二十三話 あなたを守りたい



「消えた……」


 ジョーンズが呟く。


「ほらね、わたしの言った通りでしょ」


 四人が一斉にアニスを見た。アニスは、びくっと体をすくめた。

 いつの間にか雨はやんで、日が差している。日はだいぶ傾いており、この先、さらに森の中を進むのは困難だと思われた。


「手短に話せ」


 ジョーンズが警戒した顔で言った。


「あなたの命が狙われているの」

「なぜだ」

「え?」


 アニスは答えられなかった。雫の精霊が教えてくれたが、理由までは聞いていなかった。


「今のはお前の仕業じゃないだろうな」


 ロイが胡散臭そうな口調で言った。アニスはむっとする。


「わたしじゃないわ。精霊が教えてくれたのよ、あなたたちが危ないって」

「精霊だって?」


 美形の男性が眉をひそめた。


「君は誰だ。何者だ」

「わたしは、その……、魔女の見習いなの……」


 アニスはぼそぼそと自信なさげに答えた。


「あなたを守りたいの、ジョーンズ」


 まっすぐに顔を上げて、ジョーンズを見つめる。その細い目には力がこもっていた。

 ジョーンズは驚いた。頭の悪そうなこのメイドが魔女見習いで、自分を守りたい? それだけで、ここまでついて来たというのか。


「君の目的は?」

「あなたを守るためよ。一緒に連れて行って邪魔はしないから。お願いよ」

「どうする? ジョーンズ」


 美形の男性が聞いた。


「たぶん、彼女は断ってもついて来る気がするけど」


 少年が肩をすくめる。ロイも大きく頷いた。ジョーンズは、力なく息を吐いた。


「分かったよ。ただし、君の身は自分で守ってくれ」

「いいのね? やったあっ」


 アニスがぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「だいぶ、日が暮れた。今夜はここで野宿しよう」


 ジョーンズが仕方なさそうに言うと、ロイが驚いた顔をする。


「ここで? さっき襲われたばかりじゃないか」


 四人は一斉にアニスを見た。アニスは、だ、大丈夫よと小さく答えた。


「魔法陣であなた方を守るわ」

「君が?」


 美形が目を見張る。


「魔女見習いにそんなことができるのかい?」

「できると思うわ……」


 たぶん、とアニスはさらに小さく呟いた。

 というのも、タンジーの肉体でどれほどの魔力を扱えるのか、分からなかった。

 ジョーンズはそれについては何も言わず、怖い顔をして、アニスの方をじっと見つめていた。


「明日の朝、できるだけ早くに出発しよう」


 ジョーンズが静かに言って、たきぎを集めに行った。残ったアニスは魔法に使えるハーブを採取しようと思った。サシェにしておけばいつでも利用できる。

 川辺にはいろんな花や草が生えていた。それらを少しずつ摘んでいると、四人が戻って来た。

 落ち葉や薪をまばらに置いて、火打ち石で火をつけると、最初は小さな火が徐々に大きく燃えていった。

 アニスは四人から少し離れた場所に座って静かにしていた。すると、美形の男性がアニスに声をかけた。


「こっちにおいで、おチビさん」


 アニスは、むっとして口を尖らせた。


「わたしは、チビじゃありません」


 すると、一番年上に見えるロイがにやりと笑った。


「風邪ひくぞ、火に当たった方がいい」


 アニスは、そっとジョーンズを見たが目を逸らされた。

 チクンと胸に痛みが走る。

 困惑すると、座っていた少年も手招きをした。


「遠慮しないで、おいでよ」


 アニスは気後れしながらも男性たちの中に加わった。


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