第15話 ブラン・サザンガルド家
感動的?な母子の再会の後、僕は屋敷の中に案内され、応接室と思われる部屋のソファーに座っていた。
ハトウ駐屯所の応接室とは、比較にならない程豪華な応接室で、調度品が皆キラキラして見える。
そんな煌びやかな空間に似合わない、頭を押さえて半泣き状態のご令嬢
「もう本当にごめんなさいね?お見苦しいところを見せてしまったわ。私はそこの馬鹿娘の母親のアドリアーナ・ブラン・サザンガルドと言います。我が家はこのサザンガルド一帯の領地を治めているサザンガルド家の分家になります」
先ほどの一幕を詫びながら、ビーチェの母であるアドリアーナさんが自己紹介してくれた。
ビーチェは領主一族の分家なのか。
名前的に領主の娘かと思ったけど違ったようだ。
それでも雲の上の身分なのだろうけど
「いえいえ……家族の問題ですので…僕はシリュウと言います。数日前に故郷を旅立ち、身の振り方を考えている旅をしています。その旅の途中でビーチェと出会い、成り行きでともにサザンガルドまで来ました」
「あらあら?もううちの子は愛称で呼ばせているの?縁談をずっと断っていたものだから、てっきりベアトはまだ色恋には興味がないと思っていたわ。もう19なのに。年下が好きだったのね?今まで縁談は絶対に相手が年上だったから」
「あわわ…//勘違いじゃぞ!母様!シリュウは命の恩人なのじゃ!」
ビーチェが慌てて否定しつつ補足するけど、それは悪手じゃないかなぁ
「……あら?命の危機に瀕している程、危ない目にあっていたの?」
ほらね。
ただでさえ家出していたのに、自らの不注意で命の危険に晒されていたことがアドリアーナさんにバレると今度こそビーチェの頭が割れてしまうのではないか。
僕はビーチェの目を見る。そして思いを込めた眼差しを送った。ここは任せてと。
「……いやそんなにたいそうなものではないですよ?たまたまハトウの街の郊外を歩いていると、少し道に迷ったビーチェをハトウの街まで案内した程度です」
「……!!そ、そうじゃ!決して魔獣の群れに囲まれていたのを助けてもらったわけじゃないぞ!」
おおう……ビーチェ…それはもう自供だ……
「魔獣の群れに囲まれたですって?それも助けてもらった?それくらい自分で片付けなさい!」
アドリアーナさんは更に激怒して、持っていた扇子を閉じて、ビーチェに突き出すようにして言った。
いや怒るところもそこなんですか?
さっきもタキシラまで逃げてみなさいと、言っていたけど、タキシラは皇国の北西だ。
サザンガルドからは、ちょうど反対の対角線上にある。
そこまで逃げてみなさいとは…豪胆な…
ビーチェの破天荒振りはこの人譲りだな。そうに違いない。
「まぁ、ベアトが無事家に戻ってきてくれて良かったわ。あの人は自分の一言でベアトを傷つけてしまったと、ここ数日ずっとふさぎ込んでたから。今回の件は私たち大人にも反省するところはあったから、それはベアトに謝罪させてもらうわ。そして説明もね…」
これは驚いた。
僕はビーチェが癇癪のように家出してしまったというが、親からすれば心当たりがあるのか。
それも自らの不手際を認める程に。
ビーチェの方を見ると、同じように驚いている。
「……まさか母様からそのような言葉が出るとは思わなんだ…」
「それは私とあの人の話を聞けばわかるわ。もうこの辺りが潮時ね…あなたにすべてを話すわ」
「……それは妾に当主教育がされている件かや?」
「……そうよ。この話なのだけども、シリュウさんは除け者にするようで申し訳ないけど、私たち家族で話させてほしいの。話が終わるまで、部屋を用意するからそこで寛いでくださる?」
アドリアーナさんからそう提案される。
それは当然の話だ。
何なら僕はこの屋敷での用事は、ビーチェを送り届けた時点で、もう終わっている。
宿も探したいので、ここは退散させてもらうとしよう。
「いえいえ、ご家族の込み入った話に僕のような部外者が入らないのは道理です。部屋の用意も結構です。ここは失礼させていただいて、宿を探させていただきます」
「え!?シリュウや、行ってしまうのか……それはあまりにも早すぎるのじゃ…!」
「そうよシリュウさん。娘の恩人を簡単に帰すなんて我が家にはできませんことよ。サザンガルドにいる間は我が家に滞在なさい。もちろんご飯も召し上がってね?」
確かにここで別れるのは僕としても名残惜しい。
ビーチェのお父さんと弟さんにも挨拶できていないしなぁ
1日だけ甘えさせていただこうか。
「わかりました。では本日はご厄介になります。でも明日からは宿を取ることにします。あまり甘えるのも申し訳ないですし、少しサザンガルドという街を見てみたいので」
「そう?娘もあなたのこと本当に気に入っているみたいだし、何なら家に仕えない?執事でも兵士でも何でもいいわよ」
「……!母様!良いことを言う!シリュウや!我が家に仕えよ!さすればずっと一緒におれるぞ!」
「あら?プロポーズ?実の母親の前で情熱的ねぇ?」
「違うのじゃ!」
母と娘の微笑ましいやり取りに、つい笑ってしまう。
確かにビーチェの家に仕えるのも楽しそうだ。
でも
「それは確かに魅力的ですが…少しこの世界を回ってみたい気持ちも強いので」
僕はそう答えてしまう。
ビーチェの方を見ないで
見たらきっと悲しそうな顔していると思うから
「あらそう?まぁいつでも歓迎するから気が変わったらおっしゃってね?」
「ありがとうございます」
「では私たちは別室で話しているから、部屋でくつろいてくださいね?食事や飲み物も遠慮なく、侍従のものに申し付けていいのよ?シュリット!シリュウさんを部屋に案内して、」
「はい!奥様!」
先ほど出迎えに来てくれたメイドさんだ。
「シリュウ様ではどうぞ」
「ありがとうございます。じゃあビーチェ、また後でね」
「………うむ…また後での。シリュウ、今日はうちで夕食じゃ。豪勢じゃからのう、楽しみにしてるが良い」
「うん、楽しみにしているよ…あと」
「…ん?」
別れ際にそっとビーチェにだけ聞こえるように、耳元でささやく。
「僕は何があっても、ビーチェの味方だから、困ったことがあったら何でも協力するからね」
ビーチェの反応を確かめずに、僕はシュリットさんの案内で、応接室を出た。
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シリュウが応接室を出た後、母様に連れられて、妾は父様の書斎へと来た。
母様がノックをすると「どうぞ」という声がした。父様の声だ。
扉を開け、部屋に入ると、申し訳なさそうで、それでも苦しそうで、でも安心したような複雑な表情をしている父様がいた。
「ベアト……ひとまず無事で良かった。ハトウのハーグから早馬で文は来ていたが、やはり実際に顔を見ないと安心できなくてね…おかえりなさい」
「父様……今回のことは、妾もさすがに反省しているのじゃ…ごめんなさいなのじゃ…」
「……いや、これは僕ら親の責任かもしれない…ビーチェのことを子ども扱いして、説明してこなかったのが悪い。法令上は成人なのにね。いまだに16が成人は慣れないな…もう10年経とうとしているのに。僕らの世代はまだ成人は20と思っている人が多いからね。」
父様の言うように、成人とみなされる年齢が16歳に変わったのは約10年前のことで、父様世代の人はまだ慣れないらしい。
10年前以前は20歳で成人と法令で定められていた。
いまも20歳より下であると、実際の大人として扱われないことが多々ある。
妾も19歳であるが、まだ一人前のように扱ってはもらえていないように感じる。
「まぁそんなことはいい。それよりベアトにすべてを話そう。ベアトに当主教育をしているのか。なぜ縁談が来なくなったのか」
「………はい」
妾も固唾を飲んで父様の話を聞く姿勢に入る。
でもその話の切り口は妾の想像以上の鋭さをもって、妾の心を切り裂いた。
「カルロが……一月も経たずに死ぬかもしれない」
「……え?」
カルロ それは妾のたった一人の弟だ。
そのカルロが死ぬ?
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