第13話 ハトウサービスエリア そしてサザンガルドへ

ここはハトウ街道とサザンガルドとカイサを結ぶ皇国の大動脈海山道が交差する「ハトウサービスエリア」




僕らの馬車は交差点付近、街道の脇に広がっている空き地で止まった。


乗り合い馬車の停車場のようだ。




御者の方が、各個室の扉をノックし、サービスエリアの到着を報告しているようだ。




僕らはすでに馬車の停止とともに飛び出したので、外で立って御者の人と話す。




休憩は1時間半ほど取るらしい。




昼食を取ることと必要に応じて、軽食や飲み物を確保しておくよう助言された。




御者の人の話もそこそこに、ビーチェとともにサービスエリアの町並みに繰り出す。




ここにいる商人たちが幕を使って、簡易な店舗にしているようだ。


商店街がいくつも形成されていて、どこを歩くか目移りしてしまう。




売っているのは、簡単に手に取って食べられる果物や串焼きや各地方の特産品など、さながらお祭りだ。




しかし群を抜いて人が集まってる箇所が2つあった。




1つは食事所




平地に机と椅子が見渡す限り正方形のエリアに並べられており、その正方形を囲むように飯屋が並んでいる。




「あれはフードコートじゃな。各々が気に入った飯屋で買ってから真ん中のエリアで食事をするのじゃ」


「すごいね…見たことないよ…」




もう一つは何だろう?




僕が不思議に眺めているとビーチェがそっと答えた。




「あれは公衆便所じゃよ」




納得した。そりゃ1番人気の店だね。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




フードコートで食事をし、そこそこ商店街を見て回ったところで、停車場へ戻る。




停車場で戻ると少し騒ぎになっており、人の囲みが出来ていた。




囲みに近づいてみると、どうやら囲みの中心には大柄の男性がいて、声を張り上げていた。




「頼むよ!どこかの馬車に、誰か乗せてくれ!ここで寝ていたら有り金全部掏られちまったんだ!」




………ここで?ここって馬車の停車場じゃないの?




ビーチェも一見したら興味がなさそうに僕らが乗っていた馬車の戻ろうとする。




「たまーにいるのじゃ、ああいう悲劇をでっち上げて、乗り合い馬車代を浮かそうとする輩がの」




「そうなんだ、でもあの人嘘を言っているように見えないけど」




「詐欺師はみなそうじゃよ」




「ふ~ん、でもあの人




「ほぅ…シリュウの目からみて、そう感じるのかや?」




「うん、少なくとも丸1日街道を歩くくらいは問題なさそうな程、鍛えてそうだけど」




「まぁそのくらい逞しい奴なら、生き延びるじゃろうて、ほれ馬車にもどろうぞ。妾は食後の一眠りじゃ~。シリュウの肩はよく眠れるでの~」




ビーチェが欠伸しながら、その騒ぎを興味なさそうに立ち去ろうとする。




僕もビーチェに続いて馬車に戻った。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




休憩が終わり、僕らを乗せた紺馬車が出発した。




馬車は交差点に向かい、ついに五街道の一つ「海山道」に乗った。




この道は今までの土が固められた街道ではなく、灰色の素材で固められていて、広さも馬車5台が並列して通れそうなほど幅が広い。




この街道に馬車が乗り入れると、馬車の揺れが小さくなり、そして速さが一段階上昇した。




「すごい!今までの街道も悪路ではなかったけど、この街道は段違いだね!」




僕がそう興奮してビーチェに言うと、ビーチェははしゃぐ子供を優しく見守る大人のようにニマニマしながら街道の解説を始めた。




「五街道は特殊な素材を敷き詰めておる。火山灰と軽石と砕石をとある素材と混ぜ合わせた「混凝土(こんくりと)」じゃ。皇国は山が豊富での、この混凝土の原料が良くとれるじゃ。烈国大陸では皇国しか生産されておらぬ。五街道はすべてこの混凝土でできておるぞ。まぁ五街道すべてがこの混凝土で整備されたのはつい1年前ほどじゃ。8年前くらいから、国家事業として始めて約7年かかったわけじゃな」




ビーチェが淀みなく答える。


乗り合い馬車のこと、商家の証文のことと言い、ビーチェは華族の令嬢の割に世間をよく知っている。




「ビーチェは詳しいんだね」




「当主教育の一環で教えられるのじゃ。街道整備は領主としては抑えておかねばならぬ分野よの」




「そうなんだ。僕も村でサトリの爺さんに色んな事を教わった気がするけど、まだまだだね」




「まぁこれは領主になる者に教えられることじゃ。シリュウが領主になった時にまた学べばよい」




「そんなすごい存在になれるかな?」




「シリュウは戦乱を終わらせたいのじゃろ?であれば君主にでもなると思うたが?」


ビーチェは冗談交じりに問いかけてくる。




確かに戦乱を終わらせるには、僕は相応の地位を手に入れる必要がある。




流石に皇国でクーデターを起こして、皇王になり替わろうなんて、不謹慎なことは思わないけど




「………どうだろ?まずは身の振り方を考えなくちゃ、今の僕は何者でもないからさ」




そうだ。僕はまず何者かにならないと。




その先に、きっと僕の夢があるはず




僕が俯いて考え込んでいると、ビーチェはまた励ましてくれる。




「お主は、妾の友人、シリュウじゃ。ほれ、何者でもないことなかろうて」




確かに




僕にとって、ビーチェとの縁は




どんな出世よりも価値のあるものかもしれない。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




海山道を馬車は順調に進む。




僕は初めて見る景色を飽きずに眺めていた。




ビーチェは休憩後の出発早々、街道談義が落ち着いたところで、僕の肩を枕に寝入っている。




少し肩が重たくて、しびれたような感覚になるけども、それ以上に幸せな気持ちが胸から溢れていたので、何も言わずに、そのままにしておく。




風景はまちまちだ。




河を渡れば、畑が広がり、山脈が連なり、丘が続く。






名前がある自然のものを一通り見たと思うくらい自然豊かな風景が続いた。




その後は、いくつかの小さな村、集落も目に入った。




そして夕方頃、街道沿いに建物がぽつり、ぽつりと増えてきた。






ついに僕の目に大きな街が見えてきた。




ここまで大きな街を見るのは、幼少の時以来か。




僕が訪れたことがあるのは、学都タキシラだけ。




その街も子供ながらとても大きな街だと感じていたが、目の前に広がる街はそれよりも大きいのではないか。




そして僕らは着いた。




軍都サザンガルドに


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