第2話 楼 えんう

藤の香りに負けず

艶やかな白檀の香りで全身を

包んでいる男が居る。


楼 えんう


長く艶やかな髪を持ち、薄い布を羽織っているがいかがわしさ等感じず、本人の気品の高さが伺えるそんな空気が漂う珍しい場所であった。


藤畑の気高い主である。


「迷子になってしまったのかな?」


向こうから声をかけられた。


「いいえ、望んでここに来ました。

強いて言うのであれば、

貴方の香りに気を取られていたんです。」


「臭かったかしら?」


女性的な柔らかい言葉遣いが香りと一緒にやってくる。自ら観測の為にここに来たと言うのに、

まるでこの場に誘われたような感覚だ。


風に撫でられ藤の花は揺れる。


「いいえ、寧ろ貴方はその香りも美しい。」


「あら、ありがとう。」


ここは彼の為の藤の花園。

彼がここはそういう場所と望んだから、

それ以下も以上もない皆の憩いの場。


「この場の美しさはどこからくるのでしょう?」


「えんうさんから、藤からなのか、

あるいは白檀の香りの誘惑かもしれない。」


藤を撫でる風と艶やかな香りが今日も

この場を満たしている。


新しい嗅いだ匂いはえんうさんが新たに試した

おしろいの匂いだろう。

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