第7話 ハトウ到着、トラブル?

翌朝 烈歴98年 4の月 12日 




夜明けとともに目覚めた僕は、いつものように軽く槍を振るって鍛錬をしていた。




ビーチェはまだ小屋で眠っているようだ。昨日は色々疲れただろう。無理に起こすこともないと思い、鍛錬をし、汗を泉で流して、朝食の準備をする。




朝食は昨日の野鳥と野草の残りを鍋で煮込んでスープにしたものと、村から持参していた麦のパンだ。




パンは2つあるからビーチェと分けよう。




そんなこんな朝食の準備をしていると、良い匂いに釣られてたビーチェがのっそりと小屋から出てきた。




「ふわぁ~…おはようなのじゃ…シリュウは朝が早いのぅ…」


「おはようビーチェ。僕の村は明かりの魔道具がほとんどないからね。日没とともに眠り夜明けとともに起きるのさ。ビーチェの住んでいるサザンガルドは大都市だから、夜まで煌々としているんだろう?」


「まぁの。歓楽街の方は朝まで明るいのじゃ、皇国の5大都市はみなそうじゃと思うが、眠らない街だのう」




明りの魔道具は、火の魔術が組み込まれた道具で、魔道具の中でもポピュラーなものだ。


火を灯す魔術回路が道具に組み込まれ、魔力を流せば、火が灯る仕組みだ。




エクトエンドの村でも持ち運びできるランタンタイプのものはあったが、ここでいう明りの魔道具は設置式の大型のもので、都市や村でも主要施設にしかない。


設置式のものは魔力を流す動力装置と共に運用されることが多いため、お値段もそうだが、装置の運搬等物理的に地方の村に設置することが難しいそうだ。




「妾も朝が得意ではないでのう、許してくりゃれ」


「急ぐ旅でないからね、全然大丈夫だよ」


「う~ん、良いぞ良いぞ、懐の大きい男はモテるぞ!シリュウ!」


「はいはい、ありがとう。朝食にしようか」


朝からビーチェとの掛け合いを楽しみつつ、朝食にありつく。




朝食を食べた後、小屋の鍋や御座などを整えて、ハトウへ向けて僕らは出発した。




この地点からは魔獣の強さも一段落ちるのでビーチェを護衛しながら向かっても心配はないと考えていた。






ビーチェがおとなしくしてれば






「む!シリュウ!あそこにうまそうな果物がなっているぞ!取りに行ってくる」


「ちょっと!あそこまでに谷があるよ!取れないって!」




「シリュウ!かわいい兎じゃ!ペットにしてやろうかのう!ほれ、おいでおいで!」


「それフェロシウスラビット!危険な魔獣だよ!下がって!」




「シリュウ!あの高台からの景色は良さそうじゃ!ちと見てくるぞ!」


「落ちないでよ…?」


「なーにこれくらいで落ちるほどどんくさい女ではないぞ!かっかっか!ってきゃあああ!」


「言ったそばから!掴まって!」






ビーチェは行動が自由すぎた。




そして行動力もある。




こんな未開の地で良くもまぁここまで動けるものだと逆に感心した。




でもこのままではいつか危険な目にあってしまうので、一度休憩がてら説教をすることにした。




「正座」


「……うむ」


「どうして僕が怒っているかわかりますか?」


「……うむ」


「樹海を抜けるまでは危険だから、僕からあまり離れないでね?」


「そ、それは、妾を傍に置いておきたいというシリュウの願望なのじゃ…」


「置いてくよ?」


「細心の注意を払ってシリュウの傍から離れないのじゃ!!」


「よろしい」




たった1日の付き合いの僕でさえここまで振り回されているのだ。


ご家族の苦労が偲ばれる。


それもビーチェの良さなんだろうけどね。




一度説教をしてからビーチェはとても素直に付いてきた。


ビーチェが大人しくなったので、旅路は順調に進んだ。




樹海をかき分け、獣道を辿り、ついには樹海を抜け、ハトウの街道が見える地点まで来た。


ここまで来たらもうハトウは目と鼻の先だ。




太陽は天辺から少し日が沈む方に落ちていく高さだった。




夕方までかかるかと思ったが、嬉しい誤算はビーチェの健脚ぶりだ。




女性には樹海の道中は辛いと思ったが、ビーチェは寄り道する余裕があるほどで、むしろ僕が方向を示すとずんずんと歩いていくほどだった。




何ならサトリの爺さんとハトウに行ったときよりもペースが早い。




ビーチェという女性の強さをまた一つ知った。




エクトエンドの村を出発して1日半、僕らはハトウの街へ到着した。




ハトウはエクトエンド村の最寄りにあるが、リアビティ皇国の中では典型的な田舎都市らしい。




僕はハトウ以外の田舎都市を知らないからサトリの爺さん曰くだけど。




田園風景が広がり、石作りの建物がぽつぽつとあり、行商人の馬車が散見される。




中心地は建物が並び、役場、軍の駐屯地、教会、商会、宿場、冒険者ギルドの派出所など、どの街にも必要な施設が1つはある街だ。




「はぁ~帰ってきたのう…」


「ビーチェからするとそういう感想になるのか。まぁ僕もハトウはよく来るからまだ旅の高揚感は少ないね」


「サザンガルドに行くとあまりの大きさにきっと感動するのじゃ!」


「楽しみにしてるよ。とりあえず乗り合い馬車を確保しようか、いつ出立するか確認しないと」


「………あぁ~…妾…馬車代の手持ちが……なくての…」


「そう言えばそうだったね、まぁビーチェの分も払えるくらいにはあるから大丈夫だよ」


「ほんとかや!何から何までシリュウには助けてもらってばかりじゃ!サザンガルドに着いたらきちんと色を付けて返すでの!父様が!」




返すの君じゃないんかい。色を付けるって勝手に言っていいのか。




ハトウの街を進み、乗り合い馬車の駅へ行く。




皇国は主要都市とその衛星都市の街道が整備されているため、乗り合い馬車が発達している。




小さなものは10人乗り、大きなものは50人乗りのものもあるそうだ。




5大都市は環状で繋がっており、その都市から衛星都市へと乗り合い馬車が出ているため、大抵の街には乗り合い馬車を乗り継いだら着くようになっている。




そのため乗り合い馬車がある街には駅と呼ばれる旅客の乗降を行う場所が設置されている。




駅は馬が過ごす厩舎と、乗客の受付と待合の場所のロビーで構成されていることが多い。




大都市の駅はロビーの中に商店やレストラン等も併設されているそうだ。




ハトウの乗り合い馬車の駅に着く。




ハトウの乗り合い馬車の駅はそこまで大きい駅ではないので、厩舎とロビーだけの簡素な造りだ。




乗り合い馬車の出発時刻を確認しようとしたら、受付の方に人が集まっており、何やら騒がしい。




「いつになったら再開するんだ!商談に遅れちまう!」


「見込みだけでも教えてくれよ!未定が一番困るんだよ!」


「仕事の休暇も終わっちゃう!早くサザンガルドに帰らないと欠勤になるのよ!」




どうやら受付の人に多くの人が苦情を言っているようだ。




状況が解せないでいるとビーチェが近くの男性に話しかけていた。




「そこの御仁、これは一体何の騒ぎかの?教えてくりゃれ?」


「おっ?美人な嬢ちゃんじゃねぇか。どうやらサザンガルドまでの道にある橋に魔獣の群れがいるらしい。数日前までにはいなかったらしいんだが、急に現れたようでよ。軍や冒険者ギルドに駆除の依頼を出しているが、先方も諸事情で動けないらしいとさ。それで乗り合い馬車は運行休止・再開未定というわけさ」


「なるほどのぅ、助かったの」




「まぁこの街で数日留め置かれそうで暇なんだ、嬢ちゃん俺と一緒に…」


「すまぬのう、妾には連れがいるのじゃ、ほれ」


ビーチェはそういうと近くにいた僕の腕を引っ張り、腕を組んだ。


急にビーチェとの距離が近くなったため、僕はドキッとする。




「ちっ、連れありかよ…まぁ嬢ちゃんほどの美人なら連れはいるか」


「自慢の連れじゃ、ずっと傍におれと熱い言葉を妾に日頃から囁いてくれるのじゃ」




物理的にね?魔獣から守るためにね?




「見せつけやがって…お幸せにな!くそったれ!」




祝福の言葉なのか捨て台詞なのかよくわからない言葉を吐いて男は離れていった。




「にしても魔獣の群れで運行停止か、それくらい軍がちょろっと片づければよいものの…」


「確かにそこまで強い魔獣なのかな?」


「ここにいてもわかりゃんせんな、駐屯地に行ってみようかの」


「えっ?駐屯地に行って教えてもらえるものなの?一般人が?」


「普通の人なら無理じゃろうが、ほら妾はサザンガルドの華族じゃからの。一応顔は利くのじゃ」


「本当かなぁ…」


「ま、まぁ!行ってみるのじゃ!これも人生経験じゃて!」




そういうビーチェに半ば強引に腕を引かれ、僕らはハトウの駐屯地に向かった。


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