第9話 アイス再び
騎士団長との入れ替わり事件からひと月後、再びのんびりできる時間ができた俺はギルドのいつもの席でお茶を飲んでいた。先日はちょっとした儲け話があったので余裕があったし、怒っていたタシルたちも実際に報酬を山分けしたら、ニコニコで尻の件も水に流してくれた。
丸テーブルで自前の魔術書を読んでいると、久しぶりにアイスの姿を見かける。ただ、どうも落ち着きがなく、ホールをきょろきょろと見渡している。
「ようアイス、魔術師のあの子の面倒はちゃんと見てやってたか?」
もちろんミコルのことだ。この間は地下迷宮探索の募集に来ていたが、悪いことをした。
「げ、なんだよ。ヒモも居んのかよ。見てるに決まってんだろ」
アイスはそのまま訓練場の方へ歩いていく。俺も本へと目を落とすが、すぐにしゅんとした顔をして戻ってきた。何をやってるのか知らないが、興味は無かったので読書に戻る。
やがて手合わせを終えたアリアとヘイゼルが訓練場から戻ってきた。声を掛けようとすると、いそいそと駆け寄ったアイスに先を越される。
「アリアさん、お話があるのですが!」
「さっきから何? 話って」
「できれば二人だけで話したいのですが」
「嫌よ。誤解されたくないもの」
あれだ。アリアは学校の屋上とか校舎裏とかに呼び出して告白とかしたくても、そもそも来てくれないタイプだ。
「そ、そのっ、お願いがあるのです!」
「ちょっ、近づきすぎないで。子供じゃないでしょ。距離は保って」
一歩踏み込んできたアイスにアリアは剣の柄を向けて言うが、さすがにちょっとかわいそうになってきた。アリアもこっちをチラチラ見て助けを求めている。隣に居るヘイゼルも困った様子。しかしアリアには悪いが、そこで口を出すほど俺も野暮じゃない。
「オレと付き合って欲し――」
「無理」
食い気味にアリアは切って捨てると、さっさと立ち去ってこちらにやってきて席に着くなり、俺は頬を抓られる。
「どうして助けないのよ」
そう言って小声で叱られた。ヘイゼルもこれには苦笑い。
「や、男の子が勇気を振り絞ってたからさ」
「あたしが気移りしてもいいんだ?」
「信じてるからね」
「もう!」
アリアはカップを俺から奪ってお茶を飲み干す振りをし、照れ隠しにそのままカップで口元を覆っていた。アイスはというと、唇をかみしめながら俺をねめつけ、去っていった。
「アリア様? ユウキ様は優しすぎるんですよ。あの子に同情してるんです」
ヘイゼルが微笑みながら言う。
「――もしも自分があの子だったらどんなにつらいだろうって」
「確かにそれはつらいな」
「そんな、あたしは――」
「でも、アリアがしっかり断ってくれたのも嬉しくはあるんだ。それも嘘じゃない。俺の自分勝手な感情だから、アリアが気に病むことじゃないんだ。ごめんね」
「……謝られても困る」
俺はアリアへ謝る代わりにおいしいご飯をご馳走すると言って、ヘイゼルと一緒に市場へ誘った。ヘイゼルは――後で参りますのでお二人で先にどうぞ――と再び訓練場へと去って行った。
◇◇◇◇◇
「あっ、あのあのっ! アイスくんはどうでしたか……?」
ギルドを出て市場の方へ向かおうとすると、アリアがミコルに声を掛けられた。様子を見る限り、アリアへ告白することを知っていたようだけど……。
「…………えっ、あたし?」
――これだよ。
「だから、さっきの男の子がアイスってやつだってば」
「あっ、そうなんだ。名乗らなかったから」
アリアは告白してきた相手の名前も把握してなかった。
「まあ、緊張してたんだろ。名乗らなかったアイスが悪いけどさ」
「……そうですか、失敗したんですね」
「お友達? ごめんね、あたしにはユーキが居るから」
「いえ、それはいいんです。でもやっぱり気持ちを打ち明けることが大事だと思いますから、アイスくんもこれで諦めるか、それでも頑張るかわかりませんが、前に進めるでしょうし」
「そうだな。アイスも勇気を出して頑張ってたしな」
「あっ、ユーキさん。先日はありがとうございました。おかげでいい経験になりました!」
ぺこりと頭を下げるミコル。
「いやあ、こっちも騙したみたいになって悪かった。結局、食事も取らずに帰ったって?」
「あわわわわ、そ、そうです。じょ、情報をちゃんと仕入れるいい経験になったかなって!」
「アリア。ミコルはわざわざ募集に集まってくれたんだ。けど、まさか女の子が来るとは思ってなかったからさ」
「ん、それじゃあ一緒にご飯でも食べて貰う? ミシカやヨウカもお世話になったし」
「ああ~……ごめんなさい。教えるのあまり上手じゃなくて、お二人ともまだ上手く魔石を取り出せないんです……」
「ヨウカが雑なのは分かるけどミシカはわからんよな」
ミシカは俺から見ても真面目でこちらの話も聞いていそうなのに、どうしてか魔物の魔石を取り出すとなるとヨウカと一緒に
「ミシカさんは切っちゃダメなところをうっかり切ってしまうので……」
「意外とドジっ子なんだな……。ま、本人が苦労するだけだから徐々に慣れるしかないな。じゃ、とりあえず市場へ行こうか。ご馳走するから」
「はいっ、ありがとうございますっ!」
その後、ヘイゼルと合流して食材を抱えて帰り、御馳走を作って皆で食べたが、何故かアリアはミコルにミリアさんのことを聞いていたな。ミコルに聞いたって分かるわけないのに。
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