第16話 カルロの危機、ビーチェの一手


「カルロがあと一月で死ぬ……?なんのことか……さっぱりなんじゃ…」


呆然としながら、妾は言葉の意味を考える。




確かにカルロは3年前から体調を崩すことがあり、ベッドから出られない日が続くこともあった。


ただ調子の良い時は、剣の稽古もしていたり、普段はともに夕食を取っていた。




ここ最近は、体調が悪い時期が続いて、自室に籠りがちだったが、それでも死ぬほどとは到底思わない。




妾がそうブツブツと呟きながら考えていると、父様は説明を始めた。




「私もアドリアーナも最初はただの不調だと思った。カルロはベアトと違って、昔から体があまり強くなくてね。赤ん坊の時に高熱で大変なことにもなっていた。だから私たちもカルロが9歳の時の最初の不調はそれほど気にしなかった。かかりつけの医者も風邪や流行り物の病と診断し、確かに最初は熱や咳が出る程度だった。しかし次第に体の一部が痺れる事が増え、体が思うように動かなくなる。そんな症状が続きはしないものの、偶にも発症したから、大きな病を疑ってね。ありとあらゆる医者にカルロを診せた。しかし何の病かはわからず、ただカルロの体だけが蝕まれていいた。この頃から万が一のことを考えベアト、お前に当主教育をさせたのだ。このような状況だからベアトへ縁談の申し込みは私の方ですべて断っている。年頃の娘には申し訳ないけどね」




父様の説明で、ここ数年の変化について、妾はすべて理解した。




妾に当主教育が行われていること


縁談の申し込みがぱったりと止んだこと




妾は精一杯声を絞り出して、父様の話を促すことしかできない。




「そうかや…カルロの病気はわかったのかや?でなければ余命1月などわかるはずもないじゃろ?」




「……本家の方にも診断と調査の協力を依頼した。本家の伝手で依頼した冒険者が有力な情報を持ってきた。どうやらカルロはとある魔獣の毒に蝕まれているようなのだ」




「毒…!?なんでなのじゃ!?……カルロは魔獣に襲われたことなど…ない…はず…じゃ…」




「これはつい先週判明したことだ…カルロが苦しんでいる状況が、その毒で苦しんでいる人の状況と酷似をいるらしく、魔獣関連の傷や毒の治療専門家にカルロを見てもらった。その毒は「テトロド」と呼ばれる海棲魔獣の毒で、海の向こうの大陸「中央大陸」では暗殺に使われる毒らしい。普通に暮らしていればまず体内に入ることはありえないようで、明らかに誰かに盛られてしまったのだ。カルロの症状を見た専門家曰くあと1月程度で、心臓や肺が麻痺してしまい、いずれ死に至るそうだ」




「……死んでしまう……?……暗殺!?……そんなまだあんな小さいカルロを…誰が…」




「……私たちも華族……誰かの恨みを買うことは珍しくない…犯人捜しは本家の方に依頼している。我々はカルロをなんとか助けないと…」




父様が俯きながら、こぶしを握り締めた。




「……毒なんじゃろう?特効薬や解毒薬はないのかや?」




「ちょうどその専門家の方は、その解毒薬の素材や調合方法も知っていた。素材はすぐに調達するよう指示をしているが、ある1つの素材については、目途が全く立たないのだ…」




「……何の素材じゃ?」




「…………エクトエンド樹海の奥に住まう魔獣の皇帝……エンペラーボアの肝だ……」




「………エクトエンド……かや…?」




「そうだ…あそこは皇家所有の禁忌の場所…我々華族と言えども、立ち入りには皇家の許可がいる。先週からセイトの皇家まで立ち入りの許可をもらうべき使者を送っているが、時間的にかなり厳しい。許可を貰ったとしても、エンペラーボアは幻の魔獣とされ、発見できるかされ見通しが立たない…それにSランクの魔獣…最低でもAランク以上の冒険者と契約をもしなければならない。あと1月…いや3週間か……それまでに皇家から許可を受け、エクトエンドに入り、エンペラーボアを見つけ、討伐し、サザンガルドへ持ち帰らないといけない……時間が…足りないのだ…」




ついには、項垂れて、椅子に座り込んでしまった、父様




「……あなた…諦めないで…!カルロはまだ生きています」




母様も父様を励ますが、その目には涙を浮かべていた。




「そうだな…いっそのこと無許可で入るか……息子を亡くしてまで、華族に執着する気もない!」




「……そうなれば私もどこへでもついて行きます」




父様と母様がカルロを助けるための方策を話し合っている。




弟が苦しみ、父が手を尽くし、母が悲しんでいる間に




妾は何をしていたのだ?




癇癪のように、家出をしたことをひどく情けなくも思った。






でも同時にのではないか?




「状況はわかったのじゃ…そして、妾の幸運に感謝しておる」




「……幸運?感謝?何を言っているんだ、ベアト」




父様と母様が怪訝な顔で妾を見る。




「この状況をきっと救ってくれる人を知っているのじゃ」




「…それは誰かね?」




「妾が連れてきたシリュウ。エクトエンド村の出身でAランクの魔獣を容易に狩る妾の友人じゃ」






シリュウよ






妾をまた助けてくれるかや…?
















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