第28話 風呂はまた人を思い悩ませる。

…なんで、あんなことしちゃったんだろ…。


湯船に顔を半分沈めて、思い返す。

お湯で温かいのか、自分の熱で温かいのか…。頬が熱い。


真っ暗闇に光が差して、ミチさんが戻ってきて、それまでの恐怖感が一気に解放されて…怒りが湧いてきたと同時に安心感も凄くて。感情がジェットコースターみたいだ。


ミチさんはずぶ濡れなのに、怒る私を優しく抱きしめてくれた。


力の強さに、ミチさんはやっぱり男の人だと実感する。あの時と同じ安心する腕の中…。


り橋効果なんて、関係ないと思う。

どんなり橋を渡りきったって、ミチさんじゃなきゃ、私はこんな気持ちにはならない。


むしろ、私が怖い目にあった時、必ずいつも助けてくれるのがミチさんなんだ…。



…帰ってきたミチさんから手渡された袋には、着替えになりそうなものが一式と、おまけが付いたペットボトルのお茶が入っていて…それは私が集めていたものと同じシリーズのものだった。

何気なくしたそんな話まで、ミチさんは覚えていてくれる。

偶然かもしれないけど、2人いるのにこれ1本だけなんて、きっと偶然じゃないと…思う。


こんなの、好きにならないわけが無い。

こんなに守られて、丁寧に扱われて…涙が出そう。こんなんで、なんとも思わない人っているの…?


もう、だめだ。


好きなんだ。


どうしようもないくらいに、あの人が…。


初恋もミチさんだった。

1度失恋したと思って、見ない振りしたこの恋は、今また2度目の恋と数えたほうがしっくりくる…。

たぶん、何度奥深くにしまっても、きっとミチさんに恋をしてしまう。


…どうかそんなに大事にしないで。

…勘違いしてしまうから。

…期待してしまうから。



…でも、嬉しいの。どうしたら、いい?


どんな風に思われてても、それが勘違いでも、今はまだそばにいたい。


親友の妹でも、バイトのでも、なんでもいいから、そばにいたい。


…ほんとに?なんでもいいと思ってる?


…嘘つき。


…今はまだ、嘘じゃない。


…いつか耐えられなくなる日がくる。


…その時私は、どうするんだろう。



「あつ…。」


家のお風呂より熱めの湯温が、思考をさえぎる。これ以上は、のぼせてしまう。


『うちの風呂、古いからさ。お湯張ってもすぐ冷めてくるんだ。だから、ちょっと熱めにしてあるけど、熱かったら水とか足して。』


ミチさん、そんなこと言ってたな…。

ミチさんが先に入ったのなら、ある程度適温なのでは…?と思ったら、


『先にほのか入れてやりたかったけど、結局俺が先に使っちゃったから、俺はシャワーだけで済ませちゃったんだ。だから、入ってないよ。元々、シャワーだけの日とかもあるから全然平気。』


…呆れるくらいに気遣いが行き届いている。

きっと、家族でもない、自分おとこが入ったあとの湯船では嫌だろうとか、そんな気を回してくれたのだろう。


…優しすぎるよ、ミチさん…。


そんなことを思い出して、またいよいよ、逆上のぼせそうになったので、ひとまずお風呂からでる。


ミチさんが用意してくれた一式を身にまとう。

下着まで用意してくれたことに、少し恥ずかしさもあったけど、緊急時だし、これを買ってきてくれたミチさんはもっと恥ずかしかったんじゃないか、とも思う。


大人の男の人は、そういうの平気になるのかな…?心は女の子…だから平気…とか…?


…でも、最近少しミチさんの様子が違うような気がする。昔は、私と話している時は言葉遣いが女性よりに感じて、やっぱり心は女の子なんだと思っていたのだけど、最近はその仕草とか、声色とか、優しいけど、男の人だなって思う瞬間が多くなった。お風呂についての気遣いだって、自分を男として見てるから、のそれではないのかと思ったら、なんだか不思議な気がしてきた。

私の感覚が変わってきたからなのかな…?それとも、ミチさんは心もやっぱり男の人なの…?


何かがあって変化したのかな…?それとも元々嘘、だったのかな…?

変な聞き方をすれば傷つけてしまいかねない問題に、また思い悩む。


着終わった一式は、大きいものもあったけどとても身体にしっくりくるものだった。ミチさんって…凄い。



考え過ぎて長風呂してしまった。ミチさんとはるちゃんはどうしたかな…。

私はお風呂場をあとにした。



『ほのか!おかえり、ねぇ、まだ食べられる?!』


ほかほかの私を迎えたのは、少し焦ったミチさんの声だった。


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