2-2


 カリンを真ん中にしてベッドの上に横になる。

 相変わらずカリンはエリアスにぴったりとくっついているが、片方の手はしっかりとレナの指をつかんで|離《はな《さない。

 そんなカリンの頭を撫でながら、レナはひたすらカリンとエリアスをたたえた。


「雷が怖いのに、頑張って堪えていてカリンはえらいですね!」

「……わたし、こらえてない……」

「いいえ、ものすごくえていましたよ。私がカリンくらいの時なんて、雷に負けないくらいに大泣きして暴れていましたからね。だからカリンは偉いんです」

「それは……おにいさまがぎゅってしてくれるから」

「そう! エリアス様も偉いです。雷の大きな音なんて誰だってびっくりするし怖いのに、カリンをずっと抱きしめてくれていたんでしょう? その辺の大人だってできませんよ、そんなこと。うん、二人とも偉い、偉すぎますね」


 我ながら下手くそかと思いつつ、それでもレナは二人を褒め続けた。

 エリアスはどうやらレナがカリンを落ち着かせようと、そしてなんとかしてカリンに自信をつけさせようとしているのを察したらしく、みょうみをかべている。

 それでも、そのひとみには不信感ではなくかすかながらに喜色が交じっていることに、レナは内心ほっとした。

 やがて、カリンはレナのうでごとむなもとに抱き込むように引き寄せ、そのまま小さないきを立て始めた。

 必然的にエリアスと向き合う形になってしまう。カリンを安心させるためとはいえ、としごろの少年とどうきんしているじょうきょういまさら気付き、レナは気まずくてたまらなくなる。


「……ありがとうございます」


 もう少ししたら自分はソファに移動しよう、と考えていたレナの耳にエリアスの小さな声が届く。

 その感謝の言葉は、一体どれに対するものなのか。

 コップを割ったことを怒らなかったからなのか、あるいは泣いて怯えるカリンを優しくなぐさめたからなのか、それとも││ 兄妹の異常ともいえる様子を前にして、問いたださなかったからなのか。

 全て正解かもしれないし、不正解かもしれない。だがレナにはどちらでも良かった。

 二人がこれまで置かれた状況を知りたくないわけではないけれど、いやむしろ、これから保護者として接していくからには知っておくのが正解だろう。

 けれど、それは「今」ではないのは確かだ。今はただ、兄妹が少しでもレナを信頼してくれて、そしてとにかく安心してねむることのできる場を用意してやるのが一番だ。


「ベッド、せまくないですか? 眠れそうです?」


 なんと声をかけていいのか分からず、ついそんなどうでもいい言葉が出てしまう。

 仮にも商売人なのに口下手がすぎる。さらには大人なのに、と軽く自己けんすら抱きそ

うになるレナに、エリアスは微かながらに笑みを浮かべた。


「いいえ、広くて暖かくて……ゆっくり眠れそうです」


 ありがとうございます、ともう一度つぶやくエリアスは笑ったままだ。それなのに、どうしてもその顔が泣いているように見えてしまいレナの心臓がきつく痛む。

 うれき――こんな、おだやかな一夜を過ごすだけで涙を流すほど喜ぶとは、一体彼らはどんな仕打ちをあの家で受けていたのか。

 腹の奥底からがる怒りにレナはさけびたくて堪らない。だが、そうすればせっかく眠っているカリンが起きてしまうし、今にも夢の世界へ旅立ちそうなエリアスのじゃをしてしまう。

 そもそもレナに怒る資格などないのだ。

 だからレナはゆっくりと息をく。そうしてエリアスと同じように笑みを浮かべ、眠りのあいさつを口にした。


「それは良かったですエリアス様。おやすみなさい――いい夢を」


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