第19話 使い魔の使命
怒っているのだろうか。
ジョーンズは顔をしかめ、何を考えているか分からなかったが、無言でわたしを見ていたかと思うと、うつむいて呻いた。
「ジョーンズ…」
わたしはたまらなくなりジョーンズの手を取ろうとすると、ぐいっと力いっぱい抱きしめられた。
息ができないほど強く抱きしめられ、腕の中にすっぽりと入ってしまった。
気がつくと、ジョーンズが小さく震えながら泣いていた。
「やっぱり君だった。ものすごく君に……会いたかったんだ」
自分に言い聞かせるようにジョーンズは言った。
その言葉を聞いてわたしは涙があふれた。
「ごめんなさい、あなたを苦しめてごめんなさい」
「アニスっ」
ジョーンズが怒ったように言った。
「もう、僕のそばを離れないでくれ。ずっと、そばにいると約束するんだ」
わたしは目を見開いた。涙も止まってしまう。
「それは命令? でも、わたしにはしなくてはならないことが……」
「命令されるのは嫌か? でも、こうでもしないと君をそばに置いておく方法が分からない。もう、どこにも行って欲しくない」
――しかし、グレイ卿、アニス王女には使命が…。
ライラが口を出すと、ジョーンズはわたしを守るように抱き寄せた。
「いいや、君たち妖精にはもうアニスは渡さない」
――そんな…。
ババロンが呆気にとられたように口を開ける。隣でカオスが顔をしかめ、隣でミモザが頭を下げた。
――ミスター・グレイ、いや、グレイ伯爵、お久しぶりでございます。
「まさか、君はミモザ?」
ジョーンズが信じられない顔をしている。
――ええ。
ミモザが穏やかに頷いた。その時、ジョーンズの体が強張った。
「復活したのか…」
独り言のようだったが、わたしに言ったようにも聞こえた。
「ジョーンズ、話を聞いて」
「いいとも。君が二度と僕から離れないと誓うなら話を聞く」
わたしはもちろん、離れないと答えたかった。でも、容易に答えられない。
「アニス、僕は本気だ。そして、君の気持ちだって分かっているつもりだ」
「え?」
「君が何を考えているのか分かっている。だからこそ、僕は君の力になりたいと思うが、手放すつもりはない。君がパースレインを取り戻すつもりでいることも、ラベンダーや他のことも守ろうとしていることも全部理解している」
ジョーンズは冷静な口調でそう言った。
わたしは胸が熱くなって、さらに泣きたい気持ちになった。
「だから、答えてほしい。何があっても僕のそばを離れないと、そして、君が望む場所に僕はどこへでもついて行くつもりだ」
ミモザが私の心に囁いた。
(アニス、彼を信じなさい)
ええ。
わたしは何度も頷いた。
信じるわ。だって、あなたはわたしの使い魔だし、あなたは最初にそう言った。
「何があっても、彼のそばを離れてはいけないと」
わたしがミモザの言葉を口に出すと、ジョーンズが怪訝な顔をした。
わたしは彼の頬を両手で包みこんだ。
「最初に言ったの。ミモザはわたしにどんなことがあってもあなたから離れてはいけないと。なのに、わたしは約束を破った。今度は間違えないわ。わたし、何があってもあなたのそばにいるわ」
「最初に? ミモザがそう言ったのかい?」
ジョーンズが信じられないと言うように、ミモザを見つめる。
ミモザがにっこりと笑った。
――グレイ伯爵、わたくしはアニスの使い魔です。あなたの使い魔と同じように、主人のためなら命は惜しみません。しかし、わたくしは黒い力に負けてしまった。主人を殺そうとした使い魔です。
「やめて、ミモザ、あなたを殺したのはわたしなのよ」
――いいえ。あなたは何も悪くない。
ミモザが首を振る。
――グレイ伯爵。わたくしはこれからも命の限り、アニスを守ると誓います。それが使い魔の使命なのです。
ジョーンズが大きく目を見開いて、そして、口を引き締めると強く頷いた。
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