第二章 バレてはいけない新婚生活
2-1
窓から差した朝日を浴びて、エミリアは目を覚ました。――
「んー。やっぱり一人
ここは
「ディオン様は今晩には帰ってくるらしいけれど……こまめに不在にしてくれたほうが助かるんだけどな。
「おはよ。ルカ」
海色の石が
海青石の色調はルカの
「……そういえば。ディオン様の目も、ルカと同じ色だったわ」
(領主邸の
使用人達の
「きれいに整えてくれてありがとうございます」
三人のうちの二人が、笑顔を返してくれた。――しかし。
「奥様。この前も言いましたが、侍女に対して敬語を使うのは不適切でございます」
サラという名の侍女だけは、不満そうに
「そうだったわね。教えてくれてありがとう、サラ」
「まぁ、平民出身の奥様には不慣れな世界かもしれませんが。領主夫人としての
冷ややかな口調のサラに、他の侍女達は顔色を変えた。
「奥様、申し訳ございません。サラが大変な失礼を……」
「いいのよ。サラの言っていることは正しいわ」
聖女には聖女の、領主夫人には領主夫人の、適切なマナーがある。自分は〝平民出身の領主夫人〞になり切る訳だから、
侍女達に導かれて食堂に向かうと、
「おはようございます。メアリ様」
「おはよう、ダフネ。昨日も言ったけれど、お
「いえ。私はメアリ様の専属護衛という役職をディオン殿下より
――ぎん、と射殺すような
「ひっ……!! そ、それでは奥様。お食事がお済みの
「ちょっとダフネ。何その目つき、
「少し
「私のため?」
当然のようにうなずいてみせるダフネは、とても力強くて。だけれど、少し不思議だった。
(ダフネはどうして私のことを、こんなに心配してくれるんだろう……?)
朝食を済ませたエミリアは、中庭のガーデンチェアに座って一人のんびりと
うららかな春の日差しの下、今はモーニングティーの時間である。世間
ダフネは今も、やや
「お呼びですか、メアリ様」
エミリアが紅茶とお菓子を笑顔で指し示すと、ダフネは察したようにうなずいた。
「ああ、毒見ですね。かしこまりました」
「えっ、
ダフネは、あからさまに顔をしかめる。
「ありえません。護衛が主人のティータイムに同席するなんて」
「たまにはいいじゃない。せっかくのセカンドライフなんだから」
「……今日だけですよ」
「うん、ありがとう。実はね、昔からちょっと
「私は友達ではありません」
「ねぇ。前も聞いたけどさ。どうしてダフネは私を助けてくれたの?」
皇城勤めの侍女であるはずのダフネが、なぜ
「………………私自身が、そうすると決めたからです」
ダフネはしかめ
「そっか。それなら、二人で一緒に自由になろうね」
「あなたが
エミリアは笑った。こんなふうにのんびり話せる日が来るのなら、王弟殿下との
――その日の夜、ディオンが視察から戻ってきた。一緒に夕食を囲みながら、彼はエミリアに問いかけてきた。
「メアリ。ここでの暮らしには
「はい、おかげさまで。こんなにのんびり過ごすのは生まれて初めてで――」
いけない。気が
「と、ともかく、のんびりゆったり幸せです。ありがとうございます」
「それは良かった。だが屋敷に
「はい?」
「街に出て、二人でデートしよう。せっかく
デート!?と目を白黒させるエミリアを見て、ディオンは楽しそうに笑っていた。――翌朝、
「……ディオン様。本当に行くんですか? デート」
「似合うよ、メアリ。とても
(デート!? なぜにデート!? ……困ったわ、私デートなんて一回もしたことないし。挙動
あわあわしているエミリアを、ディオンが屋敷の外へと導く。すでに馬車の準備も済んでいた。なんとかうまい理由をつけて断ろうと、エミリアは必死に頭を
「で、でもディオン様。視察明けでお
「いや、視察明けはむしろ全力で遊ぶのが俺の
「えぇぇー……」
エミリアを馬車に乗せ、ディオンは後ろを振り返った。騎士服姿で待機していたダフネに、ディオンが歩み寄って
「ダフネ。今日の護衛を
「……
ディオンが馬車に乗り込むと、馬車は
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