1-4
*****
見合いの席のその場で
現在、
「
「家督を
ザビーネの問いにエリアスは一切の迷いを見せずに即答した。それが一番早い方法だとしても、あまりの迷いのなさにレナは思わずぎょっとなる。ザビーネも同じだ。
ここで、それまで
「それがいいわ」
パン、と軽く手を叩いてエリアスを
「そうなるとカリンに移るわけだけれど、あの子はまだ幼いものね。エリアスと同じで、成人の頃に家督を継ぐか放棄するかを選ばせてあげたらいいんじゃないかしら?」
夫人のさらなるダメ押し。
ザビーネは夫人の言葉に同意をしつつもやはりどこか不服そうだ。エリアスの家督の他に、レナが提案した二つが気に入らないようだ。
エリアスとの結婚は、今年一年は婚約期間とし、成人すると同時にレナの方に
そこでレナも
この辺りでレナはようやく気がついた。こうなることを
半日も
レナは元より、エリアスもいまだにどこか
見知らぬ場所、そして初めて会う人間。二人
兄と同じく美しい顔立ちをしており、
今でも
そんな二人を、口にするのもおぞましい境遇からギリギリで救い出すことができて本当に良かったと、レナは
「色々と先行きが不安でしょうけど、ひとまず今日はもう休みましょうか」
できるだけ兄妹、特に幼いカリンを不安にさせないようにとレナは笑顔を見せる。
「でも、
エリアスもカリンもきょとんとしたまま固まっている。言われている意味が理解できない、と。使用人として連れてきたわけではないと言うのなら、一体どんな目的で? と不思議がる姿にレナの中で再び怒りの
「部屋は二階の奥から二つ目です。隣は私の部屋なのでそこまで一緒に行きましょうね。夜中に
怒りの波動をどうにか抑え込み、レナは二人を
腹は立つし
いまだ疑問は残るのだろうが、二人も
寝室の前でもう一度「何かあってもなくても、起こして大丈夫ですからね」と伝えてやれば、エリアスは小さく頷いた。
そうしてそれぞれが部屋へと入ると、ほぼ同じタイミングで転がるように
明けて翌日。通いのメイドであるヘルガが作ってくれた朝食はエリアスとカリンの
「レナさま」
カリンは声までも可愛らしい。
兄妹揃って美の神の
「レナと呼んでください、カリン」
「……レナ、は、おにいさまと結婚なさったの?」
「結婚しましょう、というお話をして、今は婚約期間ですね。来年、エリアス様が成人なさってから正式に結婚という流れになります」
カリンの瞳は不安に
レナとしては可能な限り少女の不安を取り去ってやりたい。そう思って「他に何か聞きたいことはありますか?」と
「わたしはなにをしたらいいですか?」
「何を? って、別に何も」
「おそうじはできます。お料理も、すこしなら……今日から一つずつおぼえていくので」
「よーしその辺りも含めてゆっくりお話ししましょうね。エリアス様もですよ」
労働力として
声を荒らげてしまってはせっかく心を開き始めた幼い少女を怖がらせてしまう。カリンが怯えると、
レナが怒りを
してである。
絶対許さないからな、という心の中のリストにしっかりと名を刻み、しかしそんな
「家のことは全部ヘルガがやってくれるので大丈夫です。男手が必要な時はその都度
大工仕事や大きな荷物の
「じゃあ僕らは何をしたらいいんですか?」
エリアスもカリンも不思議そうにレナを見つめる。
彼らにこんな意識を根づかせた実家、とりあえず顔を
罵倒してレナは荒ぶる気持ちを必死に
「お二人が、したいことをしてください」
カリンは言われた意味が分からないのかきょとんとしている。
エリアスは
「エリアス様には昨日お伝えしましたけど、もう一度言いますね。私がエリアス様と結婚を決めたのはお二人が可哀相だから、というのはもちろんあります。ありますよそりゃ!」
初対面の人間に
だが、彼らの境遇を聞いて悲しい気持ちにならずにはいられない。
「そんな子どもが目の前にいて、それをどうにかできる力を自分が持っていたら、その力を行使するのが大人の責任なんです││ なんてもっともらしく言ってみますが、ぶっちゃけると単に私の
そう、可哀相だからだとか、子どもをみすみす不幸な
「そう、私の自己保身だし
さんいる不幸な子どもはどうするんだってなるでしょう? できるならそりゃ助けたいですよ。でもさすがにそこまでの力は私にはありません。なので、せめて目の前にいる、どうにか手が届きそうな相手だけでも助けたいんです」
カリンはジッと話を聞いている。エリアスも同じだが、まだ
「私も
だから、とレナは幼い兄妹に
「私が受けた
なんだかものすごく
良さげなことを言っているつもりだが、あくまで「つもり」でしかない。ただただ、レナの自己満足なだけなのだ。
それでも二人、特にエリアスにはようやく納得してもらえたようだ。はい、と静かに、しかしはっきりと頷いてくれた。
「あ、でもだからといって、二人とも無理して何かを目指さなくてもいいですからね! 私もやりたいことをして、今があるので。だから、まずは自分のやりたいことを見つけましょう。そして素敵な未来を歩んでください。私はお二人が幸せになる姿を、一番近い特等席で拝見しますから」
美しい兄妹が
知らず笑みが浮かぶレナを前に、幼い兄妹は自分達なりに思案を
だが、レナがその中身を知るのはこれから六年後のことである。
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