1-2
――それから七年。十八歳になったエミリアは、今日も変わらず〝聖女カサンドラ〞を続けている。一日の仕事を終え、ダフネを
「今日はいつも以上に巡礼者が多かったわ。しっかり休んで魔力を回復させなきゃ!」
早く自室に戻って、変装を解いてのんびりしたい。そんなふうに思っていると……。
「あら。今日も
後ろから
エミリアは引きつりかけた顔面に力を込めて、笑顔を作った。
「あら。こんばんは、
「労い? お前って、相変わらずおめでたいのねぇ。お前の
「じゃあ、カサンドラ様がお手本を見せてくださいよ。でも十年近くずっとご
「あらあら。代用品の分際で、思い上がるのは見苦しくてよ? お前なんて、いなくなっても誰も困らないのだから。でも、わたくしは違うわ。
鼻で笑って立ち去る皇女を、エミリアは
「くぅぅ、カサンドラ様ってやっぱりむかつく! 感謝の言葉の一つもない訳!? 」
ベッドに突っ
「毎度のことながら、お
「すごく腹立つ!! ダメだわ、イライラしすぎて寝れなそう。こういうときは……」
ベッドから起き上がり、エミリアは鏡台の引き出しからイヤリングを取り出した。
「……エミリア様、またそのイヤリングですか。本当にお気に入りなんですね」
「うん! このイヤリングがあると、なんか優しい気持ちになれるの」
「昔助けた、竜化病の少年からもらったもの――でしたっけ?」
「ルカっていう子よ。初めて自分一人で、竜鎮めをしたのがルカだったの」
七年も前のことだけれど、今もはっきり覚えている。
エミリアはイヤリングを握りしめ、力強く笑った。
「よし、元気出てきた」
――
カサンドラに意地悪を言われても、皇太子や皇帝、皇后に道具扱いされていても、どうでもいい。自分の
……だが。なぜかエミリアより先にカサンドラの堪忍袋の緒が切れてしまったらしい。
「皆の者、騙されてはなりません! この女はわたくしのニセモノです。わたくしの名を
エミリアの髪から流れ落ちる赤い染料を見て、なぜかカサンドラが
(――えっ!? なんてことしてくれるのよ、この人!?)
エミリアは頭が真っ白になった。壇上に現れた
「騎士達よ、この女を
あわあわしているエミリアを、
「ちょ……!? いきなりなんの
「お
「一体私が何をしたって言うんですか!?」
……意味が分からない。いきなり乗り込んできたのも意味不明だし、そもそも替え玉にしてきたのは皇族の方だ。挙句の果てに、処刑って……?
「ちょっと――!! あんたら、いい加減にしてよ!」
泣いても叫んでも、エミリアの
(……ふざけないでよ、絶対にこのまま殺されたりしないんだから!)
窓はない。
(それならうまく
そんな器用な芸当が自分にできるか疑問だったが、
うん……。全然うまくいかなかった。
残飯のような食事を運んできた牢番は、エミリアの話に耳も貸さない。「聖女様の名を騙ろうとした卑しい女め、さっさと死んじまえ!」という
聖女の仕事に
(……そ、それなら処刑の日に実力行使よ!!
脱走なんて、自分一人でできるだろうか? ……でも、やるしかない。
処刑が何日後だか知らないけれど、死んでたまるか。そう思い、体力を温存しようと決めた。
投獄されて、早一週間が
(私って、バカだなぁ。逃げ出すチャンスなんて、これまでいくらでもあったのに)
悔しい。悲しい。……全部投げ捨てて、さっさと逃げるべきだった。あんな身勝手な人達に飼い殺しにされるより、聖女の力を隠してひっそり生きるべきだったんだ。
「……エミリア様」
エミリアはハッと顔を上げた。いつの間にか、鉄格子の向こうに騎士服を
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