第10話 大きな集落



 ようやく薄暗い沼地を抜けると、焼け野原へと出た。

 突然、草木がなくなり、雨が降ったのだろうか、黒焦げの大地はぬかるんでいた。

 わたしたちは警戒して進んだ。大地は冷たい。焼けたのはだいぶ前のようだ。それでも雑草は生えていない。


「魔法の痕跡が残っている…」


 ジョーンズが重々しい口調で言った。そして、顔を上げた時何かを決意した顔をしていた。


「やはり、一度カッシアへ戻ろう。やみくもに動いてラベンダーたちを探すよりも、ラリーサの安全を確かなものにしてから動いた方がいい」


 ジョーンズの言い分はもっともだった。ジョーンズの話ではラリーサは3歳なのに、言葉もしゃべることができない。


「ここを抜けたら、そこで休もう」


 ジョーンズの言葉通り焼け野原を進んでいくと、大きな集落へたどり着いた。宿もたくさんあり市場も賑わっている。

 そこでジョーンズは、わたしに服を買ってくれた。

 最初、断ったが、ラリーサを守るためにその恰好でいられたら、ずっと奴隷だと思われてしまう。注目を集めて動ける範囲が狭くなると脅された。

 確かに、ジョーンズの言う通りだった。


 買ってもらった新しい服にはフードが付いていた。すぐさま着たいと思ったが、まずは体を洗いたかった。

 わたしの髪の毛は緑色をしている。一度も洗ったことがないからだ。さぞかしすごい悪臭を放っているのだろう。人々がわたしを避けるのでよく分かる。


 体を洗いたいなんて、生まれて初めて思った。

 風呂付きの宿は高いため、湯あみだけできる店を探すと、村の入り口にあると教えられた。

 わたしたちは元来た道を戻り、その店へ入った。

 最初にラリーサを洗って、清潔なタオルにくるんだ。ラリーサが妖精だとばれたら大変なので、できるだけ大きな御包おくるみを着せた。


 ラリーサの髪の毛はとても美しい金色だった。柔らかい髪は巻き毛は、彼女の頬のまわりを軽やかに踊るように揺れた。

 あまりにも可愛いため、この子は目を離すと間違いなく人さらいに遭うと思った。


 ラリーサをジョーンズに頼み、次にわたしがお湯をもらった。

 驚いたことにわたしの髪の毛は白金色をしていた。長く切っていなかったので、腰まであった。

 店の者にこの髪は売れるかと聞くと、買ってやると言ってくれたので、喜んで売った。


 手に入れた多少のお金をポケットにしまい、後でジョーンズに返そうと思った。

 体は綺麗になったが、目と鼻と口はどうにもならない。

 わたしの曇った顔を見た店の女主人が、布の切れ端でスカーフにしたらいい、とタダで譲ってくれた。

 ネズミ色のスカーフは、わたしのためにあつらえたような品で、とてもうれしかった。


 最後にジョーンズの番だったが、彼はわたしたちの姿を目から離したくないとのことで、一緒に湯あみを手伝うことにした。

 ジョーンズの体はかなり鍛えてあった。男の裸を見るのが初めてだったので、ものすごく緊張してドキドキが止まらなかった。

 健康的な肌の色、ところどころ擦り傷があり、その部分が少し盛り上がっている。背中は硬い筋肉に覆われて、彼が腕を動かすと肩甲骨が上へ下へと動いた。

 お湯を運んできた女主人がジョーンズをみると、甘い声を出した。


「お客さん、とってもいい肉体をお持ちだね。触ってみたくなるよ」


 ジョーンズは笑って、


「触れてもいいが、やけどするよ」


 と言った。女主人が噴き出してお湯を置いて行ってしまった。

 わたしは笑いたいのをこらえて、女主人が置いて行ったお湯をジョーンズの体にかけてあげた。


「僕は何か変なことを言っただろうか」

「いいえ」


 できるだけ体に触れないように気をつけていたが、うっかり肌に触れてしまう。

 すると、わたしの体は火がついたように火照った。

 ジョーンズの体は本当にたくましかった。


 ようやく湯あみを終えて、ジョーンズが洋服を着た時、わたしは心の底からほっとした。次からは一人で入って欲しい。

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