第13話 初めての
「痛いところとか引っかかるところはない? 大丈夫?」
俺は初めて
上半身と違って下半身は軽装。
「大丈夫。軽く動くし、カッコイイ」
「うん、カッコイイ」――とアリアも上機嫌であちこち具合を確かめてくれている。
さらに大型の
「こりゃあ
「ドラゴンってやっぱ居るんだ。これでいける?」
「鱗のある怪物は勢いのついた体に触れただけで肉が削ぎ取られるから鎧は絶対必要だけど、
「アリアはドラゴンに遭ったことあるの?」
「ううん、あたしたちが遭遇したのは
「へえ、お嬢ちゃん、
「一方的に襲われただけなので……。空中から伸ばしてきた足を少し斬り裂くのがやっとでした」
「
「なるほど……」
魔剣と言うのは魔法の力を付与された剣の中でも、特別強力な剣のことらしい。当然、そんな剣が市場に出回ることはまず無い。キリカの聖剣があるにはあるけれど、キリカ本人がまだまだ危なっかしい。
「ちょっとほら、アリア! こっちも見てよ!」
両手を広げてみせるキリカ。彼女も鎧を新調していたが、こちらは全身を覆う板金鎧。辛うじて脚だけが歩くのに向いた前側だけの
傷ひとつない白銀の鎧を纏い、豪奢な金髪を後ろで束ねたキリカは絵になる。兜も髪を出せる穴を開けてもらっていた。
「うん、キリカもいいね。でもまだ背が伸びるかな?」
「どうかしら? あまり伸びてもユーキに申し訳ないしね」
ふふっ――とこちらを揶揄うように見るキリカ。
キリカの鎧の具合を見ているアリアも新しい鎧。
「ユーキ様、おつかれさまです。こちらは終わりました」
声を掛けてきたルシャも新しい鎧。革鎧で肩から腰までを守り、
「似合ってるね。これで安心かな」
「あ、胸が潰れたりはしませんから大丈夫ですよ? これまでも胸当ては付けてましたから」
地母神様の文様の細工を見ていたつもりなんだけど……。
ルシャは弓を引く時に大きな胸が邪魔になると言っていたので、両脇で締め上げられた革鎧は確かにキツそうだった。
「や、そんなことは心配してないから……」
「心配ではないのですか……?」
不安げな顔を見せるルシャ。
「そうじゃなくてその、いま見ていたのは胸の細工であって……ルシャが苦しくないかは心配だけどさ……いや、確かに胸もちょっと心配だけど――」
しどろもどろになっていると――ふふっ――と笑われる。
「はい、ユーキ様がいつも私たちのことを心配してくださってるのは存じてますっ」
「なになに、どうしたの? またルシャと夜の話をしてたのかしら?」
「えっ!?」
「違うから……。ほら、アリアの鎧にもエッチングされてるでしょ?」
「地母神様の文様?」
「そう、それを見てただけで……」
「結局、ルシャの胸を見てたんでしょ? このスケベ!」
鎧の調整を終えたキリカとアリアもやってきてルシャに笑われていたことを問われ、結局また笑われることになったが、とにかくこうして俺たち
アリアとキリカの鎧がそれぞれ金貨22枚ほど、俺のが金貨33枚、ルシャのが
◇◇◇◇◇
下宿まで帰るが、
アリアはそのまま着て帰ったけど、確かにその方が楽そうだった。――ここで装備していくかい?――の意味がよく分かった買い物だった。
「ユーキ、ごはん……」
下宿に帰るとリーメがリビングのテーブルに突っ伏していた。
「リーメ……外で食べて来いよ……」
「やだ、人が多いもん。怖い」
「どんだけ人が苦手なんだよ。俺以上かよ……」
「リーメ、やっぱり下宿の学生向けのご飯、食べさせてもらいましょう」
「やだ、お金かかるし人多いし。それならルシャのパンだけでいい……」
「困ったやつだな……」
まあ、そう言いながらもルシャに手伝ってもらって食事を用意することにする。キリカは部屋に荷物を運びこんでもらっていて、アリアは隣の寝室で着替えている。
下宿は内装も含め、食器やリネン、それから薪や塩など、生活できるような準備が整っていた。
時間がかかったのは衣類や荷物なんかの収納。孤児院や宿屋では
「あれ? ユーキ、まだ行かない?」
アリアが着替えを終えてやってくる。
「ああ、リーメが昼飯を食ってないって言うから」
「そっか。じゃあ待つ」
「ユーキ様、あとはやっておきますからアリアさんと出かけてください」
「いい? ありがとう」
「ありがと、ルシャ」
ルシャもずいぶんと料理を覚えた。やっぱりおいしい物が好きな人は料理を覚えるのも早い。俺なんか、未だに『賢者様』任せだ。『鑑定』の指示通りに動くだけでおいしい料理ができるもんな。
◇◇◇◇◇
ふふん~♪――と、一段と上機嫌なアリアが鼻歌で奏でるのは、人の集まる場所に現れる旅芸人の楽士が先日演奏していた曲。楽器は意外と種類が多くて、リュートや
俺の元居た世界には音楽に溢れていた――と以前、アリアに話をしたことがあった。彼女は目を輝かせていたが、俺自身は性格が性格なものもあって、あまり音楽には興味を持てなかった。確かに好きな曲はあったけれど、どれも楽しかった思い出――幼馴染との思い出――に紐付けされていたように思う。
だから今、俺にとっていちばん好きな曲は、このアリアと一緒に聞いた曲、そしてアリアの鼻歌なのだ。
さて、出かける先は宿屋。ベッドが入ったのでアリアと一緒に引っ越しをする。
ルシャとキリカは来年のはじめ、十五歳で成人するとともに孤児院を出て、下宿に住み始める予定。ただ、新しくできた私物は既に下宿の方へ置くようにしていた。リーメは再来年……の予定だったが、学び舎へ通い始めるとともに早々に私物を全て下宿へ運んでしまった。ベッドの掃除すらままならないうちから。
「最初の頃に比べたら荷物が増えたね」
既に準備を整えていたらしいアリアは荷物を抱えて俺の部屋に来ていた。
俺はと言うと、アリアと一緒に買ったリネンのシーツを畳み、部屋に最初からあったシーツに戻していた。他にも、少しの着替えや大賢者様から貰った俺の勉強の記録や手紙をバッグに詰め込む。冒険のために買った装備が詰め込まれた
「あの頃は何も増やすつもりが無かったからなあ」
俺は最初、この世界はちょっと立ち寄った旅先くらいにしか考えていなかった。チートみたいな力を貰ったわけでもヒーローでも無い。すぐに死んで元の世界へ帰るものだと考えていた。だから死にそうな目に遭っても平気だった。それが自分の荷物が増えた分だけ、この世界に未練ができたのだ。
「よぉ、宿を出るんだって?」
部屋の入口に、細マッチョの男が居た。マシュという隣の部屋の冒険者だ。
「ええ、もう少し広い下宿に移るんで」
「本格的にこの街で住む気になったのか、おめでとう」
「おめでとうって?」
「彼女と一緒に住むんだろ? おめでとうじゃねぇか」
「あ、そうか。ありがとう」
「マシュさん、ありがとうございます」
「まあ、色々あったが、オレたちもまだしばらくこの街に居る予定だ。仲良くしてくれや」
「あー、デイラさんの薬はその、ちょっとあげられそうにないんで……」
「ああ、構わん構わん。娼館まで行くし、そろそろオレも身を固めることも考えないといかんからな」
「それは……おめでとう」
「めでてぇもんかねぇ」――そう言って笑うマシュ。
俺とアリアは最後に宿の主人とおかみさんに挨拶をして、俺がこの世界へやってきて数ヶ月を過ごした宿を後にしたのだ。
◇◇◇◇◇
「あの…………ユーキ。靴下を脱がして貰えるかな?」
えっ?――とベッドで左隣に掛けるアリアへ聞き返した。
引っ越しの夜、リーメに沸かして貰ったお湯で風呂に浸かったあと、寝室のベッドに腰かけていると、後から風呂に入ったアリアがやってきて隣に腰かけた。
二人とも今の恋人関係を楽しみたいという理由から、同じベッドで寝るにしても間違いが起こらないようにと、薄いリネンの足まで覆うワンピース状の寝間着を二人で買っていた。ただ、アリアは靴下を履いていた。
この世界では人前で靴を脱ぐことが恥ずかしいことだとされていると聞いてはいた。冒険者の男なんかは気にもしていないようだが、流石に女性ともなると冒険者でも気にする者は多い。だからアリアが靴を脱いだ姿を見るのはこれが二度目だった。
「その……初めてベッドを共にするときに、好きな人に靴下を脱がせて貰うと幸せになれるって言い伝えがあって……。女の子は好きな人以外には素足を見せないんだ……」
衝撃だった。そんな習慣があったなんて。そしてなるほど、ギルドの男どもが揶揄う意味が分かった。靴下を脱がす――というのはエッチをするって意味だったんだ。
「わかった」
ただ靴下を脱がすくらい、別にフェチとかそういう趣味があるわけじゃないから簡単だった――簡単だったはずなんだが……。
アリアの寝間着の長い裾をたくしあげる。たぶん、アリアはこのために新しい靴下を買ったのだろう。漂白された白の真新しい靴下だった。薄く伸縮性のある生地――確かモスリンと言っていた――はアリアの滑らかな脚の形をなぞっていた。普段、アリアは薄い生地をあまり好まない。寝間着の薄いリネンだって珍しい。冒険者にとっては丈夫さが一番だからだ。
寝間着の裾を膝までたくしあげるも、その膝も白いモスリンで覆われていた。薄い生地から膝の肌の色が透けてみえた。ただ、それでもこれは想定内だった。むしろ、短い靴下の方がこの国では珍しい。男でも長靴下を履くくらいだ。膝上を少し探れば靴下を釣り上げている紐の結び目が見えてくるはず。
ゴクリ――と唾をのみ、アリアの顔を覗き込むとアリアも同じくこちらの顔を覗き込んできた。噛んだ唇が小さく震えているように見えたが、やがて彼女は促すように頷いた。
俺は再び太腿に目を落とした。いつもの引き締まったアリアの太腿は、弛緩した筋肉と脂肪の重さでベッドの上に広がっていた。
「ちょっと持っててもらっていい?」
「ん…………」
寝間着に手を突っ込んでまさぐるわけにもいかないので、裾を下着が見えないギリギリのところまでたくし上げていてもらい、ようやく
「――ユーキ、こっちも」
アリアが反対側を見せるようにたくしあげると、正直、ちょっといろいろ見えてしまったのだが、口には出さずにさらに二本の紐を解いた。
ふぅ――と息を
「えっと……脱がします」
「ど、どうぞ……」
するとアリアが左脚を太腿で交差させるようにこちらへ向けてきた。
突然のことに息を飲むと――
「――えっと、届かないかなって思って……」
「そ、そうだね……」
左脚の
「ご、ごめん、変なところに手を突っ込んで……」
「ううん、平気。それより顔の前に足をやってごめんね」
「ん、アリアの足はかわいいから好きだよ」
「はしたないって思わなかった?」
「かわいいとは思った」
「もう……」
さて、このまま話してると危うい気がしたので、早い所ベッドへ潜り込むことにして誤魔化したが、このままひと晩、アリアに手を出さずに居られるのかって? 俺だって伊達に処女厨をやっていたわけじゃない。アリアは地母神様の企みで今でもステータス上は『処女』だ。『処女』を守るためなら俺はなんだってやってみせる。
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処女厨ユーキの冒険はまだまだ続きます!
続きは本編、第二部へ。
https://kakuyomu.jp/works/16818093078054131450
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