第14話 ようこそ、妾の実家へ!

僕らを乗せた馬車は、サザンガルドの入り口の門を潜った。


大街道はそのまま街の大通りに接続し、馬車は大通りを進んでいく。




街並みは煉瓦造りの建物が並び、多くの人の熱と喧騒で彩られていた。




僕がこれまで以上に窓に張り付いて、街並みを眺めていると、またビーチェが温かい目で見ているような気がした。




馬車は、大通りを抜け、この街の駅と思われる場所に到着した。




「ここがサザンガルドの駅かな?ハトウよりかは大きいけど思ったより、小さいかな。」




ハトウの駅の倍ほどの大きさがあり、ロビーには商店があるので、ハトウよりかは大きいが思ったほどではない。




「ここはサザンガルドにある乗合馬車の駅の1つじゃ。サザンガルドには他に9つほどあるかの」




「えっ!こんな駅があと9つもあるの!?」




「こんな規模ではありんせん。ここは小さい方じゃ。もっと大きい駅もありんす。サザンガルドは大きい街じゃからのう」




「うーん、本当に大きいね。ビーチェここから家に帰れるの?」


僕はビーチェに尋ねた。




ここまで大きいと流石に住んでいる住民といえど、知らない場所もあるだろう。




「まぁ、ここから徒歩となると少し自信はありゃせんな。サザンガルドは街が大きく分けて6つの区画に分かれておる。行政区、軍用区、華族区、商業区、生産区、市街区とな。これは正式名称じゃなくて通称じゃな。正式名称は1区、2区と数字で呼称するのじゃ。ここは市街区で、妾の実家は華族区にあるから少し遠いのじゃ」




「街がそれぞれの役割で綺麗に整備されているのか…」




「かっかっか!まぁその系統の施設が多い程度じゃぞ?行政区に家を持つ庶民もおれば、軍用区に店を構えるものもおる。商業区に鍛冶場もあるし、生産区に役場もあるのじゃ。あくまでそれ専用という意味での通称ではないの」




「なるほどね、じゃあここからビーチェの家までどうやって帰るの?街の中を走る乗り合い馬車があるの?」




「おっ?鋭いのう!その通りじゃ、街の中を走る馬車があるでのう。それを捕まえたいのう…」




「どこに行けば乗れるの?」




「街の中の馬車は乗り合い馬車と個馬車があるぞい。乗り合い馬車は各地にある停車場に行けば乗れる。個馬車は大通りを走ってて、客を乗せてない個馬車を見つけて、手を振ったりして、乗る意志を示すのじゃ。そしたらその馬車に客を乗せる予定がなければ、前に来て停止して乗り込み、行き先まで乗せてくれるのじゃ」




「なるほど…だとしたら個馬車の方が高いよね?」




「その通りじゃ、乗り合い馬車は停車場に行かねばならず、行き先も各地の停車場で固定じゃ。その分運賃は安いがのう。個馬車は行き先も指定できるし、目的地に一直線じゃから早く着く。でも運賃は倍では聞かぬほど高い」




「ビーチェの家まではどっちがいいかな?やっぱ個馬車?」




「そうじゃのう。妾の実家がある華族区へは、乗り合い馬車の便は少ないのじゃ。今夕方くらいじゃからもう今日の便はないかもしれんのう…じゃが個馬車は運賃が前払いなのじゃ…そのう…シリュウや…」




ビーチェが両手の指をつんつん合わせながらこちらを上目遣いで見てくる。




「はいはい、今更だよ。僕の手持ちで足りる?」


 


「十分じゃ!ここから妾の家までなら金貨2枚はあれば足りるでのう!」




結構かかるな…まぁ今の手持ちには余裕があるからいいかな。


何よりビーチェを早く家に帰してあげたい気持ちが強かった。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


大通りで、ビーチェが個馬車を慣れた手つきで捕まえて、それに乗り込んだ僕ら




個馬車は個室が1つの紺馬車のようだ。




行き先をビーチェが告げると、御者の人は少しびっくりしていた。




びっくりしつつもそこはプロの商売人で、すぐ営業の顔になっていた。




馬車はどんどんと街の奥に入っていく。




華族区はやはり街の中心部にあるのだろう。




街並みをまた齧り付くように眺めていると目的地にすぐついた。




しかし馬車に乗り込んで1刻ほどは経過していたらしい。




サザンガルドの街に夢中になっていたようだ。




いくつか気になる建物があったからビーチェに後で聞こうかな。




ビーチェはまた夢の世界だからね。




目的地に到着したので、御者の方が報告に来た。




「ビーチェ、着いたよ。お家じゃない?」




「………ふわぁ?……着いたかのう?」




馬車はとある屋敷の前で停止していた。




見るからに豪華で大きな邸宅、たいへんなお金持ちの家だと瞬時にわかる。




入り口の門は、鉄製で、馬車2台は楽に倒れそうな幅もある。


庭は、色とりどりの花が植えられ、見るものを魅了させる。




東屋のようなものも建っていて、椅子とテーブルが設置されていた。


ティータイムは庭を眺めながら、紅茶や菓子を楽しめそうだ。




広さはハトウで1番敷地があった建物のハトウの駐屯所の5倍はあるだろう。


入り口から見える限りだけでそれだ。


奥にまだ敷地があれば5倍どころではない。




ビーチェと共に馬車から降りた。




馬車から降りて入り口で立っていると、屋敷の扉が開き、メイド姿の女性が1人出てきた。




「あの〜どちら様でしょうか?本日は当家へのご訪問の予定はなかったのですが…」


こちらに近づきながら、おずおずと尋ねてきた。




「あ〜、シュリットかや。妾じゃベアトリーチェじゃ…」


ビーチェがバツが悪そうに答える。




家出から帰ってきたからね。そりゃそうだ。




「……!?!?お、お嬢様!?お戻りになられたので!?」




「そうじゃ、そうじゃ。父様と母様はおるかや?」




「旦那様は出払っておりますが、奥様はご在宅です!お帰りなさいませ!……そちらの少年は?」




メイドの人が僕の方を不思議な目で見る。




家出したお嬢様の横にいる年下の少年


まぁなんだろうとは思うよね




「初めまして、僕はシリュウと言います。旅の途中でビーチェと出会いここまで共に旅してきました」


「シリュウは、家出してから出会ってのう!何度も助けられたのじゃ!恩人じゃぞ!」


「そ、そうでございましたか!ではシリュウ様もどうぞ!奥様をお呼びします!」




そう言うとシュリットと呼ばれたメイドは屋敷に戻ろうとした。


でもそれより先に屋敷の扉が勢いよく、バーン!と開いた。




「ベアト…あなた…!」


出てきたのは、金色の長髪を靡かせたドレス姿の美しい女性だ。


「あ!母様!ただいまなのじゃ!」


ビーチェが明るく応える。




どうやらビーチェの母親のようだ。


それにしても若い。


姉と言われた方が違和感がない。




ビーチェの母は、そのままツカツカと入り口に近づいてきて……








自らの右手を振り上げて








ビーチェの頭を目掛けて振り下ろした










しかもグーで








「いったぁ!!?」








「こんの馬鹿娘が!!どうせ家出するならタキシラくらいまで行ってみなさいよ!この根性なしが!!」










えぇ〜 怒るところ、そこなの〜?

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