第7話 魔術師の女の子
その後、アリアはルシャの付き添いで王城へ向かった。アオがルシャを気に入ったらしくて招いてくれたのだ。貴族たちならともかく、アオなら安心…………安心なのかこれ? キリカはまだ手合わせを続けるようで訓練場に残してきた。タシルとマダキも同じく訓練場。
俺は独りギルドホールへ戻ってくる。ホールで
俺はカウンターに近い丸テーブルへ着く。割といつもの定位置のようになっているが、本来はこのテーブル、ギルドの上級職員が冒険者と話をするときに使われていたテーブルらしい。俺たちも何度か高額の報酬や魔石の買い取りでこのテーブルで上級職員と話したことがあるが、まさかそんなことに使われてるとは知らず、俺はアリアとよくこのテーブルに着いていた。
だって、二人してハブられてたから誰も教えてくれなかったもん。
とにかく、銅貨2枚でお茶のセットを貰い、いつものテーブルに着いて本を読み始める。
ちなみに俺が持ってる本はこれ一冊だけ。この本は大賢者様の所で学んだ魔術や、俺の魔女の祝福が最初から持っている魔法を書き出したものだ。記された魔術はほとんど身についていない。何故なら、読み方や発音がとにかく難解なのだ。リーメが使うような魔術となると、さらに身振り手振りが加わって呪文も長くなる。おまけにあいつはその場で最も効果的・効率的な呪文を計算し、最速で唱える。普段、何もしないようでいてちゃんと見ているし、最適な魔術を惜しみなく使ってくれる。
「だがよおミコルちゃん、魔法もロクに使わない魔術師なんてただのお荷物なんだよ」
俺の居たテーブルの近くで、男がデカい声を上げる。正直俺は、いきなりデカい声をあげる人間が嫌いだ。威圧のつもりか知らないが、人がゆっくり本を読んでいるときにデカい声を上げられるとイラッとくる。
男三人が責め立てている相手。それはいくらかちぐはぐな、おそらくは着こなしていない
ただ、聞いているとこの男たちは、路銀の無い女の子を自分たちの部屋に泊めてやってると言っている。正直、この子が迂闊とは言え、そういう善人を装った下心は不快だった。俺は結局のところ立派な処女厨ではなかったが、これでも一時は処女厨の端くれだった。
俺は立ち上がると――
「いやいやいや、君らおかしいでしょ。それにお金のない女の子を部屋に泊めてあげてるってさ、ちょっといかがわしくない?」
俺は、女の子を視界から外して男たちに意識を集中し――鑑定――と頭の中で呟く。
「うっせえな、うちのパーティに口出すなよ」
「兄ちゃん、見ない顔だな。そんなひょろい体で冒険者か?」
「いや俺、しばらく居なかったけどココ地元だから。君らこそ他所から来た人でしょ。見ない名前だし」
とりあえず知り合いじゃないことにホッとする。いやだって、みんな似たようなヤツらばっかだもん。ときどきパーティ入れ替えてるしさ、人の名前と顔を覚えるの苦手だし。
とにかく、俺の知り合いがこんなみっともないことをしてなくて良かった。
「お前らよ、そいつひだまりのヒモだから気を付けた方がいいぜ」
訓練場から戻ってきたタシルがそう言った。――よりによってその渾名をここで出すな!――という心の声と共にタシルを睨むがあいつは知らん顔。一緒に戻ってきたマダキと一緒にいつもの四角いテーブルへ着く。
キャッ――短い悲鳴が聞こえると、女の子が男の一人に肩を組まれていた。
「ミコルちゃんとはそういう仲なんで、俺たち。な?」
「え? ええ……」
女の子は俯きがちにそう答えた。この子の不用心さにも、男の言葉を肯定してしまうところにも少しイラついていた。そうやって楽ではあるが誤った道を進んでしまうと、後悔しか残らないことを俺は知っていた。
いや、もしかするとこれは同族嫌悪と言うやつなのかもしれない。もし俺が彼女の立場ならどうだったろう? 答えはひとつだ。自分がいくら醜くても、手を差し伸べてくれる誰かが居ることで、自分を許せる機会を与えてもらえる。
「ほんとかよ。その子、震えてるけど?――とにかくさ、女の子を野郎の部屋に泊めて助けてやってるとかおかしいし、魔術師がお荷物ってのもおかしい。魔術師なんて暇なくらいがちょうどいいんだよ。必要なときだけ魔法使ってくれればな」
リーメを思い出しながらそう言う。すると別の男が――
「ミコルちゃんが良いって言ってるんだからいいだろが」
そう言って胸倉を掴んできた。自分より体格が悪い相手を脅すにはちょうどいいよな。
女の子を見ると、流石に口をはくはくさせて何か言いたげ。
「じゃあ聞くけど――君はさ、こいつらとは体を許すような関係なの?」
ちょっと意地悪な質問だった。
だけどこの質問に肯定で返されるようなら処女厨の出る幕じゃない。
「とととととんでもないです。そ、そんな、か、体なんか許しません」
小さな声で慌てながら答える女の子。
なら決まりだ。処女厨は
「痛い痛い! 腕を離せ!」
胸倉を掴んできた男の腕を左手で取り、軽く揉んでやる。するとまた別の男が殴りかかってくる。ギルドホールで喧嘩なんてしていいんですかね? キリカと訓練をした直後で良かった。
「折れる、腕が折れる!」
「別に折ってもいいんだけどさ、受付のお姉さんが怖い顔してるから、その子に分け前渡してパーティから解放してあげてくれない?」
俺が掴んでいる男たちも、悲鳴を上げつつ彼らがアニキと呼ぶ男を説得しようとするが――
「いやおい! こんなの強制される言われは無いだろ!」
尤もな話だった。だから俺は女の子の目線まで腰を落とし――
「そうだよ。だから君が言わないと」
女の子はアニキと呼ばれた男の腕を振り払い、振り返って立ち向かう。
「私の!――正当な取り分を!――要求します! パーティも抜けます!」
女の子は精一杯の声を張り上げ、ちゃんとそう言った。
ギルドの上級職員が顔を出してくれ、彼女の取り分の確保とパーティ離脱の手続きを行ってくれた。ただ、全てが終わってぽつんと取り残された女の子は、今にも泣きそうに見えるほど行き場を失くしていた。
「なあ、どこか魔術師の必要なパーティ居ない?」
「オレんとこなら空いてるぜ。まだ三人だし」
返事をした赤毛の少年とは少々因縁があったが、昨日のことがあったにも拘らず、俺にしっかりした返事を返してきたことを考えると、案外いい奴なのかもしれない。
「アイスんとこが空いてるって。試しに入ってみれば? 入ってみて嫌だったらちゃんと言って抜けなよ」
そう声を掛けるが、両手をぎゅっとひとつに握って戸惑う女の子。
「うっせえ。次から次へと女に手を出すな、ヒモのクセに! お前と違って責任感あんだよ!」
「ああそうかい」
「ああああ、あの、ありが――」
「来なよ! 仲間に紹介するぜ!」
女の子はアイスに引っ張られていった。
ともかく、今回も俺は地母神様の嫌がら――もとい、試練を躱した。俺の周りに女の子が集まりやすいのは、間違いなくあの白団――いや、女神様のせいだなと感じるからだ。
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第2話のユーキ側の話でした。もっとしょーもない裏側にするつもりが、意外と真面目にまとまってしまいました。まあ処女厨脳ですけど。
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