーグさんを褒める。
「いえ、このようなことは大したことではございません。それに、1つの街を愛着を持って守るということも素晴らしいことだと最近思い始めました。妻も子供もこのハトウの街が静かで気に入っておりますので」
「ふっ…ならばこれ以上は言うまいよ。手配感謝する。では少し昼食を取った後、出発するでよろしいか」
フランコ団長が討伐隊の面々に言う。
討伐隊のリーダーはフランコ団長だ。
特に問題がないので、みな一様にうなずいている。
その後昼食を取った後、僕はまた馬に乗り、ハトウの森の入り口まで駆けて行った。
そして森の入り口に、幕が複数設置されている拠点を見つけた。
そこで馬を預け、ついに僕らはハトウの森へ、エクトエンド樹海へと立ち入ったのだった。
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「ここからはシリュウ殿に先導していただきたいが、よろしいか」
フランコ団長が言う。
僕が一番土地勘があるので、問題ない。
「わかりました。では着いてきてください」
僕を先頭に、ビーチェ、リナさん、フランコ団長と続く。
歩きながらビーチェが僕に話しかけてきた。
「シリュウよ、エクトエンド樹海とハトウの森の境目って何処かや?」
「…う~ん…僕も良くわかってないんだよね。ただ魔獣の強さが変わる場所はわかるよ。ほら僕らが泊まった泉があったでしょ?あそこから段々とハトウに近づくにつれて、魔獣の強さが弱くなるんだ」
「泉ですかな…?ハーグから貰ったハトウの森の地図には泉はかかれておりませんな。おそらくその場所はエクトエンド樹海なのでしょう」
あの泉は安全地帯であるとともに、樹海の入り口でもあるのだろう。
「そうですね。とりあえずはその泉に向かいたいと思います。ビーチェと出会った場所、エンペラーボアがいると思われる場所は、その近辺だと思われますので。ただ今から向かうと夕方近くになり、そこから捜索をすると、戦闘が夜になる可能性が高いです。その泉で1泊してから朝に捜索を始めましょう」
「……わかりました。にしても樹海で安全に野営ができる箇所があるとは驚きですな……無論我々騎士の2人が寝ずの番を行いますぞ」
フランコ団長がそう言って胸をたたく。女性騎士のリナさんも無言でうなずいた。
最初の目的地が決まったので、僕らは泉を目指して、歩みを進めた。
というかリナさん寡黙だな……まだ声を聴いていない気がする。
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泉への道中は、順調に進んだ。
多少魔獣が出ても、僕とフランコ団長が、リナさんで問題なく狩っていた。
リナさんはショートソードと呼ばれる少し長さの短い剣を扱っていた。
剣筋は滑らかで、猫のような軽やかな剣捌きだ。
フランコ団長は、今日はハルバードを扱っている。
その巨体から必殺の一閃を繰り出している。
今日はビーチェの護衛できているが、相手が人ではなく魔獣なので、ビーチェを盾で守るというより、魔獣を屠った方が安全を確保できると判断し、魔獣を狩りやすいハルバードを選択したそうだ。
魔獣を屠りながら、夕方過ぎに僕らは泉へと到着した。
到着早々に、夕食を準備して、食べた。
夕食後に僕とビーチェが順番に水浴びをさせてもらった。
騎士のお二人は、今日は水浴びをしないようだ。
寝ずの番を行うが、水浴びをすると眠気が襲ってくるのだそうだ。
騎士団の遠征では水浴びができる環境は贅沢なもので、1日くらいできなくても全く問題ないのだと
リナさんも特に不満層ではなく、フランコ団長の説明にただ頷いていた。
ここまではフランコ団長とリナさんに世話を焼いてもらって申し訳ないので、寝ずの番を一部変わろうと申し出たが、断られてしまった。
「シリュウ殿、この作戦はあなたが柱なのです。なのであなたはゆっくりと英気を養ってくだされ」
「……ありがとうございます。お言葉に甘えて休ませていただきます」
「……妾も疲れたのじゃぁ~シリュウ~寝るぞ~い」
今日一日茶化すこともなく、真剣な面持ちで討伐隊に付いてきたビーチェもさすがに緊張の糸が切れたようだ。
僕らは小屋に戻り、2人並んで御座を敷いて、床についた。
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