第27話 不遇な子猫は絶妙なタイミングをはかる。。

ダンッ…ドサッ…。


背中が…痛い…そして、ケツも地味に痛い。


なんで、こうなったんだっけ…?

あれ、俺、頭も打ってる…?


風呂入れてたら、ほのかの着るものが、どうにもなんないなって気づいて、雨が小降りだったからコンビニ行って、電話してたら土砂降りになって…買ったものはなんとか雨から守って帰って来て、それで…ドアを開けたらほのかが座ってて…。


飛びついてきたんだ…ほのかが…。


…うん、頭は打ってない。

思い出せる、全部、ありありと…。


そして、それが現実であると決定づけるこの…腕の中の…。


涙目の…女子高生。


「えと、あの、ほのか…?」


「なんで…?」


「へ?」


「なんでこんな雨の中、外に出たの…?」


「えっ…あぁ、ほのかの服、代わりになりそうなもの何にもなくて…雨が少し小降りになったし、ちょっとコンビニ行って買ってきちゃおうかなって…。えっ…ちょっと…ほのか…?!」


涙目だったその大きな目は、もはや決壊してぼたぼたと涙が溢れる。


「…一言言ってくれたら、良かったのに…。」


「言ったらほのか、『私は大丈夫』って遠慮するでしょ…?だから、メモだけ残して…。」


「…停電で、見えなかったの。メモに気がついたけど、近づいたときにはもう真っ暗で…。」


ぽつりぽつりと、話すほのかは、もう涙を拭うこともせずに俯いたままだ。

こんな顔させようと思ったわけじゃない。

何やってんだ俺は…。 


「そっか…心配させちゃったのね。ごめんね。」


「やだ…、もうしないで。」


「ほのか…。」


普段からあまり怒らないほのかが発する強い響きに、彼女の顔を覗き込む。怒ったような拗ねたような、そんな響きを含むその空気が、彼女の心細さを伝えてくる。

もう、雫こそ落ちないが、目はまだ涙をたたえたままだ。


「…なかなか帰ってこないし、なんで…どこに行ったか分からないし、雨は強くなってくるし、風も…停電だってっ…ひっ…く…メモあったって、暗くて読めないし、スマホで明かり取ろうと思ったのに、充電は切れてるしっ…ひっ…く…ふぅっ…う…ぐすっ…。」


淡々と始まった抗議は、いつの間にか涙声になって、また、溢れ出した涙は頬をつたう。


「ごめん、ごめんな…。」


腕の中で泣きじゃくるほのかを思わず抱きしめる。


『にゃ…あ…。』


腹の方で、ちょっとくぐもったはるの声がする。


「おわっ…はるっ…お前も居たのか…。」


ほのかに抱かれていたはるは、支えを無くして、とっさにしがみついたまま、ほのかと俺の間で静かに挟まれていたらしい。

そして、一気に冷静さを取り戻す。


「あっ…あの、ほのか…さん…?」


「…。」


「あのね、俺ずぶ濡れだから…離れた方が…。」


「えっ…あっ…ごめんなさいっ…。」


急に我に返ったほのかが、飛び退くように離れる。はるはまた放り出される。


「えっと…あのっ…とりあえず、お風呂っ…。」


「あっ…うん、そうね、さっさと入っちゃうわ。ほのかは大丈夫?濡れてない?」


「えと、あの…、う、うん、だいじょ…ぶ…です。」


…なんか、顔が見れない。

俺もそうだけど、ほのかも顔を、合わせようとしない。怒ってるようでは無さそうだけど…。もちろん、俺も怒ってはいない。


『はっくしょん。…』


…とりあえず、風呂入ろう…。

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